米国で日本企業のブランディングなどを手掛ける結城喜宣さんと高校生の娘(17歳)が、日常的に繰り広げられるデジタルライフをレポートします。フェイスブックやビデオチャットを使いこなす、アメリカ女子高生のインサイトとは? 日本にも出現しつつある、“デジタルネイティブ”のリアルに密着します。
高校は夏休み突入、娘のクラスメイトがインターンにやってきた
夏休みがはじまる前に、娘の高校からメールが届いた。
Parent Portal Now Open!
親のためのポータルサイトがオープンしたよ、と書いてある。これは、ポータルサイトができましたと言っているわけではない。「テストが終わったので、さあ、皆さんの子供たちの成績が見られますよ」というお知らせである。
アメリカの成績表は日本のものとは異なる。だから、日本育ちの私たちは見当がつかない。それを傍目に、娘はオンラインの通信簿を見ながら一喜一憂している。すべての成績や出席の管理はデジタルで行われているから、どこからでもアクセスが可能で便利である。
アメリカの高校は、6月中旬から夏休みがはじまる。何もやらなければ2カ月半、暇を持て余すことになる。自由って素晴らしい、その半面怖いことだとこの国にいて思う。時間を活かすも殺すも、自分次第なのである。というわけで、高校生たちは自分たちの意志でサマープログラムを取り、クラブ活動のサマーキャンプに参加し、無給のインターンシップや学費を貯金するためのバイトに取り組む。
さて、三回目のコラムは、娘と娘の友だち(デジタルネイティブ男子)のインターン体験について話してみたい。
7月。私の部下たちが猫の手も借りたいと言うので、娘に声をかけてみることにした。娘は、私たちの仕事を一日中オフィスにいてパソコンと向かい合っている仕事という印象を受けているようだ。だから私にはむいてないなぁ、と一言。ちなみに彼女は今、サマープログラムで救急救助隊のクラスを取っている。それに比べたら、マーケティングはかなり内向的な仕事に見えるかもしれない。「だけど、まぁ、とりあえずやってみなよ」と私。娘は「いいよ」と塾とテニスレッスンの合間を縫って手伝いをしてくれることとなった。
娘の紹介で、ビデオグラファーのレイ君もオフィスにやってきた。レイ君は中国系のアメリカ人で、カリフォルニア州のマウンテンバイクのトップランナーであり、高校生がつくるテレビコマーシャル部門で受賞歴をもつ将来有望なフィルムメーカーの卵である。娘の同級生で、同じく17歳。フェイスブック上の娘との共通の友人は180人を超えている。彼もすでに夏のスケジュールは埋まっていたが、勉強と趣味の合間にインターンを引き受けてくれることとなった。彼は、私が広告会社を営んでいると知るや否や、インターンシップで雇ってもらえるようにネゴしてもらえないかと、クラスメイトである娘にアプローチしてきていた一人である。
最初はフェイスブックで高校生を主体としたビデオキャンペーンをやろうと思いつき、彼に声をかけてみることにした。メールでやり取りをしているうちに、彼は既にプロのフリーランサーが身につけていなければならない一定のマナーを心得ていることがわかった。メールの返信は必ず1時間以内にきて、雇う側が持っている気分のテンポを乱すことがなかった。これはプロであっても、できそうでなかなかできないことである。本来は、インターンとはいえ、私を含めスタッフ全員による面接が必須なのだが、私はそれを忘れる程、彼の力量を試したくなっていたのだと思う。かくして、彼は面接をせずに合格した最初のインターンとなった。
出社初日。レイ君を見てさらに驚いた。立ち振る舞いが堂々としている。娘にそう言ったら「そう、おじさんでしょ?」と言って笑った。「でも、レイのビデオ作品を見たでしょ? 凄くいいでしょ?」
まずテレビCMの音楽改訂の仕事を頼んでみた
