多くの社員にソーシャルメディアのスキルをつけてもらいたい
長見 最初は被災された方々へのお見舞いなども投稿していましたが、その後にどんな情報を発信していくのかけっこう悩みました。でも、こういう時だからこそ「コーヒーを飲んで、ホッと一息つきませんか」みたいな呼びかけが必要とされているし、心を落ち着ける助けにもなるんじゃないかと思って、「震災以外の情報も発信します」という宣言も合わせて行いました。
そんな時でも、西日本のお店はいつも通り営業しているわけで、西日本でビジネスが悪くなると全社的に状況が悪くなってしまいます。とにかく、できる限り中立的なメッセージングを心がけながら、商品の情報、寄附の情報、たまにはCEOからのメッセージなんかをバランスを取りながら発信していきました。PRや店舗でのコミュニケーションが機能しなかったので、今、思い出すと、サイトやツイッターを管理している私たちのチームは、まるでスターバックス報道局のような役割を果たしていたように思います。
――ツイッターに続いてフェイスブックやmixiページなども始められていますね。
長見 今は個人が情報発信する時代がやってきていて、仮にツイッターやフェイスブックがなくなったとしても、個人が情報発信していく時代の流れはなくならないだろうと考えています。マスレベルで話題が盛り上がるのではなく、個人が発信することでモザイク状にトレンドができあがる世の中の流れ対して、企業は生き残るためにも対応することが求められていると思うんです。その主戦場が、今はソーシャルメディアにあるんじゃないでしょうか。
長見 ただ、こうしたソーシャルメディアに関するスキルは、PRやマーケティングにとって特別なスキルであってはいけないと考えています。ツイッターを立ち上げた時の担当者はもともとPRの経験があり、社内向けガイドラインの策定やリスク担当なども取り組んでくれたのですが、今年の1月に入って担当を変えることにしました。適性のある人が担当を続けていれば120点の成果を出せるかもしれません。でも、我々にとって大事なことは、むしろ80点を取り続けることだと思うんです。今は、なるべく多くの社員に実務経験を持ってもらって、その土台を作る必要があると考えています。
スターバックスにアクティブサポートは向かない
――ソーシャルメディア活用の効果測定はどのようにされていますか。
長見 私は2006年に入社してからずっとWebを担当していて、サイトのアクセス数や会員数といった数字にこだわってやってきました。サイトは、既存のお客さまや未来のお客さまが集まってくださる場所ですから、ターゲットへのリーチ効率が、他の媒体と比べて圧倒的に高いと考えています。サイトへのアクセススが増えることでそのターゲットリーチも向上し、マスメディアへの投資も最適化を図れる。つまり自社サイトが伸びればマーケティング投資の予算配分が最適化されるのです。
ソーシャルメディアでの基本的な考え方も同じです。フォロワー数が伸びればターゲットリーチ効率が良くなるはずなので、さらにマーケティング投資の最適化が図れる。今はフォロワー数が順調に伸びていますし、うまくいっているという認識ですね。
――アクティブサポートといったユーザーとのコミュニケーションはどのようにお考えですか。
長見 ツイッターについては臨時の通信手段と考えていたので積極的にフォローしていますし、ダイレクトメッセージをもらったらできる限り返信するようにしていますが、公の場でのリプライへの直接返信などは行っていません。お客様との「対話」は大切にしたいですし、ソーシャルメディアのプラットフォーム上でやるかどうかは別として、将来的に充実させていきたいと考えています。
ツイッターの場合、じっくり腰を落ち着けて「対話」すると言うよりは、「拡散」のメディアだという認識を持っています。むしろニュースメディアというのが正しいかもしれません。誰かの発言がRTされることで、意図せずに突然世界中に伝わることもある。それがツイッターのおもしろいところですし、良いところだと思うんです。ひとつのプラットフォームに多くを望むよりは、良いところに集中していたほうが良い結果を得られるんじゃないでしょうか。
おそらく、アクティブサポートのようなコミュニケーションはやらないと思います。比較的容易にスイッチされてしまうような商品・サービスであれば別ですが、我々は「スターバックスだから行きたい」というブランドを目指して毎日お店を開いているわけですから、こちらから出向いていく、間違えると御用聞きのようになってしまいかねないアクティブサポートのようなコミュニケーションスタイルは取るべきではないと思っています。
――注目されている新しいサービスや取り組んでいきたい施策などはありますか。
長見 プラットフォームとして注目しているサービスというのは、実はあまりないんです。LINEはプライベートなコミュニケーションの場で、ソーシャルメディアと言うよりは、メッセンジャーサービスのように見受けられます。また、LINEは拡散しない仕組みで、企業のフォロワーが増えても1対nのコミュニケーションが行なわれるだけで拡散が起きません。そういう点では広告媒体に近い位置付けで捉えています。
Pinterestも興味はありますが、画像の著作権問題が気になるところですね。画像の権利がわからないので気軽に紹介できないようでは、RTできないツイッターのようなものなので、どのように活用するかは考えあぐねています。
マーケティング・コミュニケーションにとって「話す」「聞く」は基本ですが、現状のソーシャルメディア運用は「話す」ところをやっていても「聞く」ことができていないと思っています。「話す」担当と「聞く」担当が同じかといえば別かもしれませんが、両方やっていくことは重要です。もちろん、プラットフォームごとにアプローチの仕方は異なりますが、それは特殊な技能ではなく、プラットフォームが変わっても普通に対応して取り込める環境が理想です。そういう点ではあまりサービスを意識することなく取り組んでいきたいと考えています。
――インタビュー雑感
「ソーシャルメディアでの情報発信が特別な技能になってはいけない」という発言がありましたが、ソーシャルメディア上でのコミュニケーションを特別なスキルと位置づけるのではなく、誰でも運用できるような体制構築をしておくことは、休眠アカウントのリスクの軽減にもなる為、企業のソーシャルメディア活用において非常に重要なポイントであると感じました。(アジャイルメディア・ネットワーク)
インタビュー担当 AMN 甲斐祐樹
次回(10月22日)はファミリーマートです。
第17回「ネットニュース、店舗、SNSとつながっていくのはコンビニならでは」はこちら
高柳 慶太郎「ソーシャルメディア活用 先進企業に聞く」バックナンバー
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- 第14回 ソフトバンク「フェイスブックは最近、孫社長のファン数を抜きました」(9/3)
- 第13回 カプコン「販売数が落ち着くとソーシャルの盛り上がりも一段落してしまうのが課題です」(8/20)
- 第12回 カルチュア・コンビニエンス・クラブ「リスクがあるからやめるということはありません」(7/30)
- 第11回 タワーレコード「顧客への情報伝達に対する危機感が、ソーシャルメディア活用を加速した」(7/17)
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