中国地図に見る世論統制術

安倍政権は安全保障でどこまで開かれた政策を展開できるか

筆者は昨年後半より本コラムや他の誌面においても中国の領土拡大政策は尖閣諸島に端を発し継続すると訴えてきた。度重なる領空・領海の接近・侵入は新政権である習近平体制の海洋強国に対する強い意思表示と見られる。こうした意思表示は、日本に向けたものだけではなく、南シナ海やロシア、韓国にも及んでいる。

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2013年度版中国地図

今年1月7日に、地図作製で権威のある中国地図出版社が、中国が領有権を主張する南シナ海の島々を盛り込んだ2013年版中国全土地図を制作した。中国は南シナ海の南沙諸島の領有権をめぐりベトナムなどと対立を深めており、マレーシア北部の海域までを含んだ新たな全土地図を発行することで、南シナ海での領有権の主張を国内外に強める狙いがあると見られている。
 
一方、安倍政権は、これらの度重なる中国の高圧姿勢に対して、自衛隊の積極活用による警告射撃等の強行策を検討し始めている。民主党政権が徹底的な話し合いによる解決にこだわり、結果的に中国の攻勢を助長したとの認識があるが、どこまで実効性において踏み込んだ対応ができるかが今後の評価の分かれ目だ。

現在、インドとパキスタンの間で領有権を争うカシミール地方においては、停戦ライン付近で死亡者を出す衝突があり、一触即発の緊張関係が続いている。日本と中国との関係においても、振り上げたこぶしを下ろす機会を日本が中国に与えれば、中国にとって有益な攻撃の理由を提供するだけでなく、日本での犠牲者が発生する可能性がある。自衛隊の組織力や兵器の装備状況で実戦における優劣を決めるのではなく、政治的、外交的手腕によって実戦を回避しながら日本の国益を守ることが重要である。

国民世論に気を使う中国政権

今回の拡大全土地図を発行した中国は、昨年尖閣諸島問題が生じた前後にも、頻繁に違う地図を制作していた。地球を横に寝かしたような地図を制作することで、海洋強国を狙う中国にとって、尖閣諸島や日本が蓋(フタ)をしているような形となり、邪魔な存在であることを国民にアピールする狙いがあったのではないかと考えられる。その方法や手段は別として、世論統制の技術において日本はまだまだ中国に遅れている。国民の支持が得られなければ政権は維持できない。安倍政権が今後開かれた政治を押し進める中で、どこまで国民に情報開示を行い、支持を得られるかが期待される。

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日本を寝かした状況にした中国地図

白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー

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白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)
白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

白井 邦芳(危機管理コンサルタント/社会情報大学院大学 教授)

ゼウス・コンサルティング代表取締役社長(現職)。1981年、早稲田大学教育学部を卒業後、AIU保険会社に入社。数度の米国研修・滞在を経て、企業不祥事、役員訴訟、異物混入、情報漏えい、テロ等の危機管理コンサルティング、災害対策、事業継続支援に多数関わる。2003年AIGリスクコンサルティング首席コンサルタント、2008年AIGコーポレートソリューションズ常務執行役員。AIGグループのBCPオフィサー及びRapid Response Team(緊急事態対応チーム)の危機管理担当役員を経て現在に至る。これまでに手がけた事例は2700件以上にのぼる。文部科学省 独立行政法人科学技術振興機構 「安全安心」研究開発領域追跡評価委員(社会心理学及びリスクマネジメント分野主査:2011年)。事業構想大学院大学客員教授(2017年-2018年)。日本広報学会会員、一般社団法人GBL研究所会員、日本法科学技術学会会員、経営戦略研究所講師。

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