昨年の3月11日の東日本大震災直後、僕が感じたのは、「いま、広告が試されている」ということ。あのとき、生きるために本当に必要なものとそうじゃないものが、ふるいにかけられているような感覚が僕にはありました。
「広告はどっちなんだろう」。
そんな思いに駆り立てられるように、避難所に本を届ける「ユニセフちっちゃな図書館プロジェクト」をはじめ、いくつかの震災復興支援のプロジェクトを立ち上げてきました。
箭内道彦さんも、広告業界の第一線で活躍するクリエイターでありながら、震災直後から、自身がメンバーの一人であるバンド「猪苗代湖ズ」の活動をはじめ、僕のアクションとはまた違う、音楽というカタチで、福島での震災復興支援を続けていました。
震災以降、箭内さんが、どう感じていたのか。
箭内さんにとって、社会のための活動と広告の仕事は、どうつながっているのか。
そして、今、広告に何ができるのか。
それを語りあいたいと思ったのです。
広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT
第4回は、箭内道彦さんです。
箭内道彦 プロフィール
すき あいたい ヤバい クリエイティブディレクター。「月刊風とロック(定価0円)」編集長。主な仕事にタワーレコード「NOMUSIC,NOLIFE.キャンペーン」、リクルート「ゼクシィ」などがある。
頼まれていないのに、福島の誰かのために、福島を勝手に広告している。
並河:はじめまして。今日は、よろしくお願いいたします。
最初にうかがいたいのは、箭内さんの中で、福島での支援活動と、広告の仕事はどうつながっているのかということなのですが。
箭内:「福島を勝手に広告しているんだ」と、自分では思っています。福島というクライアントを、発注されないのに担当している、という感覚。さらにいえば、福島の問題は、福島だけの問題じゃない。「日本」とか「世界」というクライアントがいるとして、その問題を探したり、解決する方法を探したり…そんな感じです。
昨年の3月17日、「猪苗代湖ズ」として、『I love you & I need you ふくしま』をレコーディングし、利益の全額を福島に届ける活動を始めました。
僕は、そのメンバーであり宣伝部長でもあったんですよね。レコード会社から出していない曲が広まって、昨年の12月31日にNHK紅白歌合戦に出場できるところまでいけたのは、自分が、広告の世界で学んできた技術のおかげでもあると思うんです。
並河:僕は、震災後、3月11日に被災地で生まれた子どもたちを撮影する「ハッピーバースデイ 3.11」というプロジェクトを進めていて、そのプロジェクトも昨年NHK紅白歌合戦で取り上げてもらえたんですよね。
だから、紅白の当日、僕も、楽屋前の廊下にいて、箭内さんたちの演奏が終わったとき、その廊下にいた取材のメディアの人たちやスタッフから、すごい大きな拍手が起きたのを見ていたんです。鳥肌が立ちました。
猪苗代湖ズは、「紅白という場所を自分たちのメッセージを伝えるために使おう」と明確な意志を持って舞台に上がったんだ、と、その場にいたみんなが感じたんですよね。
箭内:とにかく、紅白というあの場で、福島のことを発したかった。「まだ何も終わっていない。福島を忘れてもらわないために来ました」というメッセージも、賛否両論出ても発したかったんです。
こうした活動をしていると、福島の専門家になったの?とか、広告やめてミュージシャンやってるの?とか言われるときもあるし、葛藤もあるんです。
でも、福島と向き合ってきたからこそ、つくれる広告があるはずだとも思っていて。世の中の、リアルな声や気分をとらえるスキルはあがっているって感じているんです。
僕が思うのは……「自分のために」がんばる人は限界がくる。「お金のために」がんばる人は限界がくる。もう「お金はいいや」って思うときがくるかもしれない。
でも、並河さんが手がけているソーシャルプロジェクトもそうだと思うんですが、「誰かのために」「社会のために」というスイッチが入ると、「やめるわけにいかなくなる」。
世界中の人が幸せになるまで、仕事が終わらなくなる。昨年は、自分がそこのモードに入った年だったなと思います。ひっこみがつかなくなったという部分ももちろんあるんですけれど。
考えてみれば、誰しもいつ自分が災害にあうか分からない訳で、お互い様だって思うんですよね。ありがた迷惑っぽく、だけどかわいらしく、思いやりを持って、やり続けるしかないですよね。
広告が抱えている「伝え方だけがうまいこと」によるさびしさ。
並河:箭内さんの話を聞いていると、「伝える」ということの力をすごく信じているように思います。
