世紀の奇祭「セルフ祭」に学ぶ(前編)はこちら
■セルフ祭 概要
2012年5月、大阪市浪速区の新世界市場ではじまった、誰でも参加オッケー、何でもありの21世紀の奇祭!アート、趣味、特技……幅広い年代の人々が思い思いのパフォーマンスで、祭をつくりあげていく。「祭おこして、町おこす」がスローガン。中心メンバーは、コタケマン、ケイタタ(日下慶太氏)他。
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■日下慶太 プロフィール
ロシアでスパイ容疑で逮捕、アフガニスタンでタリバーンと自転車を二人乗りなど、世界をフラフラとしながら電通に入社。コピーライターとして勤務する傍ら、写真家、ライター、セルフ祭顧問として活動をしている。主な賞歴 TCC最高新人賞・朝日広告賞など http://keitata.com/keitata/
前編からの続きです。
セルフでやっちゃえ、って。それが、表現としての強さにもつながっている。
日下:セルフ祭のメンバーは、コピーライター、絵描きから、庭師までいる。ぼくらの共通点は「これやりたい」と言い出したときから、カタチになるまでが、とにかく早い。たとえば、ぼくのアイデアをミュージシャンが音にしてくれる。絵描きのアイデアをぼくが言葉にする。そんなふうにしてできた1つが、「セルフ音頭」です。池田社長(社長というあだ名で本業はフリーター)というスタッフの一人がセルフ祭のテーマソングつくりたいって言い出して、音楽をオオルタイチくんにお願いして、歌詞はぼくが書いて。
「おもろい」と思ったことを、シンプルに実現できる。セルフでやっちゃえ、って。それが、表現としての強さにもつながっているんですよね。
広告の場合、普段僕らって、自分がつくっている表現を、「これでいいですか?」と、誰かに確認して終わり、となるじゃないですか。
その最後の確認プロセスがあるという前提が、心のどこかで、「自分は決断しなくていい」という弱さにもつながっていやしないか、と思うんです。
「自分はこれがやりたいんだ」という意思が、どこか弱い、というか……。
並河:そう考えてみると、広告づくりって、ぜんぜんセルフじゃないなあ。
日下:そうなんですよねえ。
広告をセルフでつくる実験。
並河:広告づくりのすべてのプロセスを、いったんぜんぶなくしてみる、という実験は、ありえるかもしれない。
日下:セルフ祭とは別のプロジェクトなんですが、近い試みをやったことがあります。
大阪の新世界で、後輩のコピーライターやアートディレクターに声をかけて、商店街活性化のためのポスター展を開いたんです。
コピーライターとアートディレクターの二人一組で、1つの店を担当しポスターをつくる、ということで。表現は、ぜんぶ自由。アートでも何でもいいから、好き勝手やれ!って言って。まさにセルフですよね。
でも、自由にしたら、逆に、みんな、最後は、ちゃんと商品に向かっていったんですよね。取材をしはじめたりして。不思議ですよね。
それが、すごく面白かったんですよね。
「この商品を伝えたいんだ」という自分の原動力をふくらませていく。
並河:この話は、広告づくりのプロセスの話というよりも、広告づくりの「原動力」の話かもしれない、と感じました。
広告は「これを伝えなさい」と言われるところから始まるけれど、本当は、「これを伝えたい」という自分の想いから始まったほうが表現としてきっと強い。
日下:原動力って、いい言葉ですね。
そういえば、今、すごくいい広告つくっている人たちって、みんな、企業の人とじっくり話しながら、商品づくりそのものにも関わりながら、「この商品を伝えたいんだ」という自分の原動力をどんどん大きくしていっているか、「おれはこんなことしたいんだ、こんなことを世の中に伝えたいんだ」っていう個人的欲望、個人的メッセージをコマーシャルメッセージに置き換えている、そんなイメージがあります。
原動力って、大事だなあ。
並河:見落とされがちだけど……「これを伝えたい」という原動力を、その広告づくりに関わるすべての人がきちんと持って、大きくしていけるような、広告づくりのありかたを考えなくちゃいけない、と思います。
日下:あと、表現もそうだけど、表現の入れ物自体もセルフじゃないですよね。
はい、CM15秒、はい、新聞15段って、もう枠自体が決まっていることが多い。
その点、並河さんは、セルフだと思うんですよ。並河さんが手がけた、東ティモールに1000個トイレをつくる「nepia 千のトイレプロジェクト」だって、そんなフレームにとらわれていないですよね。
並河:ぼくは、ただ信じられる広告を探っていたら、自然とそうなっていったというか……。
日下:「信じられる広告」も、またいい言葉ですね。
最近気になっているのは、広告の中身以前に、それを伝える枠そのものが信じられるものかということ。震災以降、特に。
だから、表現の中身もそうだけど、その器もセルフでつくらんとあかんなあって思ってます。セルフ祭みたいな器を広告の世界につくれるといいなあ。うーん、難しいかなあ。
ちなみに、セルフ祭で、日下さんは、「写真プリント悪口」というコーナーを出していました。
これは、100円を支払うと、写真を撮ってくれて、その写真に日下さんが悪口を書いてくれるというサービスです。
いいなあ、セルフ祭。
今週はここまでですが、一つお知らせがあります。
私ごとで恐縮ですが、「Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた」(並河進 著、木楽舎 刊)が、12月20日に発売になりました。
広告が社会のために何ができるか、僕が探り続けてきた、途中経過報告です。
手に取っていただけたらうれしく思います。
それでは、COMMUNICATION SHIFT、来週に続きます。
並河 進「広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT」バックナンバー
- 世紀の奇祭「セルフ祭」に学ぶ(前編)「広告をセルフにしたらどうだろう?」(12/19)
- 選挙直前スペシャル!鈴木菜央さんに聞く「投票率向上のために、コミュニケーションの力にできること」(12/12)
- 矢嶋健二さんに聞く(前編)「ゼロから市場をつくりたい」(11/28)
- 松倉早星さんに聞く(前編)「解決しない広告」(11/7)
- 佐藤尚之(さとなお)さんに聞く(前編)「効率じゃないコミュニケーションへ」(10/24)
- 丸原孝紀さんに聞く(前編)「ホットパンツで革命を」(10/3)
- 箭内道彦さんに聞く(前編)「バラバラになった日本を、広告の技と愛でつなげたら」(9/19)
- 中村洋基さんに聞く(前編)「世界をつまらなくしているものに抗いつづける」(9/5)
- 永井一史さんに聞く(前編)「デザインとは、もともと社会をよくするためのもの」(8/22)
- 澤本嘉光さんに聞く(前編)「広告の未来は、広告をつくっている僕らが決めることができる」(8/1)