エンゲージメントは「広告」ではなく「コミュニケーション」で生まれる。―「ニコニコ動画」さんとの対談(1/3)

今回は、雑誌「宣伝会議」の谷口編集長にドワンゴコンテンツ 広告営業部 部長 岡村裕之さんとの対談をセッティングしていただきました。対談を通して、クライアントはメディアに、広告代理店に、どのようなことを期待しているのか? そしてそのような中、エージェンシーのプロデューサーとしてどのような価値を提供できるのか? そういったことを探ってみました。
※盛り上がったので、全3回に分割し、これから毎週月曜日にアップしていきます。

梅田:広告業界が発展するにつれて、メディアの広告販売代理という立場から、クライアントへのソリューションの提供、あるいは各種コンテンツのエージェント機能やビジネスのプロデュースなどと様々な形に機能分化してきましたが、ここで改めてメディアと広告代理店との関係性について考えてみたいと思います。

クライアントにとっては、そこにマーケティング価値があるから広告費を掛けるわけで、その意味からいえば、本来はメディアのマーケティング価値開発についてもエージェンシーが寄与すべき面もあると考えているのですが、その観点においてメディアの方々がエージェンシーに求めることなどもぜひ話していきたいと思います。

それでは、岡村さんの自己紹介からお願いします。

岡村:ドワンゴコンテンツの岡村です。ニコニコ動画の広告枠の企画設計をしながら、スカイスクレイパーで取締役として、セールスを統括しています。今まではネット広告を中心に企画やセールスを行ってきましたが、最近はニコニコ超会議などのリアルイベントも開催しており、そこへの企業誘致に注力しています。超会議はニコニコ動画というインターネットのサービスをリアルの場に再現したイベントですが、そこで終わりではなく、来場者を再度ネットに連れてくるなど、イベント当日だけではないつながりも視野に入れてクライアントと話をするということも出てきています。

単に協賛を付けるのではなく、ユーザーシーン(ユーザーの文脈)との連動性を考えて、協賛企業がユーザーとどういうコミュニケーションがとれるかを最近は考えています。

全体のキーワードは「ユーザー」。

梅田:僕は今日のキーワードはユーザーかなと思っています。さて、最近のクライアントとの取り組みで特筆したことなどご紹介ください。

岡村:あるクライアントの施策で、素人の方を起用した生放送番組の企画がありました。夢を持った素人の人たちが一つのシェアハウスで共同生活している様子を1カ月間生放送し続け、彼らが夢をかなえるまでを追いました。

番組開始時は名前も知らない人たちだったはずなのに、毎日配信していくことにより、生放送中に「これから○○へ行きます!」と場所を宣言すると、その生放送を見ているユーザーがその場所で彼らに会うために待っているということが起きました。また、ユーザーから出演者に対してもっとこうしたら面白くなるのではないか?というコメントなども出て、そのやり取りで展開を変えていったりもしました。ユーザーとの距離の近さが如実に出た案件ですね。

梅田:普通の広告と違って展開もハプニングもあり得ると思いますが、そこをクライアントにどう説明していますか?

岡村:基本的にユーザーは何かしら暇つぶしをしにきたり、コメントを通じて会話をしたり、楽しみたいという欲求を満たしにきているだけで、多くのユーザーは、わざわざ場を荒らしにきたいわけではありません。予期せぬトラブルがあった場合にも、正直にユーザーと向き合っていればいわゆる”炎上”にはならないのです。

その上で我々の案件でよく混同されがちなのがクレームと指摘についてです。「現状に対しての否定的なコメントはすべてクレームと反射的に判断するのではなく、自分たちへの建設的なコメントとして受け止め、ユーザーと一緒につくりあげていく事を意識して欲しい。」ということを話してます。

梅田:広告代理店の理解についてはいかがでしょうか?

ストーリーとバッファ。ユーザーにゆだねる。

岡村:最近は、広告代理店にニコニコ動画を理解してくださっている方が増えてきていてニコニコらしい広告展開も増えています。ただ、まだ一分の隙もない進行を想定してユーザーはただそれを受け取るしか出来ないような企画を要望される事も少なくはありません。我々から提案をする際には、KPIに合わせたスタートとゴールは軸として設定していますが、そこへの過程にはとらわれず企画としてストーリーとなる7割くらいの全体像を描いておいて、3割は遊び、バッファの部分として残します。企画の進行中に偶然生まれたコミュニケーション、例えばこの人が出てきたらこのコメントが出てくるとか、出演者にあだ名が生まれるだけで、コミュニケーションとしては一段深くなります。そういったユーザーとのやりとりで生まれたネタなどは都度積極的に取り込んでいきたいと思っています。

