「広告媒体」を購入しなくてもマーケティングは可能
さて、Inbound marketingが「今」なのは、上記した検索活動が購買プロセスの重要な部分を占めているから、というのは一つの要素にすぎない。もう一つ重要なのは、中小企業やB2B企業のように、従来は「広告主として存在していなかった」ような企業が今では立派な「広告主」になる状況が発生している状況がある。
この状況を生み出したのは、AdWordsのような広告の仕組みであり、新たな広告主・マーケターが多く誕生している。つまり、AdWordsを中心としたオンライン広告ビジネスの発見の中で、「潤沢に“媒体費”はもたない」がマーケティングを必要視している企業はたくさん存在するということがわかったわけだ。こうした「新しい広告主」でさえ一段落しており、次の一手を求めている世の中になっている。そしてそれは必ずしも「広告」であることを求められているわけではない。そうした広告主が多数生まれていること。こうした背景から、HubSpotは「今」なのである。
例えば、縦軸にB2C/B2B、横軸にマーケティング予算のサイズをおいて6つのマス目を作ってみると次のようになる(図1)。これまでの「広告市場」は「広告媒体の取引市場」とほぼ同義であり、これらの購入をめったに行わない左の3つの企業カテゴリーは「広告市場」に参加することがなかった。それが出来るようになったのは、興味やニーズに応じて起こる情報行動=検索行為によって、情報を探している側とのマッチングが可能になり、そこに「検索連動型広告」を出稿することができるようになったからだ。
テレビであれ雑誌であれ、これらは大きな視聴者・読者を抱えており、それらにマッチする企業であれば、充分に広告を出す理由ができるが、一方で、スモールビジネスやミッドサイズのビジネス、B2Bなどの市場では、そもそも「出すに値する」広告媒体が存在しないことが多い。つまり出稿すべき媒体がないのである。しかし一方で、検索のような市場では、あるキーワードが検索される数の分だけターゲットがいることになる。このあたりの発想の転換が、inboundの inbound たる所以なのだとわかってもらえるだろうか。
いわば、どんな規模の企業であっても簡易に買えるAdWordsのようなものが「広告市場」を拡張し、その広告主たちの次の一手としてInbound marketingを使うのは、至極当然の流れのように思える(図2)。おそらく、これらの広告主も含む世界を「マーケティング市場」と呼ぶのが的確なのかもしれないが、こうした「マーケティング市場」から見ると「広告市場」と言うものも相対的に小さくなってきている可能性がある。
しかし、それは「広告媒体」を購入しなくても、マーケティングが可能であるという至極当然なことの再発見でもある。かつ、大きな広告予算を持っている企業しか参加できない従来型メディアを使った広告に比べ、予算少なめの企業でも参加ができるマーケティングの仕組みであり、かつ、ユーザーにそっぽを向かれると成立しない(=ユーザー主導で考えないとサイトに来てくれない)ということは、非常にネット的/民主主義的なマーケティング・コンセプト=Inbound marketing ではないだろうか?
次回(最終回)は5日掲載予定です。
【おことわり】高広伯彦さんのコラム「アメリカで注目を集めている“Inbound marketing”とは何か」の最終回をお待ちの皆様、6日(明日)午前中に掲載する予定です。何卒よろしくお願いします。
高広伯彦の“メディアと広告”概論 バックナンバー
- 第24回 アメリカで注目を集めている“Inbound marketing”とは何か(3)(6/26)
- 第23回 アメリカで注目を集めている“Inbound marketing”とは何か(2)(6/22)
- 第22回 アメリカで注目を集めている“Inbound marketing”とは何か(1)(6/20)
- 第21回 ソーシャルメディアの時代なので、クチコミマーケティングを再考しよう:6(9/26)
- 第20回 コンテクストが理解されにくい背景~ツイッターで誤解がおきやすい理由(6/6)
- 第19回 ソーシャルメディアの時代なので、クチコミマーケティングを再考しよう:5(5/16)
- 第18回 ソーシャルメディアの時代なので、クチコミマーケティングを再考しよう:4(5/9)
- 第17回 ソーシャルメディアの時代なので、クチコミマーケティングを再考しよう:3(4/25)