リアル店舗とウェブサイトと五感の関係について
米国のスーパーマーケットなどの売り場を見て「良いと思うお店の特徴」は、五感に訴える力が強いこと。そしてこの強さは、現在プロモーションにおいても、ウェブサイトによる訴求においても同様に、成功のためのポイントと感じます。では、ウェブでのコミュニティや表現や仕組みには、五感の訴求として視覚と聴覚以外があるのでしょうか?
今回は、この売り場やウェブサイトにおける「五感訴求」をテーマにします。
米国のスーパーマーケットや百貨店で買い物したことがない方でも、「店舗のイメージ」を尋ねると大抵は、「日本の売り場面積に比べてかなり広い」とか「商品のサイズが大きい。ビールや飲料はダンボールに入ったケース売り」「買物カートがとにかくデカい」といった声が聞かれると思います。
確かに下の写真にもあるように、商品の陳列のボリューム感や売り場の広さ、パッケージの色合いなど、日本の売り場とはかなり違う印象を受けます。
細かに見て行くと、野菜や果物が袋詰め(ビニール袋に入れられていない)されていないことでシズルが伝わり新鮮さが際立ったり、店内の照明の色(海外に比べて日本の照明は白い)や通路(導線の幅や床面の素材)などに違いはあります。プライスカードやポスターなども、やはり英語で書かれた表記や色合いには、ダイナミックさや楽しい空気みたいなものを感じ、売り場の雰囲気を変えています。これらが全部を合わさって五感を刺激して、広い売り場で大きなカートを押すと、買い物するときの気持ちをさらに盛り上げている印象を持ちます。
ウェブサイトにおける五感の関係は?
ウェブサイトにおける買い物や来店の促進策としては、クーポンやサービス品や買い物情報の提供が中心になっています。割引やセールなど目に見える「お得」は分かりやすいです。ただし、クーポンをはじめ価格訴求は、運営者側(企業:リテールおよびメーカー)の利益に大きく影響するので、それ以外の方法を軸に考えたいと思います。
そこで、今回は五感に注目してみました。
パソコンにしても、スマートフォンにしても画面(モニター)を通じて見るわけですから、視覚とそこから聞こえてくる効果音やBGM、ナレーション(聴覚)による影響が中心となります。
ただし、外国のスーパーマーケットで上手に展開している企業のウェブサイトの内容は、この五感が(視覚や聴覚以外)相互に作用して、本来ウェブからは感じられない嗅覚や触覚や味覚をも想像させてつなげることで、買い物やお店に行くことへの期待を抱かせ、来店を促進させるようなものもあります。
ちょうど日本のトレインチャンネル(電車の扉の上に付いているモニター映像)の広告でよく見られるマクドナルドのCM映像のように、シズル感や調理の方法を訴えかけたりする表現に、店員さんや買物客に最も影響を与える人物(買物客の友人やローカルと呼ばれる地元の生産者)が登場してサービスやプロモーション内容を語りかけるなどのシーンや仕組みが足されたものです。
ウェブサイトを通じてできること
商品のシズルで訴求をしたり、調理の音で料理することや食事を促したり、パッケージや商品フォルムや材質をしっかりと見せたり工夫することで、直に触ってみたい感覚を高めてみたり、お店に行くことで(価格訴求だけでなく)素晴らしい体験ができたり、そうした期待をさせる表現がウェブサイトでできないかと考えます。リアル店舗においては、これからオンラインによるコンテンツの有り方も重要なポイントです。オンラインからオフラインへ(O2O)、買い物客への利益の還元型と合わせて、ここにもヒントがあると感じます。
何をヒントの視点にするか
また最近、プロモーションに活かすにはどうした〈視点〉を持てば良いか?や企画や表現の際の〈ヒント〉になるものはないか?と質問を受けることが有ります。
私の場合は、課題がつかめてそこから何かの展開につなげたり表現する際に、海外のCMを見て刺激を受けることが多いです。
例えば、下の動画は、「ブラジルNo1のスポンジ・ブランド」のCMです(ブラジルらしさを感じさせる陽気なプロモーションです)。
サンパウロ市内で若者に人気のレストランと1週間タイアップを組み、レストランで食事をした若者が会計を申し出ると、店員は代金を受け取る代わりに『特別なインビテーション』を手渡します。
こちらのインビテーションは「Scotch-Brite」(ブラジルNo1のブランド)のスポンジでできており、その表面には「できれば料金を払いたくないですよね。料金を支払う代わりに、あなたが食事をしたお皿を(このスポンジを使って)自身で洗ってみませんか」と記載されています。
下記の動画(1分41秒)では、その様子が見られます。
このCMを見た後に、「このプロモーションいいね」や「支払いの代わりに、スポンジを使って、自分の食べた料理のお皿を洗ってみようかな」そう思えたなら、「お店を利用してみようとか、お店に行きたくなるキモチのスイッチを入れる仕組み」に役立てられないか?そうした〈視点〉で捉えてみます。スポンジでお皿を洗うことや、還元されるサービスを他の何かに置き換えたり、何がそういうキモチにされたのかをできるだけ掘り下げてみます。この動画は五感をつなげて訴求しています。
これまで、生活の習慣や買物の環境の異なる米国の流通小売業の売り場やプロモーションを テーマに書かせて頂きました。中でも、デジタルの活用やO2O(オンライン・ツー・オフライン)の取り組み、ショッパーと直に触れ る売り場の店員・スタッフのスキルの有り方などは、今後の日本においても課題となったり工夫 をすべき点として多くを感じました。
日米の様々なケースを比べながら、ハカ(図・測・計・量…)ることで、みなさんのマーケティングや 広告活動への取り組みとして、何かの発見やお役に立てば、それが業界の活性化や未来のチカ ラになればとも思いました。
国内や海外の売り場やプロモーションについてテーマに追求することは、今後も続けて参ります。長い間、お付き合いいただき、ありがとうございました。
※連載「最新米国小売業からプロモーションをハカる。」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。
倉林武也 「最新米国小売業からプロモーションをハカる」バックナンバー
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- 第17回 O2Oを生活者・買い物客の視点でハカる。 (8/21)
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- 第15回 買物客が Facebookで商品を売り場の棚にのせる(7/24)
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