今年5月末、ツイッター上で2人のジャーナリストによる興味深いやり取りがあった。「ああ、わかってはいるけど、会見に芸能人呼ばないで、と今来たメールを見て嘆息」、「たぶん同じ案内を見て、マリアナ海溝よりも深く同感。記者会見に芸能人はいりません。主役は商品・サービスなのに、芸能人のつまらんトークショーや小芝居はいらん」――そこから繰り広げられる、今の日本企業の記者発表会に対する嘆き。
これは、ビジネス誌、新聞、ウェブなど多くのメディアで執筆活動を行う、ガジェット系フリージャーナリストの西田宗千佳氏と神尾寿氏によるもの。海外の記者発表会を取材する機会も多く、6月中旬にアメリカで行われたアップルの記者発表会取材から帰国したばかりのお二人に、取材する側の観点から今のPRイベントに対してどう思うか聞いてみた。
格言1:メディアによって求める情報が違うのに、全てを一緒にされると聞きたい情報が聞けずに困る
西田「まず、いろんなメディアがある中で、全てのメディアを一緒にして発表を行うことはやめてほしい。メディアによって求める情報が違うのに、全てを一緒にされると聞きたい情報が聞けずに困るんですよね」
神尾「リリースだけじゃ分からないことが聞きたくて発表会に足を運んでいるのに、取材スタイルが違うメディアと一緒に同じ説明を受けても意味がない。きちんとテーマとメディアに合わせて発表を分けてほしい」
西田「我々だけでなく他のメディアも思っているはず。芸能メディアと同じ内容を発表されて我々が困るのと同じように、我々に向けた発表と同じ内容を芸能メディアにしても困るはず。せっかくお金をかけて発表するのですから、もっとその場をうまく活用してほしいと思います」。
格言2:タレントの選定を間違えている企業が多い
神尾「あまりに発表内容とリンクせず、語れない芸能人の起用が多い。本当にそれで良いのかと思ってしまいます」。
西田「商品を語らせたりという意図でなく、華を添えたり、画作りという意味合いで起用している、というのは分かりますが、それにしてもタレントの選定を間違えている企業は多いですよね。発表内容とまったくリンクしていないのに、“旬”というだけで起用している節がある。それでは文脈がつながらないのは当然。タレントに集中した露出ばかりになって当たり前ですよ」。
神尾「正直なところ、商品をきちんと取り上げたいメディアにとって、商品と何の関連もない芸能人は邪魔者以外の何者でもないです。賑やかしに来て瞬間的に会場を盛り上げても、そこに何の意味もありません」。
西田「とにかく露出させたい、という考えがあるのでしょうが、果たしてその考え方は本当に合っているのか?と問いかけたい。効果の部分で言うと、何のために行われた発表なのか全く分からないような露出を稼いで何の意味があるのか?と思います。発表したい内容はそれじゃないでしょ?と」。
神尾「代理店思考なのでしょうか。とにかく何でも露出を稼ぐ、という考えがどこかにあるから、発表内容もそこそこに芸能人の個別取材や囲み取材に切り替わってしまう。もっと発表内容を聞きたい我々にとっては残念です。質疑応答を削ってまで芸能人の囲みをやるのか・・・と」。
格言3:賑やかしや画作りは、どちらかと言うと発売イベントで行うべきでは?
神尾「そもそも、発表会にそこまでお金をかけて画作りをする必要があるのか?と思いますね。発表はあくまで商品についてしっかりと説明をする場。賑やかしや画作りは、どちらかと言うと発売イベントで行うべきでは?露出数を稼いで、たくさんの人に知ってもらうべきタイミングは発売のタイミングでしょう」。
西田「そこです。世間の注目を集めるタイミングは発売時。発表会は、発売の約1カ月前に行われますから、商品が発売されるタイミングにはほとんど忘れられているはず。発表会は、語られるべき内容がしっかりと語られるのであれば地味だろうと全く構わないですよ」。
神尾「会社の一室だろうと、聞きたいことをきちんと聞ける場が用意されていたら一向に構わない。同じお金を使うなら、発売時に華やかな要素を盛り込んだ方がよっぽど効果的だと思います」。
西田「先日もアメリカまで行きましたが、アップルの発表会はそういうところが上手いですよね」。
神尾「あれは発表会のコストってほとんどかかっていないはず。黒一色の舞台で、経営責任者が製品についてしっかりとスピーチする。そういった姿勢から企業としての信念みたいなものも伝わってきますよね。会自体にはお金をかけない代わりに、会で使われる映像なんかにはアフリカまで行って撮影したりと、ものすごくお金がかかっている。本来お金をかけるべき部分って、そういうところですよ」。
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