「宣伝会議インターネットフォーラム2012」が6月6日、東京都内で開かれ、フェイスブックや動画活用、オウンドメディア、ECなどを、デジタルメディアやツールを活用したマーケティングをテーマに多くのセミナーが行われました。その一部を6月から7月上旬にかけて、本欄で紹介します。
矢野雅之氏(全日本剣道連盟/情報・登録部門主幹代理)
剣道がなぜソーシャルメディアを選んだのか
全日本剣道連盟は国内で剣道を統括する組織として1952年に設立され、60年の歴史があります。そんな最先端とは程遠いイメージの剣道がなぜソーシャルメディアへの道を進んだのか。それには剣道を取り巻く現状に理由があります。具体的には、(1)少子高齢化の影響による剣道人口の減少、(2)メイン大会である全日本剣道選手権への来場者数の減少、(3)韓国との剣道起源問題について正しい認識を特に世界に向けて発信する必要があること、(4)剣道をメディアに取り上げてもらうことが難しいということが挙げられます。
そこで、「自分たちで積極的に配信するしかない」という思いで2008年からソーシャルメディアの活用を始めました。初めに1953年に開催された第1回「全日本剣道選手権大会」の動画をユーチューブにアップしたところ、世界から多くの反響をいただき、日本の剣道が古い歴史を持っていることをアピールすることができました。またフラッシュを利用した大会特設サイトも立ち上げ、剣道の“気合い”の声を着メロや着ボイスとして配信する取り組みを行い、主に10代後半~20代前半の人がダウンロードし、数多く活用していただきました。
そのあとは、ツイッター、ユーストリームを使用したライブ中継、写真共有サービスのフリッカーを開始したほか、「窓口がわからない」という人の声を受けWebサイト「Kendo Headline」を開設し、全ソーシャルメディアをひとつのページで一覧できるようにしました。こうした施策の結果、ソーシャルメディア開始時に7517人だった全日本剣道選手権大会への来場者数を2011年には8874人と1300人以上伸ばすことに成功したのです。
ユーザーの意見には“行動で示す”
全日本剣道連盟にとってのソーシャルメディアの一番の特長は、大会を中心にソーシャルメディアを活用し、視聴者と“今を共有する”ことを心掛けていることです。視聴者からの意見を聞いて反映するソーシャルリスニングが大事になります。そこで気軽にコミュニケーションのとれることが魅力のツイッターですが、全日本剣道連盟は馴れ合いにならないため、あえて直接のやり取りはしません。一方通行で情報を発信したあと、いただいたつぶやきには返事はしませんが実際に行動で示すようにして返しています。
従来、大会を盛り上げる手立てはポスターぐらいで、コストもかかり、貼る場所も限られていました。ライブ観戦にしても、会場に来てもらわなければ見ることができず、メディアにも小さくしか取り上げてもらえません。それをソーシャルメディアに切り替え、大会前から終わったあとの“余韻”までをソーシャルメディアを使い分けることで、その時に見合った情報を常に発信することができるようになり、その都度ユーザーと情報を共有することができるようになりました。
ソーシャルメディアは自分たちがシステムを作るわけではないので、知らない間に勝手に変わっていってしまうことがあります。それに注意しながら、「守破離」の精神のように、自分達のニーズに合わせてオリジナリティを加えていき、少しでも進化し続けていくことが必要なのではないでしょうか。全日本剣道連盟もそのようにこれからも進化していけたらと思います。
次回は日本サブウェイです。
連載【インターネットフォーラム】バックナンバー
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