全国の優良店舗が実践する「集客・販促」のアイデアを72集めた『販促会議』2013年1月号。レストラン、ラーメン、アパレル、ビューティースポット、ホテルなど、「また行きたくなる店の工夫」を紹介しています。
ここでは『販促会議』2013年1月号の記事の一部を掲載します。
伝わる工夫は「コストゼロ」思わず話題にしたくなる紙ツール
フォーカス・マーケティングの提唱者に聞く
<文> 阪本啓一(マーケティング・コンサルタント)
通行人のうち「たった1人」の興味を満たすメッセージで確実に振り向かせ、リピートを促し、新たな顧客を呼んでもらい、広げていくー。こうした狭く濃いマーケティングが、情報があふれメッセージが届きにくい時代には欠かせない、とマーケティング・コンサルタントの阪本啓一氏は説く。そんな阪本氏が注目する販促アイデアはお金をかけずにすぐ実践できるものばかりだ。
予約が取りにくい人気店で火曜日はオッサン・デー
洋食の大衆食堂「瓦町ブラン」では、毎週火曜を「オッサン・デー」としている。人気で、まず、夜の予約が取れない店だ。電話すらなかなかつながらない。特に女性に人気なのだが、やはりお得意さまの男性にも来てほしい。店の周囲はビジネス街だから、男性が仕事帰りに、時間ができたからちょっと寄ろうかと思っても、予約しなきゃならないとなると面倒だ……。そんな男性にも予約なしで来店してもらえるように「オッサン・デー」を設けた。
その日は予約できないから予約客で埋まることはない。ルールは明確で「オッサンもしくはオッサン同伴の女子のみOK」。店のドアにオッサン・デーの貼り紙をすることで話題になり、ネットで写真が拡散する効果もある。
女性客が多く、夜の予約が取りにくい店だが、仕事帰りの男性客にも予約なしで来店してもらおうと設けたのが「オッサン・デー」。店のドアに貼り紙をすることで、「通りがかりの見知らぬ潜在顧客」のアテンションを引きつける効果がある。そして「オッサン・デー」というユニークなネーミングが記憶に刺さる効果。「オッサンもしくはオッサン同伴の女子のみ御入店OK。オッサン1人に女子1人まで」の注意書きもあり、思わず写真に撮って、ネットで話題にしたくなるのだ。
取材協力 Web Design office. ODB 花屋努
弁当箱のネット通販で年商1億 京都にリアル店舗
弁当箱ショップ「Bento&co」はフランス人ベルトラン・トマさんが子どもの頃、日本のアニメやマンガで育ったことが創業のきっかけだ。「お弁当」をマンガで知ったという。海外には日本のようなお弁当の習慣がない。正確に言うと、おかずがかわいく詰め込まれているお弁当がない。タコのソーセージやごはんの上に海苔でイラストを描いたりなんて工夫は外国人には芸術作品に見えるのだ。彼らのランチといえば、ホットドッグとリンゴだったり、バナナ1本だったり、タッパーウェアにポテトチップスだけが入っていたり。
ふたを開けた時に「ワー!かわいい!」と歓声が思わず出るような楽しいお弁当から、日本文化にはまり、ベルトランさんは日本へ移住までした。そして、お弁当箱を売るのではなく「ランチタイムの楽しさを売る」というコンセプトのもとネットショップを立ち上げ、年商1億にまで育てた。自らも「お弁当男子」として、毎日お弁当を自分で作る。
ブログは写真中心で、視覚に訴えるデザインだ。そして今年4月、リアル店舗を京都市中京区に出店した。賑わう店の壁に、「写真OK シェアして下さい」の貼り紙が。ソーシャル時代を深く理解している。つまり、お客さんがどんどん写真に撮って、ブログやフェイスブックにアップすることで、拡散することを狙っているのである。
自店だけではなく、お客さんにソーシャルで広めてもらう手法を、私は「逆ソーシャル作戦」と呼んでいる。この貼り紙はまさにその作戦の典型だ。ネットショップを運営し、フェイスブックやブログでも積極的に情報を発信しているオーナーの店だけに、ソーシャル時代を深く理解した手法である。店舗のフェイスブックは、写真が中心で視覚に訴える分かりやすいデザインで、スタッフのお弁当の写真もよく掲載されている。リアル店舗のある京都の街の情報もシェアされており、見ているだけで楽しい。
「何枚目のピザでした?」と隣の客に話しかけたくなる
イタリアンレストラン「ピノッキオ」でピザを注文すると創業1962年以来の累計枚数がナンバリングされた三角形の紙が添えられて出てくる。お客さんはこの小さな紙切れを見ると驚き、数字に見入る。隣のテーブルの見知らぬお客さんと、「何枚目でした?」と話し合う。そして帰りに必ず持って帰る。周囲に見せて話題にするためだ。つまり、お客さんが宣伝してくれる「仕掛け」になっているのである。
この店に私は小学生の頃から通っている。母に連れられて行ったのが最初だ。水泳で25メートル泳げるようになったとか、飛び箱を一段多く飛べるようになったといった、「何かいいこと」があったら、連れて行ってくれた。
高校生の時、ガールフレンドと行ったり、大学時代、テニス仲間と練習後大勢で押しかけ、ビールを飲んだりした思い出が、数字を見ているとよみがえる。あの頃、何枚目だったんだろう、と。小さな紙切れは、集客効果だけではなく、店での体験がお客さんの個人的なヒストリーの中に生き続ける効果も生んでいるのである。
ピザに添えられた小さな三角形の紙には「ご来店の記念に これからあなたがお召上りになるピッツァは、当店創業以来123万3269枚目です」と書いてある。リアルな紙を持って帰ってもらうことでの、人への拡散力は強い。日本人は「紙」への愛着を持っているからだ。しかも数字は1枚ずつ違うので、特別感が増す。リピート客は、数字を見る度、これまで来店したときの体験がよみがえってくる。ちなみにこの紙は、 村上春樹さんのエッセイ『辺境・近境』にもエピソードとして紹介されている。
※「販促会議」2013年1月号 顧客を増やす72のアイデア 店舗一覧 はこちら