世界の注目をあびる「領土問題」、日本の交渉能力は発揮できるのか?
21日付の報道関係各社のニュースランキングは10位までのうち半分以上が「尖閣諸島」と「竹島」問題に関するニュースとなった。19日の中国25都市に及ぶ反日デモや李明博韓国大統領の竹島訪問に対して野田首相が国際司法裁判所(ICJ)へ共同提訴を決めたことなどが重なり、領土問題へのニュースが一気に注目されたことによる。
中国国内では反日デモに関する報道が著しく抑えられており、大都市以外に住む知人に聞いても詳しい状況がわからないほど関心が持たれていない。一方、大都市圏では報道が規制されていてもネットによる情報公開で、一気に反日の気運が高まりデモが拡大した。暴徒化した民衆は日本料理店や日本車を破壊したが、いずれも所有者は中国人だったことが判明しており、冷静さを欠いた見境なしの破壊行為となってしまっている。こうした情勢を受けて、外務省の海外安全ホームページで「日中関係の動きに関する注意喚起」を掲出しているほか、中国内の日本国総領事館は注意喚起の情報提供を在留邦人に向けて発信している。
「尖閣諸島」には最近香港の活動家14人が不法上陸し強制送還されたが、その後に日本人10人(東京都議や兵庫県議ら地方議員5人を含む)が了承を得ず尖閣諸島の魚釣島に上陸し、両国の対立を激化させている。さらに香港の活動家や台湾の県議が10月に上陸を予定しており、この問題を一層難しくする可能性が高まっている。中国・台湾・香港を巻き込み、「尖閣諸島」の領土問題は長期化する情勢が強まった。
閣僚級の上陸としては、7月にロシアのメドベージェフ大統領が国後島を訪問し、今月の李明博大統領の竹島上陸があった。日本ばかりが攻撃のターゲットとなっているかのように日本の領土に不法に上陸されている。しかし、見方を変えれば、各国の国内政治の行き詰まりを背景に、愛国心をあおり、政権の支持回復を図る道具として領土問題を利用していると考える方が妥当だ。現実に領土問題以降の各政権の支持も一時的に回復している。
こういった問題のすり替えに日本政府が冷静に対処し、踊らされないことは重要であるが、同時に対話だけで打開できるのだろうか? 最近では、北朝鮮の拉致問題も大きな進展を見せていない。
竹島は1905年に閣議決定で島根県に編入されて日本の領土となり、その後終戦によって植民地支配から解放された韓国が、1952年に李承晩大統領が海上に「李承晩ライン」を一方的に設定し、竹島を取り込んだことで両国に領土問題が生じている。韓国は、2年後の54年に竹島に沿岸警備隊を常駐させ、灯台を設置して実効支配を開始した。その後もヘリポートや接岸施設を造り、実効支配を進めている。今回も日本人が竹島上陸を強行した場合に備えて、鬱陵島に駐在する警備隊が即刻支援に乗り出し、必要であれば、大邱地方警察庁に所属する警察の特殊部隊を投入する計画という。韓国外務省は同時に、今後も世界に向けた広報活動をしていくとしているが、それは数年前から始まっていた。その一例は、インターネット地図サイト「Google Maps」において「竹島」が「韓国の領土」として表示されるなど、その波及効果は思わぬところに現れている。
日本はこうした韓国の実効支配に対して、1954年と1962年に領有権問題を国際司法裁判所(ICJ)に付託する提案を行ったが、いずれも韓国が拒否したため進展しなかった。今回、日韓国交正常化(1965年)以降初の国際司法裁判所(ICJ)への共同提訴を提案することになったが、韓国側は既に「遺憾」の意を表明し、「一顧の価値もなし」として提案に応じないことを発表している。韓国はその領有権について「歴史的、地理的、国際法上も」とし、日本側も「歴史的、国際法上も」と主張しあって両者取り合わない状況が継続している。
この状況は、2005年2月に、当時の駐韓大使がソウルで「竹島は日本の領土」と言明、韓国内の反日感情が一気に高まったときと似ている。その後、政府、自治体や民間の会議、交流は次々と中断、日韓関係は極度に悪化した。今回も同様に、重大な会議のキャンセルが続いている。中国の反日デモの拡大を含め、国内企業は既に経済的制裁によって日韓、日中の事業に大きな影響が出るのではないかと懸念し、情報収集を急いでいる。
竹島問題や尖閣諸島問題の状況を見ると、各国の政治家や活動家が不法に領土に入り、「志を示すために行動した」と説明しているが、同じ小さな土俵で口喧嘩をしているようだ。国や地域を代表する政治家であれば、政治の場で意見書などをまとめ、国会に提出するなど、国民にもわかるような対応が求められているはずだ。過激に見える韓国ですら、法制化を同時に進めているとの報道があり、外交においても政治においても日本は大きく遅れを取っているように感じるのは私だけであろうか?
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