自社サイト考

実績って誰のもの?

実績掲載。いつ聞いてもヒヤヒヤする言葉です。なぜかって? 迂闊に掲載をして怒られた話や、タレントの版権で揉めた、手柄の取り合い、などなど、様々なところから色んなトラブルの噂を聞くからです。

プロダクションがダイレクトに広告主から依頼を頂き、アウトプットについての全ての権利を持っている場合、クライアントの許可さえいただければ、胸を張って掲載が出来ます。タレントやキャラクターなどの版権が絡む場合は、事務所や版権元、ライセンシーの許可が必要です。広告代理店からの依頼の場合は? 外部リソースが多く、複数社で担当した場合は? 企画は関与せず、実装だけの場合は? 実は、クレジット一つ取ってみても実に複雑な確認フローが存在しています。

よく業界内で言われる言葉に、「賞を取るために広告を作っているのではない」「受託でフィーをもらっている以上、実績をアピールするのは傲慢だ」などがあります。正直、私も何が正しいのか良く分かりません。少なくとも、権利以外についてはパワーバランスや人間関係で決まっているようにも感じます。また、貢献度が大きいほど発言力が高くなるのも当然のことでしょう。

ですので、実績についてコントローラブルにしたければ、川上で大きく貢献する以外にありません。広告としての結果に責任を持ち、貢献できたかが重要です。輝かしい結果を残し、大きく貢献できたのであれば、ベストプラクティスとして自然に興味を持つ人も増えるでしょうし、講演などで自らの知見を伝え、業界のために生かすこともできるでしょう。

広告クリエイティブは、ビッグアイデアが大きく答えを導き出すもの、アイデアは月並みだがエグゼキューション(実行施策)が非常に優れて答えを導き出すもの、クリエイティブのみで答えを導き出すもの、もしくはその全てなど、様々なアプローチによって成立しています。

プロダクションとして、貢献の姿勢を貫けば、誰のものか?という愚問に悩まされなくなるのではないでしょうか?

最終的には、チームとして貢献できれば、それがベストですので。逆に、賞狙いという言葉につられ、破格で請け負い、結果、手柄も何もなく、残ったのは赤字だけ。という事態は避けたいものです。

ただ、忘れてはならないのは、実績は対価を頂いて制作した成果物であなたの作品(私物)ではありません。作品は自らがリスクを負って生み出すものであり、我々はアーティストではないことを理解しておく必要があります。

自社サイト制作は苦行である

さて、上記でお話ししたように実績(ポートフォリオ)だけで、自らを伝えようとするのは少しリスキーで、かつ正確性を欠くと言っていいと思います。やはり、自らの投資でアピールできるツールを準備しましょう。

では、自社サイトを制作するにあたって、どういった点に気をつければいいのか? お話ししたいと思います。

基本的には、通常皆さんが受託で行われているように、ヒアリングをし、課題を抽出し、解決できるようプランニングする。これで十分です。しかし、ブレストの結果、課題が「問い合わせ数が少ない」だったらどうでしょう? 問い合わせフォームのコンバージョンを上げるという手段が目的となってしまいます。実は、「百聞は一見にしかず」は、問い合わせ総数を減らし、我々が期待する問い合わせが少数で良いと割り切って設計したサイトでした。ですので、問い合わせフォームも興味を持って意識的に探す必要があるように配置していました。多くのお問い合わせに全てお応えできるわけではないため、不要にお断りすることが多いと双方にメリットはありません。

我々の場合は、まず、自分たちがどうありたいのかについて議論し、それによってクライアントに提供できるベネフィットを考えます。それはメソッドであったり、テクノロジーであったり各社さまざまでしょう。その姿が見えてくれば、あとは伝え方を考えるのみです。目的に合った手段を考えましょう。それは数分のプレゼンムービーでも良いかもしれません。そして、いざ制作となるわけですが、大体以下のことに直面します。

