「宣伝会議インターネットフォーラム2012」が6月6日、東京都内で開かれ、フェイスブックや動画活用、オウンドメディア、ECなどを、デジタルメディアやツールを活用したマーケティングをテーマに多くのセミナーが行われました。その一部を6月から7月上旬にかけて、本欄で紹介します。
高橋淑恵氏(フィリップス エレクトロニクス ジャパン/カントリー インターネット マネージャー)
30冊のデジタルガイドライン
当社にはブランドロゴや写真など多くの事項に関する厳密なガイドラインが存在します。デジタルタッチポイント(デジタル全般)に関するものだけで30冊に及び、うち10冊がソーシャルメディアに関する内容です。1冊が64ページにわたるものもあります。こうしたガイドラインを守りながら、日本では3種類のフェイスブックページと2種類のツイッターアカウントを運営しています。
オランダ本社が作成した膨大なガイドラインは、世界100カ国以上に展開する支社において使用されるものですが、当然、各国に合わせる作業、いわゆるローカライズが重要です。
そのために行っていることは、まずソーシャルメディアプランニングシートの作成です。ソーシャルメディア名やURL、目的や対象消費者、戦略、効果測定方法、成功要件など13もの項目を記入して提出し、承認を得なければなりません。ときどき「とにかくフェイスブックを使いたい」というマーケティング担当者がいますが、運営に関する具体案がないとこのシートを埋められないため承認が下りません。
次に、プロジェクトメンバーの設置です。キャンペーン実行者やインターネット担当、リスク管理、広報、法務、実行部隊管理者、コミュニティマネージャー、コンテンツ制作者、分析担当者と合計9の役職を設置しています。ひとりが兼任しても良いですし、すべて外部に委託してもかまいません。
日本で起きそうな問題の予見とそのための準備も重要です。製品のクレームや削除すべき投稿の扱い方、犯行予告や自殺予告、「炎上」しそうな内容に随時対応マニュアルを作成します。「炎上」は起こり得るものです。しかし、事前準備によって最小限にすることができます。
鍵はコミュニティマネージャー
一番大切なのは、毎日SNSに投稿する役割を担うコミュニティマネージャーです。コミュニティマネージャーには、SNSへの知識は当然のこと、ネットリテラシーや危機管理意識、ネットユーザーとの高いコミュニケーション能力や分析能力が求められます。この資質を持つコミュニティマネージャーが、ソーシャルメディア運営の成否を大きく左右します。
当社では、「フィリップスメンズグルーミング」と「フィリップスソニッケアー」と2種類のフェイスブックページを運営していますが、それぞれ役割が異なります。前者は、情報発信によりブランドを成長させるための「発信型」。後者は、ブランドがある程度成熟しているため、ファン同士が魅力を語り合うことで新たな顧客を集める「集客型」です。
運用してわかったことは、低予算では運用できないということです。さらに、センスのあるコミュニティマネージャーが必要であること、そして「炎上」を恐れず、多種多様な意見を受け入れる準備が必要だということです。
「低予算で」「手軽に」「すぐ」できるイメージの強いソーシャルメディアですが、事前準備を万全にしてこそ消費者と深い関係性を築くことができるのです。
次回はニューバランスジャパンです。
連載【インターネットフォーラム】バックナンバー
- (10)日本サブウェイ「素早い顧客対応がソーシャルメディア活用の鍵」
- (9)全日本剣道連盟「ソーシャルメディアの運用に『守破離』の精神」
- (8)A-Sketch「いま、消費を喚起するのは“経験価値”」
- (7)ダイキン工業「ユーザーと購買決定者のニーズは違っていました」
- (6)基調対談:資生堂×トヨタ「オウンドメディア運営は自社だけではできません」
- (5)デル「ソーシャルメディアの関与で購買行動は線形から環状へ」
- (4)伊藤ハム「愛されるキャラクターでソーシャルメディア・コミュニケーションが円滑に」
- (3)タワーレコード「ファン目線だからこそ共感され、絆が生まれる」