今回は、広告の領域を超えて、商品開発について触れてみます。
現状でもよくあるケースとしては、クライアントがすでに開発しているモノ・サービス、(もしくはその手前にあるシーズ)について、広告代理店が商品ブランドのコンセプトを提案し、そのまま広告制作まで担当するパターンです。
これはこれできちんとワークする組み方だと思うのですが、スペックとブランドコンセプトとのすり合わせがなかなか上手くいかないことも、ままあります。
どんなスペックのモノをどんなブランドで世の中に出していくのか、イチからクライアントと相談できるのが理想的だとは思いますが、一方で開発コストが見合わないことが懸念されます。(代理店サイドの人件費がメディアコミッションで吸収しきれなくなる。また、人件費フィーとしてまともに見積もると開発コストを超過する。双方、当初からタッグを組むと割に合わない計算になり、結果、自然とある程度のフェーズが経過した段階で一緒に考え始めるケースが多くなる)
このような課題にトライした事例として、「ついまる」の商品プロデュースをご紹介いたします。
ついまるとは、タカラトミーさんが2011年3月に発売したTwitter専用トイガジェットです。PCのUSBに接続すると、ついまるがTweetの文字を喋って(音声に変換して)くれるので、Twitterの画面を見なくてもタイムラインを把握できる、というものです。
(ちなみに、ついまるは、「ツイッターアニマル」がネーミングの由来となっています)
ついまるのケースでは、スペックやブランドコンセプトなどを最初からタカラトミーさんとタッグを組んで開発していきました。
開発過程をざっと追ってみると、2009年初頭、タカラトミーさんと「デジタル時代らしい新しい商品を開発しよう!」というテーマで盛り上がり、意見交換を重ねるようになり、2010年初頭には、「Twitterの文字を音声に変換する玩具」という1つのアイデアが出てきて、本格的に開発が始まりました。
そこから発売までの1年間、色んなことが揺れ動いていきつつも無事ローンチに至り、非常に貴重な経験を得ることが出来ました。
ネーミング、ブランド(キャラクター)コンセプト、キャラクターデザインなど、割と代理店サイドから提案することも多い領域だけでなく、スペックや協力会社の取り仕切りなど、クライアントのモノ開発に近い領域についても積極的に意見できる環境だったのが刺激的であり、また実際に取り入れていただいたスペック要素もありました。
ただ、実際にスペック開発に触れてみて感じたことは、「広告施策のプランニングと根本的には考え方は変わらない(変わるべきではない)」ということでした。
つまり、エージェンシーサイドとしては、クライアントと違った視点で価値を提供できないと意味がない、ということです。クライアントは(当然なのですが)モノとしての最善をまず追求しますが、それに対してエージェンシーとしては、(例えば)どのように使われるかをまず想定します。その両面があってバランスの良い必要十分なスペックが実現できたと思います。
考えてみれば、(例えば)オケージョン想定は通常の広告プランニングでも頻繁に使う手です(その商品スペックが使われそうな場面を象徴的に切り出して、広告に落とし込む)。
であれば、さかのぼってスペックの規定にも関与できれば、よりスムーズにマーケティング施策の企画に移れるのではないでしょうか。
実際、ついまるのスペック規定についても、まず最初に象徴的な使用シーンを決めて、それに向かってスペックを詰めていく、というステップを踏んでいます。
普段の仕事において、「広告は商品の一部である」(広告は擬似的なブランド体験を付与できるし、すべき)と常に意識しているのですが、その逆に「商品は広告の一部である」と意識したマーチャンダイジングが、今のメディア環境には必要かもしれません。
(上記は、前回のコラムの「ポイント2:情報自体に伝播性を持たせる。」と同じ意味合いです。商品自体も、情報伝播しやすい広告的価値を持っているのが理想的だと考えます。実際のついまる開発もその点を考慮しており、「ついまる」というネーミング、コンセプチュアルなデザイン、搭載機能などの設計において、「Twitterユーザーが話題にしやすいこと」にも留意しています)
そのようなスタンスに立つと、やはりエージェンシーは広告の領域を拡げて、マーケティングのより奥まで関与して価値提供できる(すべき)環境にあると思いますし、その分かりやすい1つの例が商品開発のプロデュースだと思っています。
最後に、ついまるの成果ですが、商品発売前にテッククランチに掲載されるなど、エッジの立った話題を提供しつつ、売上についても当初の目標を達成しました。また、エージェンシーとしての成果の1つには、冒頭の問題(開発コストが見合わない事)を解決するアプローチ例としての「売上に伴う成果報酬をシェアしていただく形式」にチャレンジできたことが挙げられます。
成果報酬については、難しい面も確かにありますが、その分、次回このような機会が実現した際は、双方が納得いくようなスキームを結べるくらいの(業務負荷や条件設定の調整についての)示唆が得られました。
次回は、最近の事例を通して、ソーシャルメディアについて触れていきます。
【梅田 亮「33歳、現場プロデューサーが考えるエージェンシーの未来」バックナンバー】