「宣伝会議インターネットフォーラム2012」が6月6日、東京都内で開かれ、フェイスブックや動画活用、オウンドメディア、ECなどを、デジタルメディアやツールを活用したマーケティングをテーマに多くのセミナーが行われました。その一部を6月から7月上旬にかけて、本欄で紹介します。
南曉氏(ライオン/ヘルス&ホームケア事業本部薬品事業部ブランドマネジャー)
強敵に戦いを挑む
「ストッパ」は一般には下痢止め薬と呼ばれますが、薬業界では「止瀉薬(ししゃやく)」とカテゴリーされている商品です。止瀉薬市場は、その過半数を大幸薬品の「正露丸」が占拠し、そこに2003年市場参入したライオン「ストッパ」が戦いを挑んでいる状況で、戦いの構図としては、100年以上続く安心・安全の正露丸に対し、「突発性の下痢に、水なし一錠で効く」という先進性、即効性をストッパが打ち出していくといった形になっています。
ストッパは発売1年目でシェア10%を獲得しました。これは、保守的と言われる薬品市場ではとても画期的なことです。しかし、その後もシェアを伸ばしていくものの徐々にその伸びは減速し、2009年には初めて前年割れするという状況に至りました。
そこで、2010年にコミュニケーション戦略の大幅な見直しを行うことになり、まずテレビCMの内容を変更したほか、ターゲットと親和性の高いメディアを探り、効果的なコミュニケーション方法を模索しました。これがスマートフォンアプリ「@トイレ」の開発につながります。「@トイレ」は、駅トイレ情報、GPSと連動したトイレマップ、トイレを利用したユーザーがランキング形式で評価するトイレランキングの3つで構成されたアプリです。
ストッパのメインユーザーは都市圏に住む20代から40代の男性が中心です。一方、スマホユーザーの属性を分析すると、2011年時点ではユーザーの7割が男性でした。さらに、20代から40代男性に限定しても全ユーザーの5割以上を占め、またエリア別でも都市部でのユーザーが圧倒的に多く、ストッパユーザーとスマホユーザーの親和性はかなり高かったのです。
全体の5%に入ることがアプリ成功の第一条件
「@トイレ」のダウンロード数は約1年で約10万を達成しました。特に、ストッパのブランドコンセプトである「急な(下痢の)危機からお客様を救いたい。」という考えのもと、災害時を想定して制作したGPS連動のトイレマップをコンテンツに加えたことで、東日本大震災の時は一気にダウンロード数が上がりました。
世の中には50万を越えるアプリが存在していますが、10万を越えるダウンロード数を獲得するアプリは、全体の5%ほどで、この5%に入ることが成功の第一条件だと考えています。その理由として、一つは首都圏のコアユーザーの20人に1人がアプリを保有する計算となり、ターゲットにダイレクトにコミュニケートするツールとしての機能が見込めること。もう一つは10万ダウンロードを達成するアプリは、人気ランキングで総合100位以内、カテゴリー別で50位以内に入る可能性が高く、自らユーザーを呼び込む自立した広告メディアとして成立するからです。
ダウンロードしてもらうためのポイントは3つです。1つ目は「直感的」にユーザーを惹きつけるコンテンツであること。私は「アプリ選択の3秒ルール」と言っていますが、ユーザーは膨大な数のアプリの中から1つのアプリを選ぶのに時間をかけません。よって、瞬間的にユーザーの心を掴む顔つき(コンテンツ)のアプリであることが大切です。
2つ目は吸引力があること。吸引力のキーワードとしては、「新規性」「社会性」「エンターテインメント性」の3つが挙げられます。そして、長く愛されるアプリになるためにはコンテンツとしての奥行きが必要です。使ってみたら結構面白い、飽きない仕掛けがある。そういう吸引力が重要になります。
3つ目は戦略性です。「短期勝負」で行くか「ロングラン」で行くか、最初から戦略性をもってアプリを制作していく必要があると思います。私たちが扱っている薬はロングテールの商品が多いので、長くお客さまと付き合える構造を考える必要がありました。
@トイレでは、その効果測定の指標の一つとして「PRV(PR価値)」という独自の考え方を導入しました。これは、@トイレに関してマスコミが取り上げてくれた記事などを、もし広告媒体として購入した場合いくらに相当するか金額換算し、そのトータル金額をもって効果測定を行うというものです。@トイレのサービス開始から6カ月後のPRVを計算したところ、8000万円程でした。@トイレの開発費が1000万円程度でしたので、その時点で開発費の約8倍のPR効果があったという計算になります。さらに現在、サービス開始から約2年が経過しますが、現時点で6億円強のPRVを獲得し、自前の広告媒体として十分に機能しています。
IMC(統合型マーケティングコミュニケーション)の中心にテレビがあるのは今後も変わらないと思います。ただデジタルメディア、ソーシャルメディアが台頭しているのも事実で、今後IMCの構造変化は必至と考えます。その構造変化において、スマホアプリはメディアの主役となる力はないものの、キーメディアとなることは明白であり、今後の宣伝・マーケティング上で重要なファクターとなると思います。
次回はヴァージン アトランティック航空です。
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