1912年創業・カンロ「ピュレグミ」ブランドマネージャー 入江由布子氏の場合
国内企業によるブランドマネジメントの取り組みを紹介する本連載。今回は1912年に創業した菓子メーカー、カンロ(東京・中野)のブランドマネージャーが登場。2012年で発売10周年を迎えるグミ菓子「ピュレグミ」のブランド担当として、商品開発やプロモーション企画を手掛けている。
※『宣伝会議』15日発売号にて、宣伝会議主催のブランドマネージャー育成講座と連動して連載中のシリーズ「日本企業とブランドマネジメントの今」より抜粋。本記事は2012年5月15日発売号に掲載されたものです。
約2年前から、商品開発とプロモーション役割を統合
1955年発売のロングセラー「カンロ飴」、今年で発売30周年を迎える「健康のど飴」などで知られる菓子メーカー、カンロ。現在は東京都中野区に本社を構えるが、1912年に山口県光市で創業したのが始まりだ。
そんな同社がグミ菓子のブランド「ピュレグミ」を発売したのは、2002年。1980年代から単発でグミ菓子を度々発売することはあったが、10年にわたり同一ブランドでグミ菓子を展開するのはカンロ史上初のことだ。今では「カンロ飴」「健康のど飴」と並ぶ、同社の主要ブランドに位置づけられている。
「当社で商品ブランドの育成を強化し始めたのは、約2年前から。以前は商品担当と、プロモーションやマーケティングを手掛ける組織が分散していたが、徐々に“ブランドマネージャー制”を実現するための組織に移行しつつある」と説明するのは、2010年の夏から「ピュレグミ」のブランド担当責任者を務める入江由布子氏だ。
ブランドマネージャー制の導入にあたり、ピュレグミを含む主要ブランドについてはマネジメント業務を「商品戦略室」内に統合した。商品戦略室は「プロダクトチーム」「プランニングチーム」「営業チーム」に分かれており、入江氏はプランニングチームに所属。ピュレグミの商品開発からプロモーションまで年間計画を策定し、売上目標に対する責任までを負う。
定番商品となったからこそ、ロイヤリティの醸成が課題
「ピュレグミ」がシェアを伸ばし始めたのは、発売から2年を経た04年ごろ。流行に敏感な若い女性をターゲットとしていることから、06年にこの世代に人気のモデルを広告キャラクターに起用。初のテレビCM放映に踏み切った。
しかし時を同じくして、各社から多様な食感やフレーバーのグミが登場するようになる。「ピュレグミ」がヒットした2000年代半ば以降、かつて「子どものお菓子」と捉えられていたグミを、若者層も買い求めるようになったためだ。現に、「ピュレグミ」の売上は5割をコンビニエンスストアでの販売が占める。
「ピュレグミのユーザーは、いい意味で“流行に敏感な”人たち。だからこそ、競合の新しいグミ製品に流れてしまうこともある。お菓子のブランドでロイヤリティを高めるのは本当に難しいと実感している」と入江氏は打ち明ける。
ピュレグミの場合、新製品に比べると“おとなしいグミ”というイメージを持たれてしまうというジレンマもある。発売当時にファンになってくれたユーザーが年を重ねるとともに、ブランドの若返りも必要になってきた。ロングセラーの定番商品となったからこそ生まれる、ブランド育成における課題は尽きない。
社内の組織も変革し、徐々に主要ブランドを集中的に育てていく体制を実現しようと動き始めている。そのような中で入江氏は今年2月、宣伝会議の「ブランドマネージャー育成講座」を受講し、ブランドマネージャーの役割や体制について改めて学ぶ機会も得た。
広告と商品戦略を貫くのは、「恋の味」という情緒的価値
今後の「ピュレグミ」ブランドの戦略としては、話題性のあるフレーバー開発などによる「“グミの最先端ブランド”というイメージの醸成」とともに、「情緒的な価値の確立」を掲げる。それは「味や食感だけを求めるユーザーは、新製品にどんどん流れてしまう。それを取り戻せるのは、例えば“ピュレグミを食べると幸せな気持ちになれる”といった、情緒的なつながりしかない」という考えからだ。
今春のプロモーションで用いたキャッチフレーズは、「ピュレグミは、恋の味。」。新たな広告キャラクターとして人気グループのPerfumeを起用し、若い女性だけでなく幅広い層からの話題喚起を狙った。さらに5月には、期間限定の新フレーバーとして通常のフルーツ味とは異なる「秘密の恋味」を発売した。4月には発売に先駆け、既存商品に「秘密の恋味」のグミを一粒ずつベタ付けするティザーのプロモーションを実施するなど、「ピュレグミ」ブランドの活性化に取り組んでいる
カンロ マーケティング統括本部 商品戦略室
プランニングチーム 主任 入江由布子氏
(Yuko Irie)
2004年入社。キャンディ・グミ以外の素材菓子を扱う「新規事業開発」部門を経て、2010年夏から商品企画部で「ピュレグミ」ブランド担当に。組織改編により、商品開発やプロモーションの機能を統合した商品戦略室でブランド担当責任者に。
シリーズ「ブランドマネジメントの今」
- 第8回 日本人の感性伝える、滋賀発・ふくさ製造元の和雑貨ブランド
- 第7回 北欧発アパレルの日本版を開発、創業社長が取り組むブランド化
- 第6回 5年以内に受験者数4万人が目標。財団法人のテスト事業をブランド化する
- 第5回 革新的な取り組み続ける京都の料亭 ブランド資産を記録し、組織としての成長へ
- 第4回 サイクルが早い新商品開発の現場 長期的なブランド育成が課題に
- 第3回 江戸の創業から300年続く、老舗流のブランドマネジメント
- 第2回 「“相互信頼”で日本のカジュアルを新しく」二代目社長が目指すブランドづくり
- 第1回 日本の老舗企業には、何百年も前から「ブランドマネジメント」が根付いていた?
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開講日 2012年7月25日(水)~27日(金)