SNSで人間関係のメンテナンスに大忙し!クラスタで自己表現する若者たち

<インタビュー>博報堂 若者生活研究室 アナリスト 原田曜平氏


※本記事は『宣伝会議』2012年8月15日号の特集「SNSで広がる新しいコミュニティの形 ○○クラスタを名乗る若者たち」より抜粋して掲載したものです。

就活クラスタ、AKBクラスタ、女子大クラスタ、メガネクラスタ……。ツイッター上を中心に、自らの所属や立ち位置、興味・関心ごとを示すために「自分は○○クラスタ」と自称する若者を目にすることがあります。

ツイッターやフェイスブック、LINEといった複数のSNSを使いこなす今の10~20代は、ネット上で自身のパーソナリティをプレゼンテーションする場が増えました。その姿は等身大で、リアルな人間関係の延長線上にあります。

彼らにとって「クラスタ」を名乗ることはどのような意味があるのか。「クラスタに所属したい・名乗りたい」若者心理について、若者の現状に詳しいマーケティングアナリストの原田曜平氏が分析します。

「沿線飲み」に「語学飲み」…共通項があるから盛り上がる

――「クラスタ」という言葉が若者に広まりつつある現象をどのように見ていますか。

僕らの研究室に所属している「現場研究員」という約100人の若者にオンラインでアンケートをとってみたんですが、「○○クラスタ」という言い方については「ツイッターで見たことがある」「聞いたことがある」という声が多かったですね。言葉単体で見ると日常的に使っているわけではないのと、現状ではまだ都市部の大学生に限って認知されている使われ方だと思います。

ただ、大学で「同じ語学クラスのメンバーで遊ぼう」とか、会社でも「部署横断で同じ沿線に住む者同士で集まって飲みに行こう」とか、何らかの共通項で括ってコミュニティをつくるという現象は以前からあるものだと思います。その延長線上に出てきたのが「クラスタ」というフレーズ。何か共通項があれば口実ができて誘いやすくなるし、集まる言い訳にもなるわけです。

裏を返せば、人間関係が希薄になってきた表れだと見ることもできます。SNSでネットワークが広がると、「仲良し三人組でいつも一緒にいる」という限定的な付き合いはあまりしなくなりますよね。広く人間関係を築く中では、何らかの共通項がある相手の方が親近感を感じることができます。それは住んでいる沿線でもいいし、メガネをかけているといった身体的特徴でもいい。

広く深く関係性を築きたいから、多様なクラスタで「括られたい」、複数のクラスタに「所属したい」という願望が出てくるのだと思います。「せめて一緒にいる時間だけは、うわべだけでも“すごく仲が良い関係”と錯覚したい」、あるいは「そのクラスタにあてはまらない人を排除することで、絆を深めたい」という思いもあるのかもしれません。

例えばツイッターで、ある有名私立高校の出身者(クラスタ)が集って、自分たちにしか分からないような出身校の「あるある」ネタをツイートし合っているとします。それは第三者からすれば、ときにちょっぴり不快だったりしますよね。内輪ネタのつぶやきで盛り上がるなよ、と(笑)。でも当人たちからすれば、ツイッターというオープンの場で「オレたち仲が良いだろ?楽しそうだろ?」といった排他的な心理が生まれて、そのクラスタに属する者同士の絆を深めることに一役買っていたりするんです。

「オタク」という記号がポジティブ化している

――大学生のツイッターのプロフィール欄を見ていると、出身校だけでなくゼミやサークル、アルバイト先、今の興味・関心ごとや就職したい業界、短期の留学やインターン経験などをたくさん書き込んでアピールしていますよね。ここにも自分のクラスタを「表明」したいという意思が見られます。

たくさんのクラスタに所属していることをオープンにすると、自分のPR材料になりますからね。とにかく他者に見られている、という意識が強い。だからこそ、ツイッターのアカウントを使い分けるという現象もあります。ダブルアカウント、トリプルアカウントは当たり前。毒を吐きまくるアカウントとか、好きなアイドルのことだけをつぶやく専用アカウントとか。

あと僕が最近注目しているのが、自らを「オタク」と言いたがる若者が増えているということ。特にルックスがキレイな子、カッコいい子ほど、オタクを自称したがるんです。

でも実際はマニアックな質問をぶつけてみても答えられない子も多いし、オタクが認めるほど特定の分野を極めているわけではなかったりする。「見た目はかわいいのにオタク」というギャップがアピールポイントになる、という意識があるんでしょうね。僕ら上の世代からすれば「そんな余計なこと言わないほうがいいのに、もったいない!」と痛々しく感じてしまうこともあります(笑)。

そもそも旧来のオタクというのは他者とのかかわりを絶ってまで、興味ある分野にのめりこんできた人たち。今の若い世代は10代からSNSとか他者とのコミュニケーションに時間を割いて育ってきているので、ハードな「オタク」になりにくい環境にあるといえます。

つまり反社会的な存在としてネガティブに捉えられてきたはずの「オタク」という記号が、ポジティブな自己PRの武器になりつつあるわけです。これも、クラスタに通ずる考え方だと思います。

ツイッターにカギをかける、SNSに翻弄される世代

――SNSの普及が、自分の立ち位置や人間関係を複雑なものにしている気がします。

特に今の大学生は、人間関係のメンテナンスに対する意識が高い。ソーシャル・ネットワークもリアルな人間関係に基づくものなので、一度誘いを断ったら二度と呼ばれなくなるんじゃないかとか、付き合いの悪いヤツという評判が広がらないかとか、とにかく敏感です。クラスタ表明で自己アピールする一方で、ツイッターにカギをかけている子も多いのも特徴です。なぜなら知り合いにツイートを見られて、自分の言動を分析されるのを恐れているから。

彼らの場合、在学中にツイッターやフェイスブックが盛り上がってきたので、SNS上の人間関係に翻弄されてしまっている世代だと思います。ツイッターで反応しなきゃとか、「いいね!」押さなきゃとか。でも今の中高生はそんな上の世代を見てきて、SNSに依存しすぎない上手い付き合い方ができるようになるんじゃないかと思っています。

原田曜平(Yohei Harada)
1977年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、2001年博報堂に入社。マーケティング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、2010年より「博報堂若者生活研究室」アナリスト。多摩大学非常勤講師。2003年、JAAA懸賞論文・新人部門入選。著書に『近頃の若者はなぜダメなのか?』(光文社新書)、『情報病』(角川書店)、『中国新人類・八○后が日 本経済の救世主になる!』(洋泉社)、『10代のぜんぶ』(ポプラ社)、『黒リッチってなんですか?』(集英社)などがある。



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