杉山元規(TBWA\HAKUHODO コピーライター・CMプランナー)
今、オランダのアムステルダムにいます。趣のある中世の建物が並び、美しくライトアップされた運河沿いでこのコラムを書いています。街の一角では、至る所でマリファナの香りが立ち込め、通り沿いに並んだ飾り窓からは、下着姿の娼婦の金髪ねーちゃんたちが窓越しに客を手招きしています。おっしゃー、マリファナ吸うぞ!金髪ねーちゃんと遊ぶぞ!とハシャギたいのですが、それどころじゃないのです。
足りない FOREVER !!
なぜアムステルダムにいるかというと、世界中で展開するグローバルキャンペーンの企画会議に参加するためです。日本のほかには、スペイン、ドイツ、イギリス、オランダ、アメリカ、ラテンアメリカの各国からクリエイターが集まっています。
これから1週間かけてアイデアを出し、企画を作っていきます。もちろん各国みんなでひとつのチームとなるのですが、どの国のクリエイターも「俺たちのアイデアをベースに、グローバルキャンペーンを作るんだ!」と意気込んでいます。僕も「日本チームのアイデアを死ぬ気で通してこい」と、出発前にECDの佐藤カズーさんから超プレッシャーをかけられています。
ロンドンでは各国アスリートによる激戦が繰り広げられていますが、時を同じくしてここアムステルダムでも、各国クリエイターによる激戦が繰り広げられようとしています。半端ないプレッシャーでゲリになりながらも、今は明日の準備をしつつドキドキワクワクしています。
さて、1カ月にわたる今回のコラムで僕は、英語が足りないとか、武器が足りないとか、人間力が足りないとか、ジメジメ書いてきました。「せっかくのコラムなんだから、もっと華やかでキラキラした部分を書いたらいいのに」と言われたりもしましたが、僕はこの「足りない」っていう悩ましい感情をすごく大切にしたいです。
僕とは次元が違いますが、イチローはこう言っています。「苦悩というものは、前進したいって思いがあって、それを乗り越えられる可能性のある人にしか訪れない。だから、苦悩とは、飛躍なんです」。相田みつをはこう書いています。「なまけると こころがむなしい 一所懸命になると 自分の非力がよくわかる」。
どれだけキャリアを重ねても、足りないものがあってジメジメ悩んでいる。でも行動を起こして、なんか一所懸命。そんな作り手でいたいです。
今年のカンヌで、「次の世代(学生たち)は広告なんて考えていない」ことが大きく取り上げられました。でも、別に広告ヅラしてなくても、広告会社がiPhoneみたいなプロダクトを発明してもいいし、ジョン・レノンの「Imagine」みたいな歌をつくってもいいんですよね。世界中から飢餓がなくなる仕組みを考えてもいいし、難病を無くす方法を考えたっていい。
クライアントの課題を解決する上で最適なら、サービス、プロダクト、イベント、映画、歌・・・どんなカタチでもいいんです。
日本人はもちろん、自分が旅先で出会ってきたような世界中の人たちをも、笑顔にしたり、ポジティブな変化を起こせるアイデアを考えよう。ノーベル賞に値するぐらいのものを世の中に出すぞ~くらいのモチベーションで。
さぁ、まずは明日から始まるアイデア出しがんばるぞ~
コラム後記
アムステルダムに発つ前。テレビCMの制作、ドキュメンタリー映画の制作、オリンピックキャンペーンの企画、ラジオ番組の企画、アスリートやアーティストへの取材、プレゼン、出張などが入り乱れてヘロヘロになっている僕に、カズーさんが満面の笑顔で言いました。
「スギ~、最終回のコラムで500いいね!いかなかったらクビね♡」
「えっ!? いや・・・僕のコラムじゃムリっす・・・」
「ダメだよ、拡散力のないクリエイターなんていらないから」
そうですよね・・・きっとこのまま僕はクビになり、アムステルダムでホームレスになり、マリファナに溺れ、生活のためにニューハーフ娼婦となり、飾り窓の中で一生過ごすことになり・・・
それでもカズーさんは、「オレがお前の悩みを何とかしてやるよ!」と言って、今回のようなビッグチャンスをサラッとくれるステキな上司なんです。
僕のコラムはこれでおしまい。みなさん、いつの日か、アムステルダムの飾り窓でお会いできる日を楽しみにしています!
僕の行方/
Mail: motonori.sugiyama@tbwahakuhodo.co.jp
杉山元規さんのコラムは今回で終了です。次回(8月6日)からは小林麻衣子さん(POOL コピーライター)のコラムを掲載します。
杉山元規(すぎやまもとのり)
1983年生まれ。2006年に早稲田大学商学部を卒業後、オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンに入社。2007年にTCC新人賞受賞。2008年に日本代表としてカンヌ・ヤングライオン・コンペティション(Film部門)に出場する。これまでに、ACC賞、OneShow、NY Festivalsなど受賞。2011年11月にTBWA\HAKUHODOへ移籍し、現在はadidas、IKEAなどを担当。
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バックナンバー
コピーライター養成講座卒業生が語る ある若手広告人の日常
- 2012年6月 栗栖周輔「学歴なし、職歴なしで広告業界に入るには」
- 2012年5月 永友鎬載「僕の失敗(1)」
- 2012年4月 大津健一「幸運の女神は最終講義で微笑んだ」
- 2012年3月 大重絵里「考え続けられる人が、輝いている」
- 2012年2月 山川力也「コピー」じゃなくて、「いいコピー」を書くために。
- 2012年1月 安田健一「土俵に上がれない時代は、土俵づくりから。」
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