価格競争の激しい小売業界で、小売りやメーカーを交えた新しい取り組みが話題となっている。今日は、米国小売業の新潮流を紹介したい。日本でもこのような健康的な取り組みが始まることを願いながら書いてみたいと思う。
Hy-Vee店内で体に良い食品について顧客に教える栄養士
写真:STEPHANIE STROM
肥満大国の米国で高まる食への関心
肥満が社会問題になっている米国では、人々の食生活を大幅に改善していかなければいけない状況だ。しかし実際のところ、糖質と脂質のどちらを気にすればよいのかなど、消費者は健康のためにどのような食品を買ったら良いかわからないという。肥満から心臓系の病気になることも多く、米国では糖尿病の患者数も多い。そうした患者たちは、医者にアドバイスを受けている。あるいは、数多くあるダイエットセンター等と呼ばれる施設で、食生活についてのアドバイスを受けることもできる。ただ、当然ながらダイエットセンターを利用して食生活の見直しをするためには、それなりのコストがかかってしまう。
「栄養士」を全店舗に配置する「Hy-Vee」
このような背景から、米国のHy-Vee(ハイビ―)というスーパーは、235店全ての店舗に栄養士を配置している。Hy-Veeの他にも、スーパーチェーンKroger(クローガー)やMeijer(メイジャー)も、店舗に配属する栄養士の数を増やしている。
店舗で受けられる「栄養士」サービス
Hy-Veeに勤務する栄養士たちは、店内でのカウンセリングやガイドツアーを行う他、料理教室を開いたり、顧客が持ち帰る商品をまとめたり、バイオメトリック検査を行う。さらに、学校や企業、市民イベント等を訪れて食事に関するプレゼンテーションを行ったりする。来店客は、店内で食品の役割や、どのような食品を食べたらよいのかカウンセリングを受けた後、一緒に店内を回り、実際にどの商品が食べた方が良い食品群に入るのか等を教えてもらうこともできるという。別の施設にわざわざ足を運ぶことなく、買い物をする際にカウンセリングを受けられるのはとても便利だ。商品を選ぶ際、何か疑問を抱いたときに、すぐに栄養士に訊きに行くこともできる。
健康的な食生活をサポートしてくれるHy-Veeと画期的な「NuVal System(ヌーバルシステム)」
NuVal Systemロゴとnutritional scoring system
Hy-Veeでは、栄養士や医療専門家の間で使用されており、30以上の栄養素と栄養因子を考慮されたNuVal Systemを使用している。スコアが1から100までの数字で表されており、スコアが高い方が、その商品は総合的に栄養があるということを示す。以下のビデオにあるように、食品を選択するときに、そのNuValスコアを見て、瞬時にどの商品がより体に良いのかを判断することができる。このNuVal Systemについて説明するのもHy-Veeに勤務する栄養士の役割だ。
NuValシステムを参考にランチを選ぶ米国の高校生
このNuValシステムは、Hy-Vee以外にもますます多くの小売店が採用し始めているという。価格の横には、このシステムのスコアが表示されているので、消費者は価格だけで商品を選ばず、栄養価など商品の価値も踏まえて購入するようになる。
NuValシステム利用小売店例
Hy-Veeでは、店の栄養士たちについて他のスーパーマーケット経営者からの問い合わせが絶えないそうだ。そして、一番多く聞かれるのが、栄養士を置くことに対する投資リターンについてだそうだ。ただ、これを算出するのは非常に難しい。しかし、Hy-Veeの店舗がある8つの州の店舗責任者の間では、店舗勤務の栄養士を欠かすことができないという意見で一致しているという。
また、Hy-Veeで人気のあるプログラムとして「Fast Fit Meals」というものがある。これは、カロリーコントロールと栄養のバランスが考えられた一週間分の食事を提供するもので、1日3食と2回のスナック、飲み物を含んで料金は週に75ドル。毎週決まった曜日にピックアップしている。1日の摂取カロリーは1200キロから1500キロカロリーに計算されており、その食品をどのように調理すればよいかの説明書も含まれている。メニューは4週間のローテーションが組まれ、その間同じものが繰り返されることはないという。
まとめ
もともと健康に関心のある消費者は、米国ではオーガニックスーパーの「ホールフーズ」といった専門店に行くのだが、こうした店舗では価格は高めだ。普通のスーパーマーケットでは、安さと引き換えに、健康が犠牲になってしまうこともある。今回紹介したNuValシステムは、1から100までのスコアを使うことで、体に良い食品かどうか来店客が一目でわかるようにした。
商品を選ぶ際に、価格だけではなく、どの食品を食べた方が体にいいのかがスコアでわかることは簡単だし素晴らしい。私はイオン出身なので、同期入社の仲間に、日本でもこうしたことをやったらどうかと連絡をしてみようと思う。近い将来、日本国内のスーパーマーケットでも、「栄養士」による健康支援のサービスや、食品スコアが登場し、多くの人が安心して買い物ができるようになると期待している。
青葉哲郎 「マーケティングからイノベーションを起こすために」バックナンバー
- 第12回 客が支払い料金を決める「パネラケアズ」カフェ~米国1800万世帯の食糧不安(food insecure)への取り組み(9/28)
- 第11回 米国スーパーマーケットの新潮流~全店に「栄養士」がいる健康支援サービスや、食品をスコアで評価する「NuVal System(ヌーバルシステム)」が話題(9/14)(こちらの記事です。)
- 第10回 夏休みスペシャル:この夏50万人以上がサークルに参加したGoogleのバーチャルサマーキャンプ「Maker Camp」の取り組みが素晴らしいので、まとめてみた。(8/31)
- 第9回 ロンドンオリンピックで繰り広げられた広告の戦い(8/10)
- 第8回 消費者の待ち時間を狙ってマーケットシェアアップ!世界で広がる「バーチャルストア」キャンペーン(7/27)
- 第7回 旅行業界のマーケティングトレンド。顧客を巻き込んだ広告活動。~エールフランス、ソフィテル、日本郵船の事例から学ぶ~ (7/13)
- 第6回 米国スターバックスの新しい取り組み「Create Jobs for USA」~雇用を増やす取り組みから日本人が学ぶべきこと(6/29)
- 第5回 急拡大する「ソーシャルビデオ」米国市場~米国ユニリーバ事例~(6/15)
- 第4回 経営目線でソーシャルメディア・マーケティングを考える~路線変更を決断したリクルートのリクナビNEXT「+1cafe」の成功事例(5/25)
- 第3回経営目線でリスティング広告を考える~広告効果の優劣を決めるのは何か?(5/18)
- 第2回 ROI思考を身につけ、競争力を高める3つの要素(4/27)
- 第1回 マーケティング部門の現状(4/13)