今回はスターバックス コーヒー ジャパンでソーシャルメディアの運用を担当している、マーケティング・カテゴリー本部 WEB/CRMグループ グループマネージャーの長見明さんにお話をお伺いしました。
硬い文章のブログは感情移入してもらえない
――ソーシャルメディアの中ではブログを最初に始められていますが、どのような理由でブログを開始されたのでしょうか。
長見 公式ブログを開設したのは2009年4月なのですが、2007年くらいからブロガー向けに情報を流したり、ブログパーツを作ったりしていました。公式ブログをやろうと思った直接のきっかけは、2008年9月に発売した「フィローネ」という新商品でブロガーイベントを実施したときのレビュー結果です。
フィローネというのはパンの一種なのですが、スターバックスが取り扱う食べ物は、飲み物に比べるとコミュニケーションが難しいんです。食べ物と飲み物には相性がありますから、スターバックスのコーヒーを飲みながらサンドイッチを食べたときの美味しさ、という体験を伝えなければいけない。それは情報として伝えるよりも実際に体験してもらったほうがいいだろう、ということで、東名阪で合計100人程度を対象としたブロガーイベントを開催しました。
そのときのイベントについて書いていただいたブログのコメントやトラックバックなどを分析してみたのですが、アルファブロガー同士がコメントやトラックバックを送っているときが、もっとも拡散効果が高いことが確認できました。
それまでは、PR担当者が報道関係者に情報提供するのと同じ要領で、ブロガーにも継続的なアプローチをしていくのがいいのかなと、漠然と思っていました。でも、分析結果を見た後だと、自分たちがブロガーとなり、そうしたブロガー同士のつながりの中に入っていったほうが効果が高いのではないかと思うようになったんです。そう考えてスターバックスの公式ブログを開設することにしました。
――ブログを開設することに社内からの反応はいかがでしたか。
長見 特に反対意見はありませんでしたね。「本当にやるの? 大変だよ?」と上司には言われましたが(笑)。
――開設してからの反響はいかがでしたか。
長見 告知はメールマガジンで行った程度で大々的には行っていなかったのですが、開設した月から10万PVを超えて、半年で月間30万PVになりました。
――ブログを書くのは大変ではないですか?
長見 それは、それなりに大変ですよ(笑)。でも、スターバックスの場合、ブログのネタには事欠かなくて、コーヒー豆の話は豆ごとにいろいろありますし、新しいフードが登場した時もどのコーヒーと合うかという話もありますし、地方にあるユニークなお店なども紹介できる。そうしたネタを元にしてチームのスタッフが持ち回りでブログを書いています。
それと、ブログの文体や雰囲気には気をつけています。プレスリリースのような硬い文章にしてしまうと、話の内容に感情移入してもらえません。オフィシャルな文章として完璧を目指すよりも、ゆるい趣味の世界で読んでもらえるような文章を意識しました。
アメブロは銀座の大通り。カフェは1本裏にあるくらいがちょうどいい
――ブログを書くのは難しいという人も多いですが、苦労はありませんでしたか?
長見 僕自身が以前にPR担当をしていたことと、自分でもブログを書いていたので、「読み手がどう読むのか」という勘所はなんとなくあったんです。会社としてのブログを書くのは初めてでしたから、それなりに試行錯誤もありましたが、意外とスムーズに始められたんじゃないかと思います。スタッフにもブログを書ける人書けない人がいましたが、お互いでノウハウを共有したり書き方を教えたりしながらチームでブログを運用していきました。
そもそも、マーケティングやPRにの担当者にとって、「相手がどういう気持ちで文章を読むのか」を考えることも、伝わる表現を考えることも当たり前のスキルであって、それらを意識して文章を書けないのは良いことではありません。書いた記事への反響が数字になって表れるので、トレーニングの一環としてもよいと思っています。
――ブログはSo-net ブログを使われていますが、企業ブログとしては珍しいですね。
長見 アメブロも考えたのですが、イメージ的にアメブロは銀座の大通りに大型店舗を出す、というイメージだったんですね。カフェは大通りから外れて1本裏にあるくらいが、自分だけの落ち着ける場所という感じでいいかな、と。
当初は途中でブログサービスを乗り換えることも考えていました。今はブログにコメントを投稿する代わりにツイッターやフェイスブックで感想や意見交換をするようになってきているので、自社サーバーでブログを運用しながらツイッターなどほかのサービスと連携するのがいいのかな、と思いながらも、現状はSo-net ブログのままですね。
――その後ツイッターも始められました。
長見 ツイッターを始めたのは東日本大震災の5日後のことです。もともとツイッターを使ったキャンペーンなども考えてはいたのですが、ブログを運営した経験上、予算よりも実際に運営する人材を確保することが重要だと感じていました。米国は積極的にソーシャルメディアを活用していたので「日本はまだ?」と訊かれることも多かったのですが、2011年4月に向けてツイッターを運用する人員を確保できたら少しずつ活用していこう、と思っていた矢先に東日本大震災が発生しました。
当時は固定電話も携帯電話もなかなかつながらない。会社のメールもなかなか返信がない。携帯電話のメールアドレスも知らないといった状況でしたので、制作会社を含む取引先の方とは連絡がつきにくかった。でも、ツイッターだと意外と連絡が取りやすくて、震災発生の金曜日から週明けくらいまではツイッターが連絡手段として非常に有効でした。
経験したことのない緊急事態の中で、何かできることはないかと考えたのが、連絡手段としても有効だったツイッターの活用でした。すぐにもう一度大きな地震が起こる可能性もあるだろうし、原発の危険もある。自分以外にツイッターの活用を発案する人間は、社内には見当たりませんでしたので、今なにもしないでいると確実に後悔するなと思いました。炎上のリスクとか、マーケティング効果とか言う前に、緊急時の連絡手段、情報発信手段としてツイッターアカウントを開設するか否かの判断でしたから、その先のことは後で考えればいいと思いました。震災の翌営業日にあたる月曜日に上司に提案、火曜日に経営会議で審議、翌日の水曜日、3月16日にツイッターアカウントを開設しました。
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