林潤一郎(オレンジ・アンド・パートナーズ/2005年宣伝会議コピーライター養成講座総合コース、2006年同上級コース、同専門コース〔山本高史クラス〕修了)
全ページ最高賞狙いとか、随分と大きなことを言ってのけた僕の自信は、いったいどこから湧いてくるのでしょうか。それは、いつ何時でも、元気玉をつくることのできる環境のおかげです。
いまの会社での代表的な仕事のひとつに、「TOKYO SMART DRIVER」という市民主体型の交通安全プロジェクトがあります。悪い運転をした人を叱るのではなく、良い運転をした人を褒めよう。とか、思いやりを増やして交通事故を減らそう。というユニークなコンセプトで交通事故の削減に取り組んでいます。今年8月には5周年を迎え、全国に10万人以上の賛同者と130以上の賛同企業、28の地域に派生団体が生まれるまでに成長しました。
「交通安全に休み無し!」と、365日、企画と実行を繰り返しているわけですが・・・正直、かなりタイヘンです。それこそ企画というものは書類を仕上げるだけでは意味が無くて、ちゃんと形になって、課題を解決して、はじめて「Good Idea!!」と呼ばれるわけです。これはプランナーのジレンマだと思うのですが、過去に類を見ない画期的なアイデアを企画書にしたためたまではいいものの、一体全体、どうやって形にすればいいんだ!? なんてことがよくあります。それがたとえ、最高賞を受賞するようなコピーでしあげた企画書であっても。
ここで役に立つのが「みんなでつくる企画術」です。みなさん、ドラゴンボールという漫画に出てくる必殺技“元気玉”はご存知ですよね? 地球上のありとあらゆる生き物から少しずつ元気を分けてもらって、巨大なエネルギーの塊を作るアレです。クラウドファンディング的なアレです。誤解を恐れずに言えば、コピーライターをやるような(志望するような)人は “一匹オオカミ”的な仕事の進め方を好む傾向が強いと思います。実際僕も、喫茶店の隅っこに陣取ってちくちくノートにキャッチフレーズを書くタイプの人間ですし、ブレストで自分以外の誰かから面白いアイデアが出ると嬉しいどころか悔しいと思うタイプの人間です(笑)。でもプランナーとして良い仕事をするには、そんな小さなことを言っていてはダメ。素直な気持ちで元気玉を作らなければいけません。
例えば高速道路を舞台にしたショートフィルムをつくって、賛同者を増やそうという企画をします。台本も用意できたとしましょう。さて問題。誰に何を説明して、どうやって撮影をすれば、あなたの企画書通りの作品ができるでしょうか? 経験を積んだ方なら(知ってらぁ)と思うかもしれませんが、普通に仕事をしてきた20代、30代の若手なら(マズい。言ったはいいけど何もできねぇ)と、冷や汗をかくのが普通だと思います。
尊敬できる人を見つけましょう。一度仕事が動き出したら、信じて託しましょう。ひとりでは1しか生み出せない仕事が、10にも100にもなります。色々な人から知恵を、情熱を、もらいましょう。摩擦を恐れずに、みんなと一緒につくることが何よりも大切だと思います。つい先日、実際にショートフィルムの企画を実施するにあたって、色々な障壁を乗り越えながら撮影をスタートすることができました。人に助けてもらえなければ、いまこうしてコラムを書くこともなく、部屋で体育座りをしていたことでしょう。
つまり今回のコラムで何が言いたかったのかと言うと・・・。企画は元気玉だ! ということです。僕も昔は勘違いしていました。クリエイターと呼ばれる人は、己のアイデアや技術で局面を打開するスーパーヒーローみたいな職業だと(遠い目)。32歳にして実感しています。高みを目指すためには、みんなに“元気”を分けてもらわなければならないということを。
書けば書くほど「書いた本人が実践できてなきゃダメだよね」という自分の中から湧き出るプレッシャーに押しつぶされそうになりますが、いよいよ来週で最終回です。〆切直前まで何を書こうか悩んでみようと思います。あと1回、どうぞお付き合いくださいませ。
林潤一郎
オレンジ・アンド・パートナーズ プランナー/コピーライター/ディレクター。1980年生まれ。東洋大学社会学部卒業後、広告営業を経てリクルートメディアコミュニケーションズ入社。ディレクターとして様々な企業の求人広告を制作し、2007年東京コピーライターズクラブ新人賞を受賞。2010年より現職。主な仕事に首都高『TOKYO SMART DRIVER』、WDLC『SUPER ROOKIES』のキャンペーン企画、クリエイティブディレクションなど。その他、社内のコピーライティング業務全般。宣伝会議コピーライター養成講座2005年総合コース、2006年上級コース、専門コース(山本高史クラス)修了。
【バックナンバー】
コピーライター養成講座卒業生が語る ある若手広告人の日常
- 2012年8月 小林麻衣子「女子力」より「おっさん力」
- 2012年7月 杉山元規「悩める29歳(1)」
- 2012年6月 栗栖周輔「学歴なし、職歴なしで広告業界に入るには」
- 2012年5月 永友鎬載「僕の失敗(1)」
- 2012年4月 大津健一「幸運の女神は最終講義で微笑んだ」
- 2012年3月 大重絵里「考え続けられる人が、輝いている」
- 2012年2月 山川力也「コピー」じゃなくて、「いいコピー」を書くために。
- 2012年1月 安田健一「土俵に上がれない時代は、土俵づくりから。」
『コピーライター養成講座』
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