2010年に、僕は、ギャルをテーマにした社内横断プランニングチーム「電通ギャルラボ」を立ち上げました。
立ち上げこそ苦戦したものの、今では、30人を超えるメンバーになり、化粧品など女性向けの商品をつくっているメーカーはもちろん、既存の商品を活性化したい企業からも、仕事を多く依頼されるようになりました。
そんなギャルラボを立ち上げてから、本当に多くのことを教えていただいているのが、ツインプラネット代表取締役社長、矢嶋健二さんです。
ツインプラネットは、小森純やてんちむ、鈴木奈々といった、人気ギャルを次々世に送り出し、まさに、ギャル文化をメインストリームに引っ張り上げた、といっても過言ではないと思います。
未来は、いつも辺境からはじまっている。
もしかしたらギャルの世界でとっくにはじまっている?
広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT
今回は、矢嶋健二さんです。
矢嶋健二プロフィール
京都府出身。2006年にTwin Planetを設立、代表取締役に就任。カルチャーブランディングカンパニーと銘打ち、独自のライフスタイルマーケティング“Edge Marketing”戦略を展開。渋谷のギャルマーケットをはじめとし、原宿・秋葉原といった特殊マーケットに専門特化したマーケティング戦略から普遍的価値を創造。小森純や、鈴木奈々の発掘やファッション雑誌Edge stlye(双葉社)やNicky(セブン&アイ出版社)のプロデュース、若年層ママ向けで日本最大級のイベント「ママコレクション」など多数手掛ける。その他にも、数多くの企業や官公庁との取り組みも積極的に行い活躍の幅は多方面に拡大中。
まだ市場がないところだったら、0のものを10、100にできる。
並河: よくお仕事させていただいていますが、こうやって改めて話すことはなかったので、今日は楽しみにしていました。
ツインプラネットは、ギャルモデルのマネージメントもしながら、インサイト調査、雑誌やブログなどのメディア展開、商品開発、イベント……と、マーケティング全般も手がけている。
しかも、矢嶋さんとお会いするたび、何かを仕掛けようとしていて、本当に珍しい会社だと思います。
矢嶋さんのそのスタイルは、どこから生まれたんですか?
矢嶋: ツインプラネットを立ち上げたのが、2006年で、いわゆるベンチャーですよね。どう勝負していくかって考えたときに、「市場をつくりたい」って思ったんです。
まだ市場がないところだったら、0のものを10、100にできる。「これ、いくらだと思う?」というときに、誰も答えられないようなところだったら、その価値を決めていくことができると考えたんですよね。
だから、ツインプラネットは、「エッジ」を攻めていこうって決めたんです。「エッジ」、つまり、まだフィーチャーされていないところってどこだろう、と考えたとき、それが「ギャル」だったんです。
並河: 「電通ギャルラボ」もまったく同じ発想です。
広告界にとって、未知のテーマだったから、可能性があると感じた。
クライアントが知らないことをやらなくちゃ意味がないって思ったんです。
矢嶋: ツインプラネットは、カルチャーブランディングカンパニーと言っていますが、会社をつくって最初にはじめたのは、ギャルに特化した調査です。
当時、そういうものがなかったんですよね。F1層とか、10代とか、そういう切り口の調査がほとんどだった。でも、同じ10代といっても、オタク系も、体育会の子もいますよね。でもその中で、特に流行をつくるのは誰かというと、クラスのリーダー的な女の子たち、いわゆる今で言う「ギャル」で、その子たちをピックアップして、好きなもののランキングを発表したりしました。
よく情報番組などで「女子高生で話題の…」「渋谷で話題の…」なんて触れ込みでトレンドを紹介することがあると思います。女子高生が火種となって世の中に広がった商品、古くはたまごっちやプリクラ、最近ではつけまつ毛やカラコンなどもそうですね。この女子高生発で世の中のトレンドになっていく源流を探ると、高い確率で出てくるキーワードが「渋谷」「ギャル」でした。
そこで「エッジ」の効いたこのギャルを、トレンド発信の源泉としてブランディングしたいと考えたんです。
「ギャル」の価値を定義し、世の中から肯定されるようにすることで、新しいマーケットを創造し、巨大な市場へと成長させていく。特殊(エッジ)から普遍(マス)へ拡大する可能性を秘めたエッジマーケットに特化した戦略です。
そこから、ギャルといえばツインプラネット、というようにだんだんなっていきました。
カルチャーとして認められていくのが、本当にうれしい。
矢嶋: すべて、ギャルの市場を盛り上げるためにやっているんです。
当時、ギャルって、ゴールデンのテレビに出られなかったんですよ。
この子たちも十分かわいいのに、ギャルっていうだけで、テレビに出たとしても、脇役的なポジションで、メインになれない。でもTVタレントとしてのポジショニングをちゃんと考えれば、ギャルでもメインを張れるポテンシャルは十分にある。このギャルの子たちをメインストリームにしていったら何かが変わるんじゃないかって思ったんです。ゴールデンに通用する子として考えたときに、ちょうどツインプラネットには小森純がいて。当時は、「モテ」全盛だったんだけど、小森純は、赤裸裸に彼氏の話とかもするような、ぶっちゃけキャラでいった。
そうやって、小森純というアイコン的な存在が生まれると、ギャルの市場が成立していくんですよね。ギャルという新たなライフスタイル、生き方が理解され、共感を得て、支持者が集まりマーケット化されていく。そして世の中がメディアを通じて、ギャルをカルチャーとして認めていく。そういうのが、本当にうれしいですよね。
並河: 未来は、実は、辺境ではじまっているんじゃないかと思っていて。
もしかしたら、矢嶋さんのやり方が、広告の未来のカタチを先に体現しているのかもしれない。
「ギャル」自体はそこまでのボリュームがなくても、ギャル的要素は、多くの女の子の心の中に散らばっている。
人間の一部分はみんなニッチでできていて、そこを分かってもらえるのが、みんないちばんうれしいし、その部分でつながるのがいちばん強い、っていうか……そんなことに、僕は興味があるんです。
後編に続きます。
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