増える大気中のCO2を吸収する森の木の根っこと微生物の絶妙な関係

植物はCO2の排出量増加にどこまで対応できるのか

産業革命以降、化石燃料の使用により大気中の二酸化炭素(CO2)が増えているが、その半分は海洋や植物によって吸収されていると推定されている。この自然界の働きにより、大気中のCO2増加による気候変動は緩和されていると考えられる。

国立環境研究所の三枝信子氏によると、「同じ種類の植物で比べると50年前や100年前の植物に比べて現在の植物の方がCO2をたくさん吸収しているのではないかと主張する研究結果」が報告されているという。植物によるCO2吸収量が増える理由としては、「(1)大気中のCO2濃度上昇による施肥(せひ)効果、(2)人為起源の窒素酸化物による施肥効果、(3)地上気温の上昇による効果」などがあるのではないかと推測されている。

このほど、米インディアナ大学から、植物によるCO2吸収量の増加のメカニズムを明らかにする研究報告が発表された。次に7月10日のリリースを抜粋して紹介してみよう。

デューク大学

研究は、北カリフォルニアのデューク大学森林大気CO2増加研究サイト(Duke Forest Free Air Carbon Dioxide Enrichment site)で行われた。このサイトでは、タエダマツの成木が14年間増え続けるCO2にさらされており、世界でもっとも長いCO2増加の実験が継続されている(Photo by Will Owens)。

インディアナ大学生物学部のリチャードP・フィリップス助教授らの研究により、大気中のCO2が増えると、根っこや菌は炭素と窒素のサイクルを早めることが明らかになった。森林がいかにして炭素の貯蔵庫となっているか、これまで評価されてこなかった根っこや菌根の働きも、地球の変化モデルに組み入れられる必要があるとフィリップス助教授は指摘する。

本研究を主導するフィリップス助教授は、20年近くにおよぶ森林生態学の研究は、大気中のCO2が増えるなかで、いかにして森林が炭素を貯蔵しているのかを示すものだという。

「樹木が大気からより多くのCO2を吸収すると、より多くの炭素が栄養分として吸収されるために根っこや菌根に向かうということが示唆されてきたが、われわれの研究結果は、根っこの分解やそれによる炭素供給により、有機堆積物の分解もまた増加し、炭素と窒素の循環が早まるため。土壌中にはほとんど蓄積されないことを示している」(フィリップス助教授)

本研究は、北カリフォルニアにあるデューク大学の森林大気CO2増加研究サイト(Duke Forest Free Air Carbon Dioxide Enrichment site,FACE)で行われた。このサイトでは、タエダマツの成木が14年間増え続けるCO2にさらされており、世界でもっとも長いCO2増加の実験が継続されている。研究者たちは、土壌や成長する根っこや菌界を専用のラベルのついたメッシュの袋に入れて炭素循環を算出することができる。

微生物

菌糸体の白と黄色の成分が共生しており、茶色のタエダマツの根っこと、炭素と栄養分を取引している。樹木は炭水化物を微生物に与え、微生物はマツに栄養分を与えている(Photo by Ina Meier)。

今回の研究報告の執筆者らは、この森林の窒素循環についても報告している。CO2の増加により、樹木や微生物の要求する栄養分も多くなるためだ。

「樹木の成長は窒素供給量により制限されている。そのため、CO2が増加する環境下では、有機物と混ざり合った窒素を分離するために根っこが微生物を誘導し、“余剰”炭素を取り入れるように働くことには合点がいく。驚くべきことは、1年未満の根っこや菌界を分解することで、より多くの窒素を取り入れているように見えることだ」(フィリップス助教授)

新たな炭素やほかのエネルギー源を通じて微生物が古い土壌中の有機物を分解する場では、微生物を誘導する倍化効果と、新しくできた根っこや微生物の炭素代謝の加速が起きており、それは研究サイトFACEで起きている炭素と窒素の早いサイクルを説明するものである。

「これをRAMP仮説(Rhizo-Accelerated Mineralization and Priming)と呼んでいる。それは、炭素と窒素の分解の微生物プロセスにおいて、根っこが誘発する変化は、地球の変化に対する生態系の長期的な適応において、主要な調整役(キー・ミディエーター)を担っていることを示唆している。

ほとんどの生態系モデルは根っこの役割を限定的に考えており、まして微生物を誘導する役割には目が向けられていなかった。本研究の結果は、土壌中の根っこと微生物の相互作用が、炭素の貯蔵と窒素循環を早める上でいかに多くの役割を担っているか、これまでは小さく見積もられていたことを示すものである(以下略)」(フィリップス助教授)

本研究は、フィリップス助教授のほか、ドイツ・ゴッティンゲン大学のポスドク、イナC・マイヤーほか、多数の研究者によってアメリカの農務省とエネルギー省による、RAMP 仮説を検証するための研究助成金39万8000ドル(約3200万円)を受けて行われた。7月9日にオンラインのエコロジー・レターで発表された全文はこちらからダウンロードできる(10月まで)。

これまでも、森林は生物多様性の宝庫として、国内外の森林保護・保全が叫ばれてきたが、本研究で明らかにされた、木の根っこと微生物の交換関係により、気候変動対策においてもこれまで以上に重みを増すことになると予想される。

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