73歳の母からフレンドリクエストがきた!娘がお婆ちゃんに教えられること。

9月初旬。母がカリフォルニアにやってきた。翌日、早速困ったことがおきた。

「私の電話は?」と母が言った。
「え?」

実は、飛行機のチケットや寝具の準備などに気を取られ、母の電話のことは考えてもみなかった。私の家にはイエデンというものがない。日本からもってきた母のケータイはインターナショナル対応ができない機種である。確かに、米国に到着したその日から、母には外界とコネクトする方法がない。

妻と私は、毎日オフィスに出かける。娘は学校。ということは、日中は母に対しても連絡の方法がない。なんでこんなこと、もっと早く思いつかなかったのだろう?

少し考えて、良い機会だからパソコンに挑戦してもらおうと思いついた。母は70代前半のシニアだが、好奇心が旺盛なのでなんとかなるのではないかと楽観的に考えた。

「パソコン使ってみる?」と私。
「できるかなぁ?」と母。

MacとFacebook、初体験の母。

結城喜宣氏1

Macと格闘する73歳。

そして、次の週末、もう使わなくなった初期モデルのMacBookエアをガレージから持ち出した。

Macを開いてぎょっとした。米国製のため、キーボードに日本語標記がない。
まずはアルファベッドから教えるのか、と思ったら気が遠くなった。そして恐る恐る聞いてみた。

「ローマ字ってわかる?」
「ああ、あのワイユーケーアイみたいな?」と母。

まずはローマ字の試験をしてみることにした。一通り終わって、ローマ字はある程度問題ないことがわかった。私は長い間彼女の息子をやっているが、 意外と母のことをわかってないのだということに気づいた。

「じゃぁ、まずは、メールから始めてみようか?」

初めてシニア世代にデジタルを導入するのは楽ではないかもしれないと気づくまで、それほど時間はかからなかった。一方、これはやり甲斐のある仕事かもしれないとも思った。

私は、Gmail→Skypeという手順で教えようと考えていた。まずはGmailを開設し、メルアドを取得した。そして、母のために、深夜のパソコン教室開催となった。私は仕事をしながら、片手間に教えていたのだが、Return Key(Enterと同じになっているのが厄介)やShift Key、そして何も書いてないKeyの意味を説明するのがなかなか難しい とわかった。

レッスン初日。母は約5時間以上かけて、午前3時頃までメールと格闘し、私の弟に心のこもった長いメールを一本書いた。そして、送信ボタンを押した。何かとても満足そうであった。感想を求める私に、「おもしろいのぉ」と母は言った。はっきり言って、その言葉には驚いた。もう嫌だ、という言葉が返ってくると予想していたからだ。

結城喜宣氏2

母の最初のメールは5時間以上かかった。

翌朝、残念ながら私が日本に出張に出るため、せっかく始めたパソコン教室を延期せざるを得なくなった。来月から大学受験申請に入る娘に押し付けていくわけにもいかず、自分でトライするようにと言い残してアメリカを後にした。母は、ケータイのメールは独学で学んだ経験があったので、パソコンという玩具を渡しておけば、なんとかするかもしれないという淡い期待もあった。

日本に到着して、数日後。Facebookにフレンドリクエストが来た。相手は母だった。最初は目を疑ったが、 高校生の娘がお婆ちゃんにFacebookを教えているのが手に取るように想像できた。プロフィール写真はまだ入ってない。共通の友人は家族だけ。

結城喜宣氏3

とうとう母とFacebookで「友達」に。

米国のシニア世代の半数以上が毎日オンラインにいる。

アメリカのシニアは、デジタルの 受容感度が高いと日頃から感じていた。私が米国で最初にキンドルの便利さを説明されたのは2009年頃、オフィスビルのオーナーである70代のお爺さんからだった。彼は、持ち運びが便利なのはもちろんのこと、フォントの大きさを調整できることを最大の利点だと言った。悲しいことに、(老眼とは思いたくないが)その利点がすぐに自分にも実感できることになった。

最近、米国のソーシャルメディアニュースサイト「MASHABLE」に掲載されたPew Internet & American Life Projectによれば、アメリカの65歳以上のシニア世代の53%がネットサーフィンをし、ウエブを閲覧し、Eメールを利用している。若い世代に比べるとその母数はまだ少ないが、伸び率でみればシニア世代はここにきて急速に熱を帯びてきているのは確かだ。遅ればせながら、電子書籍やeコマースなどをきっかけにその面白さに気づき始めたということだろうか?

