原発問題を当時のツイッターやブログで再検証する

SNS情報を危機的事態の有益情報として官邸や自治体が発信の検討を

仕事柄、危機管理に関する関連書物を山のように買い込み、暇さえあれば読んでいる。その中でも「原発事故」に関する資料は別格だ。それだけ被害影響が大きく、調査委員会も民間、国会、政府の報告書が出そろい、ある意味、事実についてやっと蓋が開いた状況とも言える。

しかし、私が数日前に手に取ったのはそうした報告書ではなく、「DAYS JAPAN 4月号増刊号」という1cmほどの厚さの雑誌だった。タイトルは「検証 原発事故報道 あの時伝えられたこと」で、2011年3月11日から17日までの「東電・保安院・官邸」、「NHK」、「民放」、「新聞(朝日・毎日・読売・東京・日経)」、「ツイッター・ブログ」の5つの媒体を時系列に忠実に追っかけた内容となっている。まさに、サブタイトルにもある「運命の1週間」である。この雑誌での注目事項は新たな媒体として注目される「ツイッター」や「ブログ」が危機的事態の中でどのような効果や影響を与えたかである。

3月11日午後2時46分、東日本大震災が発生した直後、同時刻に福島第一原発1号機は地震により原子炉スクラム(原子炉の緊急停止)信号を発信、自動停止した。同時にタービン・発電機停止、主蒸気隔離弁停止、外部電源を完全に喪失する。NHKでは国会参院予算委員会の中継中であったが、テロップで「緊急地震速報」が流れ、「強い揺れに警戒」の文字が流れると、48分には国会が大揺れする画面がクローズアップされる。50分には民放各社が次々にドラマなどの放映を止め、震度7やマグニチュード7.9のキーワードを報道した。ツイッターの第1号は午後2時50分47秒「まだ足元揺れてる サイレン鳴ってる」がスタートだった。

その後、午後3時から4時にかけて民放を中心に津波警報および津波到達の観測情報が報道される。混乱する官邸は、5時以降も放射性物質の影響について「直ちに人体に影響を及ぼすものでない」とし、民放各社も「この段階ではただちに安全にかかるような状況ではありません」と追随し、国民に分かりにくい説明が繰り返えされる。また、官邸や東電、原子力安全・保安院の説明はその後も断片的であったため、民放各社の説明も歯切れが悪く、「ただいまの感じだとなんかこうちょっと危険がある感じで」「原子力発電所に関しては、今放射能が漏れていることはないと、避難することもないということでして、今万全の措置を取っているんですが万が一のこともあると」というように、安全なのか危険なのかも定かでない説明が継続されていた。

ツイッターでは、このとき「携帯のバッテリーの残量が生死を分ける可能性があること。だからいま一生懸命充電中」(午後3時23分44秒)、「大津波が来ています!!一刻も早く高台に避難してください!!!」(午後3時35分21秒)、「Skypeも繋がってます。インターネット網はもはやTEL網より強い。」(午後3時49分41秒)、「テレビない人!NHKがUst(Ustream)されてる」(午後4時42分53秒)、「【感謝】#prayforjapanっていうハッシュタグで世界中の人がツイートしている。」(午後5時21分38秒)、「携帯が死ぬと、公衆電話が生きる。つまり災害時のインフラとして公衆電話の設置は必要なんだね。あとコンビニのトイレね。こんな時も24時間あけるんだ。根性あるなぁ。」(午後7時41分27秒)、「Twitterでは、思いやりのメッセージが溢れている。こういう時になんだけど、人間の素晴らしさに気づくことができる。」(午後7時43分23秒)などが次々と続き、RT(リツイート)された。

事実関係の情報が混乱する中、ツイッターやブログは目撃情報、有益情報、危険情報を簡潔かつ早期に伝達し、リツイートされることで拡散していく。テレビ局の生映像には文字では伝えられない迫力と情報量があるが、ツイッターやブログのスピード感と情報量にはあらためて驚かされると同時に、#prayforjapanの例にもあるが、世界中の人々がわずか数時間後にはツイッターという世界で手を差し伸べ合い、被災者に勇気や元気を与えている状況は想像を超えていた。

その後もツイッターやブログでは、「停電している地域の方へ」や「拡散希望、震災被害者です」など色々な有益情報を共有させようとして情報提供は拡散し続ける。

かつてこのコラムで筆者はアメリカの自治体がFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)の支援を受けながらツイッターなどのSNS情報を集積し、大規模災害(ハリケーンや大洪水など)の危機管理に役立てていると記載したが、今回こうした資料を見る限り、その情報量に加え、有益情報の多さには驚くばかりで、官邸がSNS情報を利用できなかったことは残念でならない。

「泣かない。涙も出ない。」「海を見てたらまた泣けてきた。」「悔しいよ。悔しい。わかっていたのに止められんかった。」「震災で親をなくした子は、僕がいいこじゃなかったからだと責めてPTSDに。怖かったり悲しかったら泣いていいし、こどもたちが泣けるよう胸を貸してあげてほしい。」ツイッターやブログには作られた言葉ではなく心の叫びが書かれている。だから今読んでも心に迫るものがある。

白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー

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白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

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