経営者がダメな会社は必ず不正リスクにつまずく
経営者の資質は、ある意味、個人的な倫理観や個性に基づくものであるが、企業倫理を向上させようという企業側の意思・努力いかんによっては誠実性を高め、高度なリスク管理体制を整備することも可能である。同時に「誠実性の高い」企業風土を作り上げることで「不正発生リスク」を低減させることも容易となる。
一方で、以下のような状況が社内で容認され、不正リスクの度重なる発生により致命傷となった企業も少なくない。
- 会社には、結果を出していれば手段(プロセス)は問わない風潮がある。
- 会社は、プロセスではなく、結果を重視して個人の業績を評価している。
- 会社には、「倫理の重視」「不正撲滅」の風潮が浸透していない。
- 会社には、法律や規則に明確に抵触しなければ企業利益の追求が優先される風土がある。
- 会社には、「ルールには解釈の余地がある」という、ご都合主義的な姿勢がある。
- 会社には、「背(企業倫理)に腹(企業存続)は代えられない」という意識がある。
- 会社には、内部通報のしくみはあるが、形骸化していて全く機能していない。
できる経営者は不正への取り組みにも差が!
誠実な企業風土はトップマネジメントの誠実性や倫理観によって形成され、トップマネジメントの取り組みは、「不正リスク管理の有効性」に重要な影響を与える。具体的には、次のような状況が確認される会社では、不正リスクは相対的に低いものと考えられる。
- トップマネジメントは、「不正防止プログラム」の導入を含む、不正リスク対策に真剣に取り組んでいる。
- トップマネジメントは、常日頃から「不正防止」が会社の重要な方針の一つであるとのメッセージを発信している。
- トップマネジメントは、「不正防止」のために十分な人的・物的資源を投入している。
- トップマネジメントは、常日頃から「誠実な行動」をとっている。
組織への浸透とCSR的視点
企業活動は、その企業の色々な構成員の活動の集積であり、企業の不正撲滅の方針は、組織の末端にまで浸透していなければ、全体としての有効性が担保できない。また、「不正撲滅」が企業の重要な課題であるならば、単に何らかの施策を行うのみならず、組織への有効な浸透ならびに各人のコミットメントを確認しておくことが重要である。
また、組織への浸透はその担保として社会的責任の視点から公表の方法を取る場合がある。具体的には、次のような状況が確認される場合は、不正リスクは相対的に低いものと考えられる。
トップマネジメントは、不正を撲滅する旨のメッセージを、継続的に社内に発信している。
- 会社は、不正防止プログラムの存在を対外的に公表している。
- 会社は、組織構成員に対する「不正防止研修」を、戦略的・計画的に実施し、かつ、その履歴を管理している。不参加者には追加の参加機会を与え、全員参加を達成している。
- 会社は、会社の不正防止への取り組みを組織構成員に定期的に伝達するための方策(社内ニュースレターなど)を有している。
- 会社は、組織構成員から、不正撲滅に関する会社の方針を理解し、それを遵守している旨の「確認書」を徴求している。
- 会社は、取引先などの組織関係者に「不正防止プログラム」を説明したうえで、不正防止に関する会社の方針を理解し、それを遵守している旨の「確認書」を徴求している。
不正に対する知識を疎かにしないことが重要
不正を防止するためには、不正を防止するのみならず、同時に不正を検出し、対処する必要がある。組織を挙げて不正防止を実現するためには、そこに関与するすべての人々が、不正に関する正しい知識を持ち、不正に関与しないよう心がけるとともに、不正の端緒を発見して、不正の発見と対処の起点となることが重要である。
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