異例だが、レイ君には最初から実戦に取り組んでもらうことにした。 通常は、インターンにはニュービジネスの仮想プロジェクトからというのがワイズアンドパートナーズの原則だが、私の経験上、才能がある奴にはやらせてみるのが一番である。今、目の前にあるプロジェクトは、米国主要都市で流れるテレビコマーシャルの改訂であったが、試しに音楽改訂のベーシックな部分を任せてみることにした。
「音楽を替えてみたいから、このテレビスポットにあったサンプルを探してほしい」。ただ一言それだけを告げ、「今オンエアされているスポットは、YouTubeで探すように」と付け加えた。
幸いなことに、彼は「ターゲットが誰?」とか「音楽で表現してほしいことはなに?」とか、大人のように頭の固いことを聞いてこなかった。とりあえず自前のMacを開き、大きなヘッドフォンをしてアサイメントに向かった。
間もなくして、レイ君に声をかけられた。音楽を聴いてほしいのだと言う。
「これ、どうしたの」と私。
「最初から創りました」とレイ君。「ガレージバンドで創ったんです!」。
ガレージバンドといえば、Macに標準装備されている音楽製作用のソフトウエアである。子供のオモチャだと思っていたが、彼は約1カ月前 に使い始めたそのオモチャを使い、わずか1時間弱で自分のアレンジ曲をつくりあげてきたのだ。こういうことをさらりとやってのけるあたり、デジタルネイティブだなぁと感心する。
「とてもいいね」と私は言った。いきなりリクエストに添わない、いやそれ以上のことにチャレンジしたことが私にとって十分なアピールポイントになった。
「じゃあ、次はサンプルになりそうな曲をネットで探してみようか」
「了解!」とレイ君。
予想通り、彼はわずか数時間でセンスの良い曲を選んできてくれた。そして、それぞれには明快な理由とコンセプトがあった。曲は既にメンバー登録している音楽サイトからダウンロードしている。だから、お金も著作権も問題ありませんと彼は言った。
家に帰って、娘に私の興奮を伝えた。
「私の目に狂いはないでしょ?」と誇らしげな娘。「レイはね、ボスをインプレスする方法を知ってるんだよ。上司の指示以上のことができなければ、激しいコンペティションには勝てないって学んできたんだと思うよ」
彼らは、既に高校生にしてアメリカの自由競争の掟についてしっかりと学んできているようだった。
インターン初日終了後、レイ君からメールが届いた。
「今夜、ネットで買った最新のカメラが家に届きました。現在の厳しい経済環境の中で、この投資はすごく勇気が必要だったけれど、これまで情熱を傾けてきたマウンテンバイクを売ってでも、フィルム制作にかけてみようと思ったのです。今日はその第一歩。実践的なプロジェクトに携われてとても感謝しています」。
レイ君の素顔は“高校生???”だった!
日曜の朝食。我が家はレイ君の話題で持ち切りになった。
「パパにもうひとつ面白いことを教えてあげようか」と娘。
「なになに?」と私。
「レイはね、自分の会社を持っているんだよ」
「え?」
確かに、アメリカでは簡単に会社登記をすることができる。オンラインで1時間もあれば登記は完了し、数週間後には証明書が届く。そして、今日から会社オーナーというわけである。が、しかし、高校生が会社設立をするとは想像すらしてなかった。彼は、自分の名前を冠したビデオプロダクションカンパニーを立ち上げ、大学生になったら本格的にビジネスを始動したいのだと夢を語ってくれた。ちなみに彼のお姉さんは、既にいくつかのiPhoneアプリを開発し、ビズネスを成功させている現役大学生である。
私は、会社オーナー兼インターンのレイ君に最初のアサイメントを渡した人物として、彼の伝記に載る日が来るのかも知れないなどと、レイ君とアップルの創業者、故スティーブ・ジョブズの高校時代とを重ね合わせて想った。
アメリカは、若者に夢を与え、サポートするカルチャーをもっている。もちろん自由という厳しさのなかで勝ち残っていけるタフな若者に対してのみ、という条件付きであるが。
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