僕は、今年、「ごしごし福島基金」というプロジェクトを立ち上げました。
福島にボランティアで行って、いろんな人に「今いちばん困ってることは何ですか」と聞くと、みんな口をそろえて「放射線」って答えるんですよね。だったら、そこに向き合う基金があってもいいんじゃないかと。一般の人から募金を集めて、国や自治体の手が届かないところを除染していく仕組みで、今年の7月には、郡山市の幼稚園のプールで除染活動をして、プール開きにつなげることができました。
箭内:いいですね、これ。素晴らしい。
並河:僕の本業は、コミュニケーションなんですが、でも、今はコミュニケーションだけじゃなくて、アクションもなくちゃいけない、と感じているんです。
でも、こうしたプロジェクトを行うとき、自分の強みは、やっぱりコミュニケーションの部分なんですよね。
今回の除染活動では、Webサイトで、その様子をリアルタイムで伝えました。できるだけ分かりやすく、偏った意見でもなく、僕が体験したことを、そのまま冷静に伝えることを心がけたら、「除染活動ってこうなってるんだ、やっと分かった」というようなメールもたくさんいただきました。
そうすると、「自分にできることって、やっぱり伝えることなのかな」と思いつつ、「でも、伝えるだけじゃだめで、アクションを起こすことが大切」とも思う。箭内さんには、そういう葛藤はありませんか?
箭内: 広告が抱えている「伝え方だけがうまいこと」によるさびしさって、広告をつくっているみんなが感じていることなんじゃないでしょうか。
だから、そこに、並河さんのいう行動だったり、現地に行ったり、人に会ったり、そこで感じたことをまた伝えたり、っていう「肉体性」が、今必要とされてるんじゃないかと思います。
みんなで悩みながら、嘘じゃない何かを見つける。
箭内:「肉体性」とは、自分の体で感じたことに正直に生きる、ということ。
これは、人ごとではなく、自分の問題として考えていることなんですが、「おいしくないと感じたもの」でさえ、仕事としては「おいしいよ」と伝えなくてはといけないと思ってしまいがちな広告の世界の人たちが、これからは、ちゃんと自分が伝えることに責任を持てるか、ということが問われていると思うんですよね。
並河:広告は、企業のメッセージの代弁であって、制作者のメッセージではない、という人もいて、それは確かにその通りなんだけど、でも、箭内さんのように、自分の顔を出して、「企業の考えのここに共鳴して、やっているんだ」と表明するのも、責任を持つ一つの方法なんじゃないかと思います。
箭内:たぶん、自分は……広告の教科書からは外れちゃうかもしれないけれど、企業のメッセージに重ねて、自分自身のメッセージを何らかのカタチで発信して、その効果を確かめたいんだろうなと思います。
今年、ゼクシィのCMを手がけたのですが、未婚の黒柳徹子さんが出演して、未婚の僕がつくっていて、でも、結婚していなくったって、結婚というものと向き合えば広告になる、と思うんですよね。
このゼクシィの仕事では、「結婚はしていなくたって、みんな誰かの子どもで、結婚とつながっているんだ」と思ったら、何かが生まれる気がしたんです。
並河:素敵ですね。
箭内:たとえば、自分にとって「おいしくないと感じるもの」の広告をつくってください、と言われたとき、「おいしい」と自分の気持ちをごまかしてつくるのではなく、その「おいしくないと感じるもの」ときちんと向き合ってみたら、何かが生まれるかもしれない。
やみくもにほめるんじゃなくて……企業の方も、制作する人間も、出演する人も、みんなでいっしょに伝えたいことを悩みながら探す、そうしたら嘘じゃない何かが見つかると信じています。
後編に続きます。
並河 進「広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT」バックナンバー
- 松倉早星さんに聞く「解決しない広告」(11/7)
- 佐藤尚之(さとなお)さんに聞く「効率じゃないコミュニケーションへ」(10/24)
- COMMUNICATION SHIFT「今週は、ひとりごとです」(10/17)
- 丸原孝紀さんに聞く「ホットパンツで革命を」(10/3)
- 箭内道彦さんに聞く「バラバラになった日本を、広告の技と愛でつなげたら」(9/19)(こちらの記事です。)
- 中村洋基さんに聞く「世界をつまらなくしているものに抗いつづける」(9/5)
- 永井一史さんに聞く「デザインとは、もともと社会をよくするためのもの」(8/22)
- 澤本嘉光さんに聞く「広告の未来は、広告をつくっている僕らが決めることができる」(8/1)