西野入さんの宣伝会議賞の応募歴を教えてください。
第46回から毎年応募し続けています。第48回までは100本ぐらい応募していました。一次通過に1本残っていたのが46、47回。このときはまだ、一次通過で満足していたように思います。3回目の挑戦だった第48回でも、1本くらいは残るだろうという気持ちで応募しました。その結果、一次通過に1本も残ることができず、とても悔しい思いをしたことを今でも覚えています。その悔しさは、1年間ずっと消えることがありませんでした。それもあり、昨年の第49回ではどうしても結果を出したいと強く思っていました。少しでも手を抜いてしまうと、「他の人が自分よりも良いコピーを書いているんじゃないか」と、言いようのない恐怖が沸き上がり、毎日ひたすらに書き続けていました。全部で4000本以上は書きました。賞を獲りたいとはもちろん思っていましたが、それと同じぐらい、『SKAT』に多く名前を載せたいと思っていました。多く名前を残すことが自分の実力を測る指標だと考えていたからです。結果的にコピーゴールドを受賞し、それまでとは比較にならないくらい『SKAT』にも名前を載せることができました。それでも満足いく数ではなかったのですが…。
広告賞へのチャレンジによって西野入さんが得たものとは。
第49回 宣伝会議に取り組んでいた昨年は、大学4年生。就職は決まっていませんでした。どうしてもコピーライターになりたいと思っていたので、宣伝会議賞は未経験というハンデを埋めるために、喉から手が出るほど獲りたかった賞。実際に内定をいただいたのはファイナリストの連絡が来るちょうど1週間前で、受賞が就職に直接影響したわけではないのですが、面接などで「4000本書きました」というようなアピールはしていました。
宣伝会議賞に取り組んでからの就職活動では、それ以前に比べると自信を持って面接などに臨めていたと思います。2ヵ月間書き続けたことで、コピーライターになりたいという気持ちの本気度を、自分でも再確認できたからかなぁと思っています。また、書いている間は全然良いものが書けずにしんどくて、吐き気はするし寝ても夢の中でコピー書いているし、体調も精神衛生上も散々だったのですが、提出した後、楽しかった!と心の底から思えたときに、自分の中でコピーライターになるという覚悟が本当に決まったような気がしました。
働き始めてからは、賞を獲ったということはあまり意識しないようにしています。まだ駆け出しのコピーライターなので、ひとつの賞に固執することは良いことではないと思っています。これからは、仕事で結果を出すことと、継続して宣伝会議賞以外の場所で名前を出していきたいです。それでも、モチベーションを上げるためにノートを見返して、宣伝会議賞に取り組んでいたときの感覚を反芻させることがあり、何かと励みになっています。
西野入さんが考える「宣伝会議賞」の面白さ、醍醐味とは。
醍醐味はしんどいところです(笑)。宣伝会議賞では毎回必ず、自分では思いつかなかった切り口のコピーがあります。そういうコピーを目の当たりにすると、自分が書いたものは全部他の誰かも書いていると思えてくる。だから、死ぬ気で誰も考えつかないような切り口を探す。書いては悩み、悩んでは書く。このしんどい繰り返しを2ヵ月間ずっと続けることが、宣伝会議賞のいちばんの醍醐味であると思います。
僕はそうすることで、たくさん書くことの重要さや、学んできた様々なことの意味を実感することができました。妥協しないで考え続けるという姿勢が、実際に働き始めていちばん活きていることでもあります。それに、しんどければしんどいほど、受賞の喜びも大きいと思いますし。
最後に今後の目標について聞かせてください。
指名されるコピーライターになりたいです。「あいつに任せれば大丈夫」と思わせるくらい信頼を得て、期待されるレベルを常に超えていけるようになりたいです。一緒に仕事をする人やクライアントが、僕に対して、期待を裏切ってくれるコピーライターだという認識を持ってくれたらとてもうれしいです。また、そうして作ったコピー、広告が、生活している人のためになったり、面白がられたり幸せにできるものになったらいいなぁと思います。
ちょっと話がズレてしまいますが、コピーや広告で、もっと人の幸せを考えていけるようになること、実際に幸せにしようと試みることがすごく重要だと思っています。「広告って邪魔だと思っていたけど、見てみたらちょっと幸せになれた」というような裏切りを、世の中に対してできるようになりたいです。
にしのいり・しんご
2012年3月大学卒業。4月に広告制作会社に入社。コピーライターとしてのキャリアをスタートさせる。大学時代は広告研究サークルに所属。
【バックナンバー】
- 阿部広太郎さん「宣伝会議賞にはチャンスしかありません」
- 郡山秀太さん「宣伝会議賞は2ヵ月間にわたる『コピーの修行』」
- 味村真一さん「360度、全方位から商品を見てコピーを考えるトレーニングの場」
- 北 匡史さん「自分の名前が掲載されると、コピーライターとしての名刺代わりになる」
- 丸原孝紀さん「宣伝会議賞はオープンなコピー大会。新しい言葉の表現にチャレンジできる」
日本最大規模の公募広告賞「宣伝会議賞」は第50回を迎えます。1963年にスタート以来、広告界で活躍する一流のコピーライターのほか、糸井重里さん、林真理子さんといった著名な書き手を輩出してきました。50回目となる今回は50社の協賛企業から課題が出されており、第一線で活躍する100人のクリエイターが応募作品を審査します。課題は9月1日発売『宣伝会議』本誌にて発表、2012年10月31日が締め切りとなります。