1971年創業「清原」(滋賀・守山) 清原みどり氏の場合
国内企業によるブランドマネジメントの取り組みを紹介する本連載。今回は1971年に創業、滋賀県守山市のふくさメーカー「清原」において、2010年に立ち上げた和雑貨ブランド「和奏(わかな)」の担当者が登場。日常的に“包む”という行為を取り入れた、独自商品を提案している。
※『宣伝会議』15日発売号にて、宣伝会議主催のブランドマネージャー育成講座と連動して連載中のシリーズ「日本企業とブランドマネジメントの今」より抜粋。本記事は2012年4月15日発売号に掲載されたものです。
デジタルカメラ用も開発 日常で使える「ふくさ」提案
滋賀県守山市を拠点とする「清原」は、慶弔に用いる台付・金封ふくさの製造元として1971年に創業した。近年、ふくさの製造に携わる職人は全国的に減少傾向にあり、清原は国内におけるふくさの製造シェアで7割以上を占める。売上高の9割を占めるのは百貨店や呉服店で販売される卸の製品だが、2010年には和雑貨の自社ブランド「和奏(わかな)」を立ち上げた。
他社の和雑貨と異なるのは、ふくさを軸にした商品を揃えている点だ。ベーシックなふくさはもちろん、ブライダル専用のふくさ、デジタルカメラを包むサイズのふくさを扱っている。ネット通販のほか、百貨店の催事などでも販売してきた。
このブランドのマネジメントに携わる清原みどり氏は、百貨店勤務を経て2006年に家業である清原に入社した。元々、同社は京都の風呂敷メーカーでふくさの製造を専門に手掛けていた祖父が独立して立ち上げた会社だが、清原氏が自社ブランドを立ち上げたのは「若い世代にもふくさの想いを伝えられる和雑貨を作りたい」との思いからだ。
ふくさとは、もともと贈り物を届ける際に道中での日よけや塵(ちり)よけのためにかけられていた布のこと。日本ではむき出しで金品を贈答する行為は失礼に当たるように、ふくさには「ものを包んで、相手への想いを贈る」という日本人の心と精神的な思いやりが詰まっている。
「包むことでものに対する敬意が生まれるし、気分が整う。そんな日本人独特の感性を、日常に取り入れられるアイテムからも感じてもらえれば」と清原氏は語る。
約30人が働く社内では唯一のブランドマネージャーとして、商品企画の中心的な役割を担っている。「伝統的な縫製技術はもちろんのこと、ふくさに込められた職人の思いや、日本人独特の感性が息づくような商品づくりを大切にしていきたい」といい、ブランドイメージをデザイナーと共有しながら、開発に取り組んでいる。
また「和奏」というネーミングに「いろんな人の想いや感覚を奏でるようなものづくりをしたい」という願いが込められているとおり、清原では数年前から、滋賀県立大学生活デザイン学科との産学連携による商品開発をスタート。最初に開発したのは「ハニカム構造」と呼ばれる独特の形状のカードケースで、コンセプトは「洗練された整理術」。財布に入れたカード類などを探すのに手間取るシーンが多いことから、スマートに取り出せるカードケースを目指し生まれたものだ。
また、前述の「ブライダル専用のふくさ」も、同大学の学生と開発した商品である。光沢のあるピンクやパープルの生地を使い、パールをあしらったシルバーのチェーンで中身を包むというもので、若い世代でもお祝いのシーンで使ってみたくなる、洋風のふくさに仕上げた。
ブランドの原点にあるのは「思いやりを大事にする心」
地元・滋賀に根ざしたものづくりにこだわり続け、現在では「和奏」ブランドや「ハニカム構造」のカードケースは滋賀県における「地域産業資源活用事業認定商品」となったが、今後もブランドを通じて「ふくさ」という形に表れた日本人の感性をより広く伝えていきたいという課題は変わらない。
そこで清原氏は2月、宣伝会議が主催する「ブランドマネージャー育成講座」を受講した。ブランディングの基本を学ぶとともに最も刺激を受けたのは、さまざまな業種のブランドマネジメントの考え方だ。
「メーカーである自社の目線だけでは、従来の商品をつくり続けることを第一に考えてしまう。伝統的な習慣や文化を大切にしながら新たなデザインや用途を取り入れて、“包む”ことにこだわった和雑貨を生み出していければ」。
かつて百貨店の化粧品売り場で働いていた清原氏らしく、今春には化粧道具を収納するふくさを発売する。このほかワインボトルを包むふくさなども考案し、新たな使用シーンを提案していきたい考えだ。
ふくさの原点である“心を包み、想いを贈る”という行為を通じて、「思いやり」を演出する商品を送り出すのも、「和奏」ブランドの新たな目標となっている。
清原みどり氏
(Midori Kiyohara)
滋賀県生まれ。イベント企画、大手百貨店化粧品担当を経て、家業である「株式会社清原」に入社。ふくさの全国シェア70%以上を占める縫製の強みを生かしたブランド「和奏~心を包み、想いを贈る~」の企画を担当。
シリーズ「ブランドマネジメントの今」
- 第7回 北欧発アパレルの日本版を開発、創業社長が取り組むブランド化~シリーズ「ブランドマネジメントの今」
- 第6回 5年以内に受験者数4万人が目標。財団法人のテスト事業をブランド化する
- 第5回 革新的な取り組み続ける京都の料亭 ブランド資産を記録し、組織としての成長へ
- 第4回 サイクルが早い新商品開発の現場 長期的なブランド育成が課題に
- 第3回 江戸の創業から300年続く、老舗流のブランドマネジメント
- 第2回 「“相互信頼”で日本のカジュアルを新しく」二代目社長が目指すブランドづくり
- 第1回 日本の老舗企業には、何百年も前から「ブランドマネジメント」が根付いていた?
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開講日 2012年7月25日(水)~27日(金)