空いた時間にTSUTAYAを使ってもらうことがゴール
――社内で運用される際のガイドラインなどは策定されているのでしょうか。
佐藤 こういうケースではこうしましょう、と厳密に落とし込むのは難しいので、ToDoというほど細かくは策定していません。
山口 ソーシャルメディアの運用心得、に近いですね。そうしたガイドラインを全店舗に配布した上で、ソーシャルメディアを運用したい場合はエントリーして認可を得る形にしつつ、コミュニティガイドラインやソーシャルポリシーを模索しているところです。
佐藤 弊社も東日本大震災の直後にソーシャルメディアの運用を失敗した時期があったのですが(注)、そうした自社の事例も踏まえて他社の失敗事例も研究しましたね。アカウントを作ったからにはきちんとそうした配慮も行おう、と思っていました。
(注)震災直後、TSUTAYAの店舗アカウントが「テレビが地震ばかりでつまらない人はTSUTAYAにご来店お待ちしております」という旨の発言を行い、不謹慎だという指摘を一部で受けている。
――そうした失敗がありながら「ソーシャルメディアは危険だからやめよう」ということにならなかったのはなぜでしょうか。
佐藤 不思議とそうはならなかったですね。
山口 TSUTAYAはエンターテインメントを提供する立場として、お客さまにはいろいろな情報を知った上で反応していただかなければいけないというのは全社的に思っていることですし、リスクがあるからやめましょう、という、待っているだけの姿勢はあり得ないと思っています。やめるのではなくちゃんとルールを作って、お客様に楽しんでいただくにはどうすればいいか、という方向を向いた。
佐藤 世の中の流れとして企業を含めソーシャルメディアのユーザーが増えていくのを見ていて、(失敗があったものの)今、ソーシャルメディアの活用を止めるべきではない、という思いもありましたね。
山口 エンターテインメント業界は非常に厳しい業界で、人々の自由に使える余暇時間の中で映画や音楽を見たいと思ってもらわなければいけません。そのためには映画や音楽を素晴らしいと思っていただくことはもちろん、お客さまの輪の中にこちらから飛び込んでいく必要があると考えています。
佐藤 1時間か2時間空いたときにTSUTAYAを使ってもらう、それが我々のゴールです。そうなるためにソーシャルメディアを使って皆様のところにおじゃましていく、という感じですね。
ツイッターは旬な情報、フェイスブックは画像が重要
――フェイスブックはどのように運営されているのでしょうか。
サイモン フェイスブックは私が担当していて、1日1投稿、面白いネタがある日はそれよりも多く投稿しています。
私が引き継いだばかりの頃はSHIBUYA TSUTAYAのツイッターの情報をフェイスブックへ転送しているだけで、ファン数も1300程度だったのですが、それからは単なる商品情報だけでなく、エンタメ情報をTSUTAYAならではの視点で投稿するようにしました。フェイスブックを分析してみると土曜日と日曜日のアクティビティが落ちているのがわかったので、それからは休みの日も投稿するようにしたり、少しで TSUTAYAに興味を持ってもらえればいい、と続けた結果、最初の1カ月半で600から700近いファンを増やすことができました。その後はフェイスブックキャンペーンも組み合わせることで、今では6000近いファンを獲得できています。
――ツイッターとフェイスブックで運用に違いはあるのでしょうか。
佐藤 ツイッターの情報は旬なものが喜ばれますね。例えばテレビで「風の谷のナウシカ」が放映されたときは、それに合わせて(ナウシカのスタッフでもある)庵野秀明監督が手がけた特撮博物館の情報をツイートしたときは、運用直後の時期ながら100以上のRTをいただいたりもしました。
山口 フェイスブックは画像ですね。お店のスタッフを紹介することでスタッフの顔を伝えられたり、普段は聞くことができない店舗でのいい話などを紹介することもできます。
佐藤 ツイッターは旬が合うな、というのは運用しているうちに気がついてきて、その中でもトレンドやハッシュタグが1つのポイントかな、という手応えもありました。ハッシュタグ以降も何かできないかな、と考えているとき、「#好きな映画の特徴を3つ言って当ててもらう」というハッシュタグがツイッターで盛り上がっていて、そこで挙げられていた作品をTSUTAYAアカウントで勝手に集計する、という企画を行ったところ、これも好評で400近いRTがありました。
盛り上がって楽しんでいる人がいるところにお邪魔させていただいて、その盛り上がりを邪魔しないように一緒に楽しませてもらう。これは1つの定番パターンかなと感じていますね。
――今後取り組んでみたい施策はありますか。
山口 これはあくまで個人的な興味ではありますが、LINEやPinterest(ピンタレスト)は今後チェックしていきたいですし、機会があれば参加してみたいですね。エンタメとビジュアルという組み合わせは、権利が難しいですがありそうな組み合わせだと思いますし、お店の制作物であれば写真系とは相性が良いかもしれない。法務的な問題もありますので簡単ではありませんが、Pinterestのようなビジュアル系のサービスは今後もウォッチしていきたいと思います。
ソーシャルメディアとしての運用については正直出遅れている面があるので、まずは現在運用しているアカウントを早急に挽回していきたいですね。TSUTAYA onlineは1500万人以上の会員を抱えているので、ソーシャルメディアの会員が数万人程度では正直まだまだ規模が小さいと思っていますし、ある程度のボリュームを育てつつ、その他のサービスも検討しながら広げていきたいと思っています。
――インタビュー雑感
単なる情報発信ツールとしてソーシャルメディアを活用するのではなく、どのような取り組みをしたら自社のお客さまに参加してもらえるのか? 楽しんでもらえるか? を、試行錯誤しながら取り組む姿勢は、他の企業も参考になるのではないかと思いました。(アジャイルメディア・ネットワーク)
インタビュー担当 AMN 甲斐祐樹
高柳 慶太郎「ソーシャルメディア活用 先進企業に聞く」バックナンバー
- 第11回 【ソーシャルメディア活用(11)タワーレコード】「顧客への情報伝達に対する危機感が、ソーシャルメディア活用を加速した」(7/17)
- 第10回 【ソーシャルメディア活用(10)セガ】「労力に見合っているかどうかはこれからですね」(7/2)
- 第9回 【ソーシャルメディア活用(9)バンダイナムコゲームス】「『Yeah!』と言えば観客が『Yeah!』と返す」(5/28)
- 第8回 【ソーシャルメディア活用(8)良品計画】「店頭での接客と何ら変わりません」(5/14)
- 第7回 【ソーシャルメディア活用(7)KDDI】「お客様のコメントに励まされています」(4/16)
- 第6回 【ソーシャルメディア活用(6)アディダスジャパン】「自社運用で消費者との関係強固に」(3/26)
- 第5回 【ソーシャルメディア活用(5)パナソニック】「アメリカ発のニュースをブラジルやヨーロッパへ」(3/12)
- 第4回 【ソーシャルメディア活用(4)ユー・エス・ジェイ】「ビジネスへの成果がやっと見えてきた」(2/27)