杉山元規(TBWA\HAKUHODO コピーライター・CMプランナー)
とある6階建てのアパートに7年住んでいます。僕の部屋はその6階なのですが、なんとエレベーターがありません。あるのは階段だけ。7年間、徹夜明けの日も、ベロンベロンに酔っぱらった日も、心を折りながら部屋まで辿り着いてきました。そんなふうに毎日アパートの階段を必死こいて上っている僕ですが、仕事ではコミュニケーションの山を必死こいて登っています。
武器が足りない
僕にとってクリエイティブの仕事は山登りです。クライアントの課題ごとに目の前にそびえ立つ山々。カタチも大きさも気象条件も違う。日々刻々と変化していき、突然雪崩が起きたり、ビッグフットが襲ってきたりすることも。もちろん道なんてありません。そんな険しい山をどこからどう登るかを考え、道を切り開き、頂上を目指す。頂上への辿り着き方が鮮やかなほど強いアイデアであり、世に出るコミュニケーションは成功し、チームは褒められます。
僕が尊敬する上司や先輩方は本当にスゴい。こんな所から登るのかと驚くコースを、こんなふうに登るのかという方法で力強く登っていく。それを実現できるだけの、自分にしかない武器を持っている。他の誰よりも強い武器があるからこそ、クライアントや広告会社もその人に山登りを任せたいってなるんですよね。
一方、今の僕はというと、ふんどし一丁にナップサック背負って険しい山に立ち向かっているようなもの。少しの道具ならナップサックの中に備わってきましたが、武器と呼べるほど強いものではありません。かめはめ波やゴムゴムの~みたいな圧倒的な武器を持ちたい。どんな山でも登れる万能ナイフのような武器を持ちたい。でも全然見つかりません。
グランドキャニオン&ピラミッド(山ではないですが)
広告業界の若手同士でお酒を飲むと、よくこんな話になります。「自分にはコレっていう強い武器がないんだよなー」。周りの若手も僕も焦ってる。だけど、いくら焦っても武器は手に入らなくて、今は目の前にそびえ立つ山々に全力で挑み続けるしかないんだと思います。これまでの人生で手に入れてきた道具たちが、あるとき武器として開花すると信じて。
仕事を始めたばかりの頃、僕の周りには小さな山さえありませんでした。360°果てしなく広がる砂漠の真ん中にポツンといる感じ。なので、クライアントを見つけてきては自主プレゼンを繰り返して、自ら山を作って登っていました。でも今は、僕の周りには挑むべき山が次から次へとそびえ立っています。そして、昔はチームの先輩が切り開く道を後ろからついて行けばよかったけれど、今は自ら登り方を考え、自ら道を切り開いていかなきゃいけないことも多くなりました。恵まれています。ありがたいことです。ひとつひとつの山を大切にしてアイデア勝負を繰り返し、自分だけの武器を手に入れなきゃ。そしてどんなに忙しくても、自ら山を作ることだってしていかなきゃ。
なんてことを、昨夜ウジウジ考えながらアパートの階段を上っていたら、思いっきり足を踏み外してコケました。「せめてエレベーター付きのアパートに引っ越しなよ」ってみんなに言われますが、どういうわけかこのアパート、嫌いになれないんだよなー
杉山元規(すぎやまもとのり)
1983年生まれ。2006年に早稲田大学商学部を卒業後、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンに入社。2007年にTCC新人賞受賞。2008年に日本代表としてカンヌ・ヤングライオン・コンペティション(Film部門)に出場する。これまでに、ACC賞、OneShow、NY Festivalsなど受賞。2011年11月にTBWA\HAKUHODOへ移籍し、現在はadidas、IKEAなどを担当。
バックナンバー
コピーライター養成講座卒業生が語る ある若手広告人の日常
- 2012年6月 栗栖周輔「学歴なし、職歴なしで広告業界に入るには」
- 2012年5月 永友鎬載「僕の失敗(1)」
- 2012年4月 大津健一「幸運の女神は最終講義で微笑んだ」
- 2012年3月 大重絵里「考え続けられる人が、輝いている」
- 2012年2月 山川力也「コピー」じゃなくて、「いいコピー」を書くために。
- 2012年1月 安田健一「土俵に上がれない時代は、土俵づくりから。」
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