日本での「オンライン・ショッピング」における売り上げの割合は、リアル店舗の売り上げ全体における約3~4%程度の規模と言われます。今このオンラインがネット上の買い物に限らずに、さまざまなコミュニティやつながりからリアル店舗への誘引や、そこでの買い物行動への影響について注目されています。
国内のリテールやメーカーにかかわる人たちも、スマートフォンの普及率に関するマーケティング・データ(日本では最も高い数値で約23%と言われます)以上に、今後オンラインによるさまざまな取り組みが、リアル店舗での購買行動にも大きく影響してくることを確信しているのでしょう。今回は、O2O(オンライン・ツー・オフライン)について、米国の流通小売業におけるいくつかの展開を見ながら、日本のリテールとメーカーそれぞれの視点からハカってみたいと思います。
日本の「総合業態」と「専門業態」について
まず、米国の流通小売業のプロモーションに目を向ける前に、日本のリアル店舗(実店舗)の状況について触れてみます。日本のリテールを総合業態(百貨店やGMSやディスカウントストア)と専門業態(家電量販店やドラッグストアやアパレル専門店やホームセンター)に分けると、「総合業態の伸び悩み」と「専門業態の伸長」は明確です。
総合業態は、ここ5年間で売り上げを約3兆円落とし、専門業態は同期間で約2兆円近く伸ばしています。こうした危機や変化から、オンラインによる新しい取組みについて「総合業態」は回復の機会や材料として、一方の「専門業態」は新たなチャネルや仕組みづくりとして、その効果に期待しています。
「第10回コラム」(テーマ:O2Oは、これからどう近づくか?)では、米国小売業の展開から店舗で働くスタッフと買物客との関係づくりを築いている高級デパートのニーマン・マーカスの展開を、また自社ホームページの動画サイトを使用してさまざまなコミュニティを展開している食品スーパーのホールフーズマーケットについて紹介をしました。オンラインを活用して、オフラインでの買い物や来店促進に結び付ける<事例>としては、他に次のようなケースがあります。
〈ケース・スタディ〉 ウォルマートのケース
全世界で売り上げ1位を誇るウォルマート(年商約32兆円。日本のセブン&アイ・ホールディングスは小売業の世界ランクで見ると第11位 メーカーのトヨタは年商約16兆円で全世界の売り上げでは8位になります)によるオンラインで注文をした商品をリアル店舗で引き取るサービス「Web Pick Up」があります。
ウォルマートのオンライン(通販サイト)で購入した商品を、最寄りの店舗で引き取ることができます。送料は無料、購入日に引き取ることが可能です。また、商品を受取る際に予想される混雑回避として、タッチスクリーンで操作できるコンピューターを受け取り場所に設置し、待ち時間が短くなるように工夫しています。
〈ケース・スタディ〉 ウォルグリーンのケース
また、米国のドラッグ・チェーンのウォルグリーン(店舗数約8000店舗)では、オンラインの活用からオフラインへ結び付ける仕組みとして、処方箋管理アプリ「リファイルバイ・スキャン」が注目をされています。処方箋をスマホから発注できる同アプリの主な機能について紹介します。
- 処方箋が入っているボトルや袋に付いているバーコードをスキャンし再購入が可能。再購入(リファイル)の際の手間を省けます。
- GPSを利用し現在地を特定、同商圏で発行しているチラシを表示。買いたい商品を買物リストに入れることができます。
- 買物リストを作成、チラシ機能で登録した商品を買物の参考にすることができて医薬品の購入履歴の管理も可能。
処方箋を写真としてサーバ上に保存しておき、店舗でプリントして確認する機能を持ちます。 - また、インフルエンザ予防接種が可能な店舗を絞り込んで表示します。(第8回コラムYou vs Flu で紹介しました。米国では、インフルエンザの予防接種をドラッグストアの店舗で受けることができます。この予防接種の促進を目的にしたプロモーションとして同店のギフトカードの提供がされていました。)
リテールの視点から捉えたO2Oは、買物をするお客さんへ商品の価格やサービスに関する情報や特典の提供を行うことによる口コミ効果を期待する段階から、もう一歩踏み込んでお客さんとの関係や、リアル店舗に足を運んでもらうことの意味を重視した取り組みが見られます。そして、今後各社が追求するテーマとしては「より快適なお店や買い物やサービスをオンラインでコミュニティして、オフラインで実感してもらう」。これを企業独自の特徴を打ち出す事を意識しはじめています。
メーカーの視点から。
では、O2Oをメーカーの視点から捉えた場合は、どうでしょうか?
現状のメーカーのO2Oの活用を見ると、クーポンの配信やキャンペーンの応募促進が中心です。そして、これらクーポン等の利用先や商品を扱う先は当然リテールのリアル店舗になります。
メーカーの一部の直営店舗を除けばメーカーは売り場を持たず、自社の商品は問屋や卸などを介してリテールの売り場に並べられます。
つまり、ここに“ポイント“があります。お店を持つのであれば自社が主体になり、オンラインによるプレゼントや割引クーポンもチェックイン・クーポンも配信から展開までひとつの流れとして行えますが、メーカーは店舗と取引を行うことで、O2Oによる連携が成り立ちます。それでは今後、多くのブランドや商品とそれらに多くのファン(ブランド・ユーザー)を持つメーカーは何を行えば良いでしょうか?
これらのヒントは、リテールの現状の課題を見る中にあります。前回のニーマン・マーカスやホールフーズそしてウォルグリーンの成功のポイントは、買物客の行動やニーズに応えたリテールの店員の努力やスキルがありました。
現状国内のリテールでの業務作業を見ると、それだけの対応や買い物客の情報を把握する為の時間や情報のストックがありません。リテールおいてもO2Oは、今後の大切なテーマと認識をしながらも、取り組む具体的な対策については、まだ行動に移すための検討をしています。
そこで、メーカーはリテールの課題を共有して、メーカーの持つ情報や対応力によってリテールと〈協働〉し、これからの時代や社会の中で、どういった売り場を一緒につくり、それをオンラインによってつないでいくかを考えることが大切になります。メーカーによるリテールのオンラインを活用した自社商品のテスト・マーケティングは、取り込もうとするリテールの商圏の買物客を捉えた「商品の開発・改善」といった取り組みの一つと言えます。
リテールもメーカーも今行うことは。
その取組みのための準備として必要なのは下記の3点です。
- もう一度、買い物客のリアル店舗の利用実態の把握。
- リアル店舗を利用する買い物客のオンラインの利用実態の把握。
- リアル店舗を利用する買い物客が望むオンラインとオフラインにおけるインサイト。
日米のO2Oについての比較は、日本のリテールの利用層(業態によって大分異なりはあります)におけるスマートフォンの普及率に大きな開きがあることから、それぞれの課題を整理しておくことや、中期的な視点で捉える必要があります。リテールとメーカーの協働については、現状のマーケティング活動やプロモーションの展開においても言われることですが、O2Oにおいても同様の考え方や取り組みが求められます。
「新しい価値のカタチが創れるか?」リテール、メーカーの視点の一致ポイントもここにあります。
次回のテーマは、「買物をお手伝いするロボットカートと動くチラシ」です。
倉林武也 「最新米国小売業からプロモーションをハカる」バックナンバー
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- 第10回 オンライン・ツー・オフライン(O2O)は、これからどう近づくか?(5/15)
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