反応がないこともコミュニケーション
――確かに東急ハンズと言えば、親しみやすくちょっとゆるいツイッターキャラクターの先駆けというイメージも強いです。
緒方 ここは誤解して欲しくないことですし、ある意味先ほどと矛盾するように聞こえるかもしれませんが、ゆるい発言をするから面白い、よってフォロワーが増える、というのは1つの側面としては間違いありませんが、当然それが本質ではありません。
東急ハンズとしては、「話しかけやすい店員像」というものをソーシャル上で形作ることは、お客さまからしたらそれはそのまま「質問のしやすさ」につながりますので、「小さい来店喚起のすくい上げ」のために何よりも大事なものになります。
ゆるい発言などは会話の中やタイムライン全体の空気を読んだ結果、話しかけやすさのアップや会話のキッカケとなるためのフックのひとつとして出てくるものでしかありませんので、この部分がアカウントの主役になることはありません。自らドンドンとゆるい発言をする、ということではない、ということは強調しておきたいです。
コミュニケーションの過程として、丁寧すぎる言葉よりも気軽な言葉を使うことがもたらす価値はあるのですが、そうした一面ばかりを捉えて「企業がゆるいコミュニケーションをすればソーシャル上でウケがいい=成功」というのは本質ではありませんし、そうした風潮があることには正直危機感を覚えている面もあります。
例えば3万人のフォロワーがいたとして、1ツイートが1000RTされたとしたら運用担当者は恐らくガッツポーズをすると思いますが、それほどまでにRTされた場合であっても、「RTしていない、反応していない人の方が多い」という事実を忘れてはいけないということです。反応してくれた人と盛り上がるのもコミュニケーションですが、反応していないということもまたコミュニケーションです。反応が多くあったからと言ってその盛り上がりやテイストに固執することはバランスを欠いている以外の何者でもなく、離反を生むものであると、考えてます。とにかく、「空気を読む」ということと「バランス」を持ってコミュニケーションを積み重ねて行くことが、ポイントなのかなと。
――コミュニケーション要素が強いアカウントは、担当が変わると引き継ぎも大変そうです。
緒方 大事なのは運用方針が企業の理念、会社の方向性ときちんと合っているかです。弊社で言うと先ほどの「お客さまが話しかけやすいと感じる人物像作り」というものは、お客さまときちんとコミュニケーションし、適切なコンサルティングセールスを行うという東急ハンズの本懐のためにそれが重要であることは社員全員が理解できます。
我々がツイッターで行っていることは店舗での接客と同じことなので、接客であれば東急ハンズの社員全員が誰でも行う必須の業務。つまり、我々のソーシャルメディア運用方針はマーケティング前提ではなくお客さまとのコミュニケーションによる信頼関係の構築・蓄積であり、新しい接客の窓口です。
よって、東急ハンズの社員であれば、誰でも違和感なく運用を引き継いでいけると思います。
社会人としての常識はもちろんですが、東急ハンズとして、ツイッターやフェイスブックでポストをする先にいるのはお客さまであるという意識をしっかり持つこと。そうすれば基本的にはおかしなことにはまずなりませんし、適性はあるにせよなにか特別なスキルがいるものでもないと考えています。コミュニケーションに従事する者として一定量の空気を読む力があればなお良し、という事はあると思いますが。
――「空気を読む」のが苦手、という人も多いですが、こういう人が適しているという要素はありますか。
緒方 例えば私自身はとても人見知りなので、人と話す時に「この人は何を考えているんだろう」と想像をしてコミュニケーションをする努力はしています。その上で、言葉選びを考える、ということが大事だと思います。
ソーシャル担当を考える時にWebの知識が豊富というのも大事なのかもしれませんが、一番大事なのは相手の気持ちを考えてコミュニケーションできるかどうか。これが適性の下地になります。空気読みはその上にプラスαであると良い、ブースターです。
伝えたいと思う気持ちよりも、相手が言いたいことを想像できる気持ち。おしゃべりすることが好きな人よりも、おしゃべりを聞くことが好きな人。ボケというよりかはツッコミ、なのかもしれません。
私も、ポンポンと小気味よく会話できる人間ではないですが、ソーシャルでのコミュニケーションは実際の会話と違い、返信前に「一呼吸置く」ことができますので、考える時間を頂戴できています。ですので、私みたいな人間でも、それなりにできるのではないかなと。リアルでの接客の方が、基本的には難しいです。ハンズスタッフの、店頭での接客の様子を見るということが、ソーシャルコミュニケーションの重要なトレーニングになっています。
※後編(21日掲載)に続きます。
高柳 慶太郎「ソーシャルメディア活用 先進企業に聞く」バックナンバー
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