ひとのボヤキは企画のチャンス

テレビや新聞といった既存のメディアにとらわれない斬新なヒット企画をプロデュースする博報堂ケトルの嶋浩一郎さん。最近では、ビールを楽しみながら本を読める書店「B&B」を東京・下北沢にオープンした。そんな発想の秘訣を、“企画の達人”に聞いた。(この記事は『編集会議2012秋号』の記事を一部抜粋・再構成したものです)

言語化されていない欲望をどうとらえるか

企画力_嶋

優れた企画は、本人も気づいていない、まだ言葉になっていない欲望を見つけることからスタートします。メディアや企画をつくる上で、読者の声はとてもヒントになりますが、その声は、すでに形になった欲望です。

人は自分の求めるものの数%しか、言葉にできないんだそうです。近ごろ、ソーシャルメディアを用いて商品を開発するキャンペーンをよく見かけます。優れたプランナーなら、「そのアイデア、待ってました!」という企画を目指してチャレンジしたいもの。編集者の本当のおもしろさも、まだ表に出てきていない望みを見つけることなのだと思います。

流行語となった「おひとりさま」。きっと皆さんも一人で食事をする女性を目にしていたはず。それを女性の新たなライフスタイル(=欲望)として発見したのが「おひとりさま」です。形になると、ホテルの宿泊プランなど、その欲望に応えるビジネスが生まれました。「美魔女」や「おやじバンド」も、人々の心の深くにあった気持ちをくすぐる企画だったと思います。

他人と同じ日常風景を見ながら、次の「おひとりさま」に気づくには、どうすればいいのでしょうか。

なにげない日常を「因数分解」する

言葉にならない欲望を発見する基本は「観察」にあります。日常のあらゆる風景やことがらに「?」をつけてイメージトレーニングしてみてください。

たとえば先日、新幹線のグリーン車に乗ったときにおしぼりをもらいました。それには男性エステの広告がプリントされていた。「?」。なぜでしょう。

知り合いに見られるとハズかしいから、地元のお店には行けないけれど、出張の空き時間に行くのはアリかな。このおしぼりを受け取ったサラリーマンは、そう考えるかもしれません。顔をぬぐうのも、エステを思わせて、メディアとしても利いている…などと推測するのです。広告業界には「デコンストラクション」という手法があって、ある広告が、どんなインサイトをとらえ、どうやって人を動かしているのかを因数分解する訓練なんです。

大きな書店の新刊コーナーや、雑誌の中づり広告も優れた教材になります。平積みの本のタイトルや帯のキーワード、見出しを眺めるだけで、流行や社会の風潮があぶり出されるように見えてきます。

慣れてくると、「自分なら、こうする」と独自の企画を考える体質になってくるでしょう。

ボヤく人の側に近寄っていく

欲望は最初、不満という形で表れます。「○○○がダメ。○○○がよくない」というのは企画のチャンスです。『本屋大賞』をつくりたいという書店員さんは一人もいませんでした。でも「わたしならこの本を選ぶのに……」と、現行の文学賞に疑問を持っていた書店員さんは多くいました。

スーパーで店員に不満を訴える主婦を見かけたら、ウキウキしてかたわらで聴いてしまいます。「この人の不満を解消するには」と企画を考えるのです。通常、文句を言う人を見るとメンドウくさいな、と避けたくなるものですが、チャンスだと思ったほうがいい。不満を見つけるレーダーが鋭いほうが、ビジネスを大きくするチャンスに出会えます。

同じ風景を、単なる景色として見るか、情報として観るか。時代や事象を表現する言葉を、発明する編集者になってほしいと思います。

嶋浩一郎(しま・こういちろう)
クリエイティブディレクター、編集者。上智大学法学部卒業。博報堂に入社、コーポレートコミュニケーション局配属。2001年には朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された新聞『SEVEN』の編集ディレクターを務める。博報堂の雑誌『広告』の編集長を経て、05年からクリエイティブディレクターを務める。06年には既存の広告手法にとらわれないキャンペーンの構築を目指し、博報堂ケトルを設立。2011年に雑誌『ケトル』を創刊、編集長を務める。


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