  • いつまでたっても完成しない
  • ゴールが見えなくなり、コンセプトを疑い始める
  • コスト意識が薄れ、過剰に制作を続けてしまう

普段、受託に慣れていると、納期や決断は他者に委ねることが多く、いわゆる受託脳になっています。サービス開発と同じく、自社プロジェクトの場合は、スケジュール管理やディレクションが非常に重要です。受託の仕事をやりつつではなく、予算を決め、専属チームで行うようにしましょう。我々の場合は、私がクライアント役になって社内発注する場合もあります。

実際のところ、自社サイト制作はクライアントワーク同様に非常にプレッシャーを感じます。だって、貴重な利益を使って、そのスタッフは自社サイト制作のみを行うわけです。ENDLESS BATTLEの場合、20人月ほど投じました。それで、全く話題にならなかったら? 考えるだけで恐ろしいです。ですので、次回のリニューアルは私は逃げたいと思っています。

ブランディングはできていますか?

ローカルでビジネスをされている場合はまだしも、ネット上で広くビジネスをする以上は、自社サイトを通じてのブランディングは非常に重要です。ケビン・レーン・ケラー著『ケラーの戦略的ブランディング』によると、「ブランディングは精神的な構造を創り出すこと、消費者が意思決定を単純化できるように、製品・サービスについての知識を整理すること」と定義されています。依頼者サイドの視点でコミュニケーションを構築することが、自社サイトによってブランド価値を育むことになると感じています。

では、次回、プランニングと働き方についてお話をさせていただきます。

タイトルは、「それっておもしろいの?」。いい広告とは?いい働き方とは?について考えてみたいと思います。

次回は21日(火)に掲載します。

澤邊 芳明「Webプロダクション進化論」バックナンバー

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澤邊 芳明(ワン・トゥー・テン・ホールディングス代表取締役社長)
澤邊 芳明(ワン・トゥー・テン・ホールディングス代表取締役社長)

京都工芸繊維大学卒業。1997年にワン・トゥー・テン・デザインを創業し、ユニークなアイデアと時流に合わせた先進的なチャレンジによって、多くの大型キャンペーンを成功に導いてきた。ワン・トゥー・テン・デザインはこれまでに、カンヌライオンズ(カンヌ国際広告祭)金賞、One Show Interactive金賞、アジア太平洋広告祭(アドフェスト)グランプリなど、国内外のアワードを80以上受賞。デジタルテクノロジーを軸としたインタラクティブスタジオとして、国内外から注目を集めている。

2012年4月には5社と合流し、広告クリエイティブ領域からコーポレートサイト構築までのデジタルマーケティングを総合的にプロデュースするクリエイティブエージェンシー、「ワン・トゥー・テン・ ホールディングス」を設立。

ワン・トゥー・テン・ホールディングス:http://www.1-10holdings.co.jp
ワン・トゥー・テン・デザイン:http://www.1-10.com

個人ブログ:http://sawablo.com
twitter:http://twitter.com/sawablo
facebook:http://www.facebook.com/sawablo

澤邊 芳明(ワン・トゥー・テン・ホールディングス代表取締役社長)

京都工芸繊維大学卒業。1997年にワン・トゥー・テン・デザインを創業し、ユニークなアイデアと時流に合わせた先進的なチャレンジによって、多くの大型キャンペーンを成功に導いてきた。ワン・トゥー・テン・デザインはこれまでに、カンヌライオンズ(カンヌ国際広告祭)金賞、One Show Interactive金賞、アジア太平洋広告祭(アドフェスト)グランプリなど、国内外のアワードを80以上受賞。デジタルテクノロジーを軸としたインタラクティブスタジオとして、国内外から注目を集めている。

2012年4月には5社と合流し、広告クリエイティブ領域からコーポレートサイト構築までのデジタルマーケティングを総合的にプロデュースするクリエイティブエージェンシー、「ワン・トゥー・テン・ ホールディングス」を設立。

ワン・トゥー・テン・ホールディングス:http://www.1-10holdings.co.jp
ワン・トゥー・テン・デザイン:http://www.1-10.com

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