広告の未来を探しにいこう。
そんな気持ちで進めてきたCOMMUNICATION SHIFT後半戦。
今週は、世紀の奇祭「セルフ祭」の特集です。
僕は、特に最近、個人の想いや力が世の中を動かしていくような時代になるんだ、と強く感じていて、偶然「セルフ祭」の存在を知ったとき、「これだ!」とピンとくるものがありました。
個人=セルフ。
まさに個人の力の時代の幕開けを象徴するかのような名前の祭。
もしかしたら、このお祭りに、広告の未来のヒントが隠されているのではないか?
しかも、この主催者の一人が、電通の後輩のコピーライター日下慶太さんだと知って、いてもたってもいられなくなり、新幹線に飛び乗り、大阪で定期的に開かれている「セルフ祭」に飛び込みました。
広告の未来の話をしよう。
COMMUNICATION SHIFT
今週は、「セルフ祭」です。
■セルフ祭 概要
2012年5月、大阪市浪速区の新世界市場ではじまった、誰でも参加オッケー、何でもありの21世紀の奇祭!アート、趣味、特技……幅広い年代の人々が思い思いのパフォーマンスで、祭をつくりあげていく。「祭おこして、町おこす」がスローガン。中心メンバーは、コタケマン、ケイタタ(日下慶太氏)他。
Webサイトはこちら
■日下慶太 プロフィール
ロシアでスパイ容疑で逮捕、アフガニスタンでタリバーンと自転車を二人乗りなど、世界をフラフラとしながら電通に入社。コピーライターとして勤務する傍ら、写真家、ライター、セルフ祭顧問として活動をしている。主な賞歴 TCC最高新人賞・朝日広告賞など http://keitata.com/keitata/
11月3日、セルフ祭の会場に潜入。
第5回セルフ祭の会場である名村造船所大阪工場跡地へ。
最初に目に飛び込んできたのは、廃墟のような空間に垂れ下がった「セルフ祭」の垂れ幕。
いきなりテンションが上がります。
入り口にはいろんな仮面が置かれています。好きなお面を自由にかぶっていいようです。基本、お祭りなのですが、フォーマットがないお祭り。みんな好きにしていいようです。
奥に進むと、祭壇らしきものがあります。太鼓をたたいている人、歌を歌っている人、自分勝手に踊っている人、よくわからないものを売っているおばあちゃん、兵隊の格好をしたお兄さん、天使の格好をした女子……カオスですが、不思議とあたたかい雰囲気です。
メインメンバーの一人であるコピーライターの日下慶太さんを発見!インタビューを敢行!
最年長は、80歳のおばあちゃん。わらじクリエイターです。
日下:いやいや、来ていただきありがとうございます。
並河:こちらこそです。
これからは個人の時代だと思ったときに、まさに個を体現するような「セルフ祭」を知って、どうしても見たくなったんです。バブルの象徴がヴェルファーレだとしたら、2010年代を象徴するのが、セルフ祭なんじゃないか、と。この祭が生まれたきっかけはなんだったんでしょう?
日下:今年の5月に、新世界市場という商店街で、コタケマンという絵描きが町おこしイベントを開いたのがはじまりです。
新世界市場って、めちゃくちゃさびれていて、シャッター商店街なんですよ。
100mぐらいのスペースはあったんだけど、お金も設備もない。だから、コタケマンが友達たちに、「セルフでなんかして!」って呼びかけて、そこから「セルフ祭」が生まれたんです。僕は、2回目からメインメンバーとして参加しました。
アートや音楽のイベントと違って、「祭」っていうのが良かったんだと思うんです。プロ、アマ問わず、主婦や、おばちゃんも参加できる。
きっと、だんじり祭も、最初は、「都ではみこしひっぱってるらしいぞ、俺らもやってみようぜ」
というところから始まったんだと思うんですよね。この祭を千年残したいって、メンバーは言っています。
並河:参加している最年長の方は?
日下:80代のおばあちゃんがいました。旦那さんにも先立たれてやることないから、毎日わらじをつくっていて、家にわらじがめっちゃたまっていて。たまたまセルフ祭のチラシを見て、私も出品してみたい、と。自分でつくったわらじを1000円で販売したら、ぜんぶ売れたんです。わらじクリエイターですよ。
おばあちゃん、喜んでてよかったなあ。
並河:うん。それですよね、これからの時代は。
みんなが「つくる」ことで、みんなが自然とつながっていく。
日下:いちばん若い子は僕の2歳の子どもかな。太鼓たたいたりしてます。審査はあんまりないです。
でも、自分を表現したい人が優先。作品はどうであれ、パッションを大事にしようと。「俺こうしたいねん」みたいなのが大事だと思ってます。
おばあちゃんもクリエイターなんですよね。ホームレスの詩人も来たんですけど、みんな、すごくクリエイターなんですよ。
震災の後、僕も敏感なほうだから、デモにいったりしてたんですが、何か違和感があった。デモは、「アンチ」なんですよね。
それが、セルフ祭をはじめて、「自分はこっちだな」って腑に落ちたんですよね。
みんなが「つくる」ことで、みんなが自然とつながっていく。
「セルフ祭」には、ホームレスも、日雇い労働の奴も、会社勤めの奴もいて。
このあいだも、セルフ祭のやつ、面白いから呼んでみよう、ってそんな感じに頼まれて、障がい者の子どもたちの施設で、おめんワークショップをやってきたんです。
並河:セルフって、自分たち自身でつくっていく、という意味。
今、いろんなキーワードがあるけれど、僕は、セルフというのがいちばんピンときたんです。
人任せにせずに自分自身でなんとかしようって考えることがとても大切。
気づくと、僕らは、セルフでできないことばかりになってしまっている。だから、一度、セルフに立ち戻ってみる。
おおげさにいえば、今必要なのは、「セルフ日本」かもしれない。
日下:なんか、すごいっすね、それ。
後編に続きます。
並河 進「広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT」バックナンバー
- 選挙直前スペシャル!鈴木菜央さんに聞く「投票率向上のために、コミュニケーションの力にできること」(12/12)
- 矢嶋健二さんに聞く(前編)「ゼロから市場をつくりたい」(11/28)
- 松倉早星さんに聞く(前編)「解決しない広告」(11/7)
- 佐藤尚之(さとなお)さんに聞く(前編)「効率じゃないコミュニケーションへ」(10/24)
- 丸原孝紀さんに聞く(前編)「ホットパンツで革命を」(10/3)
- 箭内道彦さんに聞く(前編)「バラバラになった日本を、広告の技と愛でつなげたら」(9/19)
- 中村洋基さんに聞く(前編)「世界をつまらなくしているものに抗いつづける」(9/5)
- 永井一史さんに聞く(前編)「デザインとは、もともと社会をよくするためのもの」(8/22)
- 澤本嘉光さんに聞く(前編)「広告の未来は、広告をつくっている僕らが決めることができる」(8/1)