メディア融合がいよいよ本格化――日本マーケティング協会のセミナーに出て感じたこと

日本マーケティング協会の主催で11月19日に行われたセミナーに出席した。数年前と違い本格的にメディア間の融合が進んできたと実感させられるイベントだった。ちなみにイベント名は長くなるがすべて記すと「テレビの力2012(2)『デジタル×テレビ マーケティングの最前線とデジタルで最適化する仕掛けとは…』~スマートテレビ・テレビ視聴の最新動向と新たなビジネスモデル<第2弾>~」である。

テレビがソーシャルとデジタル、特にスマートフォンとの連携が加速

最初に登壇したのは電通の奥律哉氏で、テレビを取り巻く環境について解説した。スマートフォンやタブレットなどのハードウエア加えソーシャルメディアの普及が特にテレビメディアの消費を大きく変えていることを各種資料を使って解説した。 電通総研が独自に行った2012年9月の金曜日の21時~22時台の調査では、テレビを視聴している人の21~27%がネットを同時視聴しているという。さらにテレビ(発信者)と受信者(ユーザー)の間には1.5回転の情報共有があると双方向として捉えられるとの見解を示した。

次に登壇した日本テレビ放送の安藤聖泰氏は、同社が行っているソーシャルテレビエンターティンメントJoinTVを実施した背景やその運用に関して披露した。同サービスに登録するとユーザーはテレビのお気に入りのシーンに“いいね”で意思表示ができ、それがソーシャルメディアの友達にシェアされることによりテレビを友達と一緒に観ているような一体感が得られるという。

eva_joinTV

JoinTVのホームページ

この施策は特に映画に効果を発揮するとし、先週11月9日と16日に放送されたヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 TV版(16日は“破 TV版”)での施策を紹介した。同施策は番組視聴前や視聴中にスマートフォンのアプリを起動し、映画と連動したユーザーが楽しめる内容になっており、かなり多くのユーザーが積極的に参加したという。アプリはゲーム感覚になっており、新しいテレビの視聴というより楽しみ方といったほうが良さそうな内容になっている。同社は今後もクラブワールドカップなどで新しい施策を実施していくというので注目すべきだろう。

次に登壇した毎日放送の齊藤浩史氏は、マルチスクリーン型放送研究会事務局長という立場で「セカンドスクリーン(テレビを見ながら利用する情報端末)上での新たな広告ビジネス展開」に関して考えを披露した。新しいビジネスを展開するベースとして、テレビを見ながらスマートフォンを利用する人は76%に達し、そのうち68%が紹介された商品やサービスを検索することにあるという。そこでマルチスクリーン型放送研究会のフォーカスは、ユーザーをサイトや店舗などへ誘導することによって新しいビジネスを創出し、テレビからインターネット広告にアプローチすることにある、ということであった。

mixi_xmas

mixi クリスマスのテレビ連動CM

その後に行われたパネルディスカッションにはバスキュールの西村真里子氏とライオンの中村大亮氏、ビデオリサーチインタラクティブの深田航志氏が参加した。その中で西村氏は国民の行事をソーシャルでつなげた”mixiクリスマス”でのテレビ連動企画などバスキュールの展開するクロスメディア・ソーシャル施策を紹介した。中村氏は広告主として直接RKK熊本放送と実施したRKK女子駅伝大会の経験やメディアに対する考え方などを披露した。筆者は時間の都合で途中退席したが、特にテレビとスマートフォンにフォーカスして広告主、テレビ局、代理店、制作会社や調査会社が一堂に会して議論を展開するのは数年前とは隔世の感がある。

素晴らしい議論。だが、一部は違う解釈も

前述のように非常に素晴らしい会合であり、議論もほとんどは的を射ていたと思う。その上で敢えてであるが、一部に若干の違和感を覚えた点について以下にその内容を記してみたい。

1)広告主のメリットがあまり示されていなかった=解になっていない可能性が
テレビの収益の大部分は広告収入であり、当然であるがその効果が高ければ広告主はより多くの費用を払うのであるが、その肝心な広告主側の効果に関しての見解がなかったように思う。例えば今回のパネルディスカッションではアプリの利用に関して’ポイント付与’のような報酬の是非やその費用負担の話があった。筆者の見解は非常に簡単であり、それは効果があれば広告主が負担するということである。ビジネスモデルを構築する上では、広告主が求めている結果と現在その結果に対して払っている対価に注目すべきであろう。

2)競争相手は誰か? 新しいとされているモデルは本当になかったのか?
携帯(最近はスマートフォンも)とテレビの連携は以前より始まっているのではないか? それはモバゲーやグリーに代表される携帯コンテンツ広告、検索連動広告などではないだろうか。もし、検索連動の広告や携帯のコンテンツの広告を新規顧客ではなく「新規市場」と考えた場合には、現在のテレビ広告費用の見方は違ってくるはずである。

すなわち「既存広告」を商品やサービスの認知獲得を目的としたもの、「新規広告」を携帯やインターネット上の行動を促す行動ベースのものであると考えた場合に、新規広告の伸びが顕著であるということが見えてくる。つまり、新しいビジネスモデルを構築する上では現存する「検索→ネット行動」モデルを上回る効率が得られなければ、あるいはその新手法で新たに潤う業界が現れなければ成立しないのである。例えばであるがソーシャルゲーム各社がテレビ以上に効果的な広告手法を見つけたらどうなるか想像できるであろうか。

ライオンの中村氏も指摘していたが、「デジタルでキャンペーンは始まってからどんどん進化するのがあたりまえ」であり、企業がオウンドメディアを持ち始めた今、既存メディアが競争力をキープするためにはキャンペーン中にその効果を増大できる手法を確立する必要があるだろう。テレビとソーシャル、スマートフォンをはじめとする各種施策が実現すればその可能性が遠くないことを今回のセミナーは示してくれたと思っている。これから続々出てくるであろう施策に期待したい。

江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー

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江端 浩人(事業構想大学院大学教授)
江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

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