食品事故では24時間以内の情報開示が基本
カゴメは今月2日、調味ソース「サルサ」など3商品で、使用許可を受けていない食品添加物「安息香酸ナトリウム」が使われていたとして自主回収すると発表した。「安息香酸ナトリウム」は、しょうゆやマーガリンなどで使用が認められているが、カゴメの3商品のような唐辛子を使った商品には使用が認められておらず、食品衛生法に違反する可能性がある。
また、6月27日には、食品専門商社「ラクト・ジャパン」(東京都中央区)が、輸入販売したスペイン産のサラミの自主回収をすると発表した。横浜市保健所の検査で、同市中区の小売店に置いてあった商品から病原微生物「リステリア菌」が26日に検出されたためである。同菌は日本では馴染みが薄いが、イタリアやスペインなどハムやサラミを食する文化圏ではよく知られる菌で、潜伏期間が1~90日で感染すると発熱し、死亡することもある危険な菌だ。一度持ち込まれるとレストランやホテルなどの調理場、特にまな板などで他の食材にも感染し、二次感染、三次感染により被害が拡大することもある。
この両社の回収で共通することは、事態の認知後の企業の対応が早かったことだ。かつてダスキンが、日本国内で使用を認められていない食品添加物が混入された大肉まんを販売したことなどが法令違反に該当し、会社に多大な損害を与えたとして、当時の役員13人を対象とした株主代表訴訟が提起された。その際、役員が法令違反の可能性を知りながら店舗で大肉まんを継続して販売をしていたことについて重く見た大阪高等裁判所の控訴審判決は、11人の役員に対して総額5億5800万円の損害賠償責任を、2人の役員に対して53億4350万円の損害賠償責任を認め、その後、役員が不服として上告などがなされたが、最高裁判所は全ての不服申し立てを退け、控訴審判決の通り確定した。
この判決は、取締役が不祥事を認知した後は、企業としての信頼喪失の損害を最小限に食い止める方策を積極的に検討し、自ら公表するなど、最善・適切な対応を要すること、すなわち適切な危機管理の実施を求めた初めての判例としても著名である。本裁判の結果は、企業にとって食品事故などの認知後の早期公表を促す重要な判例となり、これを怠れば企業の役員は株主などから損害賠償責任を提起されるなどの大きなリスクを背負う可能性を認知させた。
しかし、全ての企業がそうした事態に速やかに対応できているわけではない。「茶のしずく石鹸」を製造販売する「悠香」(福岡県大野城市)など3社は、今月6日時点で消費者764人から当該商品の使用により、商品に含まれていた小麦成分でアレルギーが発症したとして、全国23都道府県でPL訴訟(生産物賠償責任訴訟)を提起され、請求総額は100億3000万円に上ることが報道された。
この事件の特徴は、2005年から商品改訂される2011年12月7日までの間の約6年間にわたり、4700万個もの商品が消費者に使用され続けたことだ。多くの苦情や被害を訴える使用者の声が届いていたにもかかわらず放置され現在に至っている。被害者は痛みやかゆみを訴え、じんましんや顔の腫れを生じ、重篤な人には呼吸困難や意識障害が発生していた。会社は既に自主回収を始めているが、訴訟では商品との因果関係を否定し、全面的に争う状況となっている。
繰り返し言うまでもないが、健康危害を生じる事故は、企業からの速やかな公表が前提となる。公表が遅れれば、被害者が広がるだけでなく、企業の痛みへの回復も長くかかることになる。同時に自主回収など、被害発生の拡大防止への対策も進める必要がある。最近では、憂慮すべき事態に対して多くの企業が正しい選択肢をとっていると願いたいが、とれない企業にはそのリスクに相当する損害賠償額が待っている。
筆者はかつて保険会社に勤めていたが、PL保険(生産物賠償責任保険)で100億円の填補限度額をかけていた企業は1社しか見たことがない。おそらくそれ以上の填補限度額をかけていた企業もないだろう。当時はそれ以上の損害賠償額が発生することはありえないと考えられていた。「茶のしずく石鹸」事故の不十分な対応に対する対価はあまりにも大きく、厳しい代償となってしまった。
次回は23日(木)に掲載致します。
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