2008年まで7年にわたり、P&G社のグローバル・マーケティング・オフィサー(GMO)として、7000人規模の組織を率い全世界で80億USドルの広告投資を運用してきたJim Stengel(ジム・ステンゲル)氏。来日した同氏に昨今、日本企業においても、その言葉が話題になる機会が増えた「CMO」の機能と役割について話を聞いた。
――時に、マーケティング部門とセールス部門の間には、摩擦が起きる。GMO在任時、セールス部門との調整をどのように行っていたか。
コンフリクトが起きた時、「知る」ということが、解決策になるケースが多かったと思う。まずはマーケティングがセールスの課題、ストラテジーを知る。それによって解決できる問題も多かった。
例えばセールスは、商品を動かしたいので、とにかくプライスダウンを希望する。しかし、それは時にブランド価値の棄損につながってしまう行為であり、マーケティングは反対をする。そこで必要なのは、「なぜ、プライスダウンをしたいと思ったのか?」しっかりとヒアリングすることだ。「価格を安くしたい」のは、商品の売れ行きを伸ばしたいから。しかし、その商品が売れる理由は本当に「価格だけ」なのか。何が、本当のキードライバーになっているのか、マーケターは投資効果の測定を行い、その結果を明確に把握することで、「プライスダウン」以外の選択肢をセールスに提示することもできる。
――マーケターの仕事の中でテクノロジーの進化で、自動化される部分、決して自動化できない部分とは。
マーケティング投資の効果測定、それに基づく投資の最適化…。テクノロジーの力により自動化されている部分は増えている。それでも、マーケティング組織の中で必ず人の介在が必要とされることはある。ひとつが「人と人とのディスカッション」と、そこから生まれるリレーションシップだ。そして、この組織内のリレーションシップこそ、マーケティング部門をパワフルにする上でもっとも重要なことだ。
また各種のデータが、測定しやすい環境ができているが、そのデータからどんなインサイトを読み取るか。そこにはマーケターのクリエイティビティがますます必要とされている。
――日本の企業では、まだCMOという職は一般的ではないが。
日本でもマーケティングプロセスを改善したい、意思決定を速めたいというニーズからCMOに対する関心が高まっていると感じる。ただ、CMOと聞くと、特別なカリスマ性を持ったスーパーマンのような人をイメージするようで、日本企業の組織風土には合っていないと思う人も多いようだ。
私はたびたび来日する機会があったので、日本企業ならではのカルチャーも理解していると思うのだが、日本企業の文化に合ったCMOの形はあると思う。チームと溶け込み、シンクロしながら動くチームプレーヤー型のCMOが適していると思う。
米国の場合も、強いリーダーシップを持つスーパーマン型のCMOが移籍してきても、うまくいかないケースが多い。CMOの役割として大切なのは、組織のカルチャーを作ること、そしてスタッフのモチベーションを高めることにある。その意味で、日本企業に適したCMOの形があるのではないかと思う。
(本記事は、「宣伝会議」2012年12月1日発売号掲載記事より抜粋したものです。)
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