また18歳以上のアメリカ人のインターネット人口の約82%が毎日オンラインを利用しているのに対し、シニア世代は約70%だから、この数字も彼らのアクティブさを示している。加えて、今や34%のシニア世代のインターネットユーザーが、FacebookやTwitterというソーシャルネットワーキングサイトを利用している。また、別の調査によれば、年間、何百ものクラスが、シニアに対しFacebookを教えており、受講者の平均人数は80人にのぼる。

ちなみに、アメリカではこんな動画が全国ネットのニュースで話題になったことがある。内容は、孫が祖父母にウエブカムの使い方を教えていたら、知らないうちに録画されていた。それがとてもキュートだったので孫がYouTubeにアップし、たちまちおじいちゃんたちがスターになってしまった…という内容だ。この動画の再生回数は1000万回を超えている。

Facebookの最高齢者って?

facebook_photo

いったいFacebookの最高齢者っていくつくらいなの?という疑問が次第にわいてくる。ABC Newsの8月の記事によれば、公式に認定されている最高齢者はアメリカのFlorence Detlorという女性で、現在101歳。右の写真は、彼女がFacebook社社長のMark Zuckerberg氏に招かれた時の写真である。彼女はフレンドリクエストにはオープンであるため、なんと4000人を超えるFBフレンドがいる。

彼女のチャーミングな言葉が印象的であった。「私は毎日Facebookにログインするようにしているわ。もし2日も放っておいたら、300くらいのメッセージが届いていて、大変なのですもの。たくさんの人々が、私と友達になりたがっているのよ」。

デジタルネイティブ世代が、シニア世代にFacebookを教えるというのは実に理にかなっていることである。今こそ、これまで受けた恩を返す時がきているのだ。MacとFacebook、初体験の母。デジタルを中心に、10代と70代がコミュニケーションをするのは、なんとも微笑ましい風景である。

第10回 「アメリカの高校生も受験シーズン突入!そのシステムの違いはどこに?」はこちら
結城喜宣 「アメリカ女子高生デジタルネイティブ日記」バックナンバー

結城 喜宣(Ys and Partnersエクゼクティブ・クリエイティブディレクター)/結城 凛子(17歳)
結城 喜宣(Ys and Partnersエクゼクティブ・クリエイティブディレクター)/結城 凛子(17歳)

日米に拠点を置くCreative Brand Communications – Ys and Partners のエクゼクティブ・クリエイティブディレクター。JWTを経て、2002年に日本ブランドを世界で有名にすることをミッションに、米国カリフォルニア州に本社設立。2005年には横浜市に日本支社を設立。日米グローバル企業のブランド・コミュニケーションを成功に導いている。ブランド戦略に基づいたクリエイティブなストーリーテリングが持ち味。宣伝会議コピーライター養成講座にて「自分の名刺塾」などを担当。
Facebook: facebook.com/ysandpartners
Twitter: @YSAP_NobuYuki
Web: ysandpartners.com

結城凛子(ゆうき・りんこ/カリフォルニア州の高校3年生 テニス部在籍)
父と母の冒険に伴い4歳の時に渡米。再度、両親の冒険につきあい、小学5年から中学2年までを横浜市で過ごす。中学の時は演劇部部長、高校からは全米トップのテニス部に在籍。東日本大震災の支援活動のリーダーなどを務める。米国本場のデジタルネイティブ高校生。
Facebook: facebook.com/thethousandcranesproject

結城 喜宣(Ys and Partnersエクゼクティブ・クリエイティブディレクター)/結城 凛子(17歳)

日米に拠点を置くCreative Brand Communications – Ys and Partners のエクゼクティブ・クリエイティブディレクター。JWTを経て、2002年に日本ブランドを世界で有名にすることをミッションに、米国カリフォルニア州に本社設立。2005年には横浜市に日本支社を設立。日米グローバル企業のブランド・コミュニケーションを成功に導いている。ブランド戦略に基づいたクリエイティブなストーリーテリングが持ち味。宣伝会議コピーライター養成講座にて「自分の名刺塾」などを担当。
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結城凛子(ゆうき・りんこ/カリフォルニア州の高校3年生 テニス部在籍)
父と母の冒険に伴い4歳の時に渡米。再度、両親の冒険につきあい、小学5年から中学2年までを横浜市で過ごす。中学の時は演劇部部長、高校からは全米トップのテニス部に在籍。東日本大震災の支援活動のリーダーなどを務める。米国本場のデジタルネイティブ高校生。
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