梅田:ある種、ユーザーの反応を見ながら変えていけるからそこが面白いところですよね。

岡村:ニコ生は即時にいろんなコメントがユーザーの反応として返ってくるので、自分が今ウケているのか、スベっているのかがわかり、それに合わせて自分で話す内容を変えられます。それって日常的な会話と一緒で、アドリブで目の前のことにリアクションできるのがいいなと思います。

既存メディアだと世に出してから修正ができないので、完成品を出さなくてはいけないという意識がすごく強いですよね。ソーシャルだと、事前に考えることはもちろんとても重要ですが、アドリブも視野に入れて、ユーザーに少し委ねてみることも大切だと思います。

梅田:よく「広告も運用する時代」といって、大きく構えて半年前から準備するだけでなく、小さく回していきながらユーザーとエンゲージしていくところにシフトしてきていると思いますが、ここまででお話ししていただいた施策もクライアントや広告代理店がメディアのことをよくわかっている事例ですよね。でも、そういう案件ばかりではないと思うので、そのあたりの苦労というか、もっとこうしたいのにとか、こうなったらいいなとか、希望はありますか?

岡村:過去にあった案件で、クライアントの商品発表会を生放送で実施するということがあり、まず代理店から番組の台本があがってきたのですが、当初の台本がユーザーとのやり取りがなく、いわゆる”企業の発表会”台本で、司会者がリリース文をそのまま読み上げるような番組となっていました。それをそのまま流してしまうと、視聴者はただ企業の発表を一方的に聞かされているだけで、ユーザーに喜んでもらいたいのか、賛同してもらいたいのか、商品を知ってもらいたいのかが全くわからず、何のために放送をするのか何も伝わらなかったので、内容を書き直し、視聴者に共感・参加してもらえるような要素を組み込んだ修正台本の提示をしました。結果としてゼロから書き直すくらいの修正になってしまったのですが(笑)そういったユーザーの立ち位置や感情を置いてけぼりな企画にしないようにする、というのが苦労というかよく意識することですね。

一方で、ニコニコを使うからにはものすごい手間や覚悟が絶対必要というわけではなく、単にニコニコにバナー広告を出すだけなら他のメディアとなんら変わりません。また、アーカイブの動画を載せるだけならコミュニケーションの深度も軽くなるので負荷も少ないです。投稿キャンペーンとなると盛り上げるための施策も多く、サイト内での場の形成やユーザーへの負荷も重くなることから事前準備含め手間も多くなります。生放送はユーザーとのリアルタイムコミュニケーションとなるので、出演者の人となりや企業としての懐の深さは見られたりするので、普通の会話に近くなり、親近感を持ってもらいやすいという側面があります。広告主の課題に合わせていろんな使い方はしてもらえますが、よりニコニコらしい広告とするためには、ユーザーを信用してもらう、ユーザーにゆだねる部分を受け入れてもらえるかが大きいですね。

梅田:「このような案件だと、こういうパターンに落ち着くかな」というのが5年かけて出来てきたわけですね。

では今後、広告の中で特に力を入れたい、こんなメディア価値を作っていきたい、ということはありますか?

コミュニケーションをし、企業とユーザーの距離を縮める。

岡村:僕らがやりたいのは、企業からユーザーへの宣伝活動を、一方通行ではない人と人とのコミュニケーションにすること。たとえば生放送でのコメントや、アンケート機能を使った対話、超会議のような直接触れ合える場での会話などです。

広告って最終的には見てくれている人にどういう行動をしてもらいたいか、という話だと思うんです。よく広告はラブレターだ、と表現されたりもしますが、根本にあるのは人間関係ですね。冒頭で「ニコニコ動画は対話のパターンとして最先端」という話がありましたが、僕らは超アナログだと思っています。ニコニコのことを語るときに「現代のお茶の間です」や「ネット版の街頭テレビです」と言っているのですが、性別と年代もバラバラで、お互いの名前も知らない人たちが共通の趣味嗜好の元に集まってきて、そこでワイワイやって、終わるとまたバラバラに立ち去るというような。昔からあった光景ですよね。

「今日のテーマはユーザーだよね」と言っていただいたように、突き詰めるとユーザーとどういう対話をするか、なんですよね。

たとえば水を売る場合でも、タレントさんがかっこよく水を飲んで「この水、いいだろ?」って思わせるのも1つですが、「今日寒いですよね。空気乾燥してますよね。喉かわきませんか?水いりませんか?」と相手の立場や状況に合わせた薦め方もあると思います。それがいちばん原始的な広告というか。

梅田:富山の薬売り的な。

岡村:薬売りも脈々と続いていますしね。

梅田:マーケティングは企業と消費者をつなぐことだと思うのですが、その間にたまたまメディアがあり、メディエイトする、間を取り持つのですが、4マスの時代はそれが非常に強力だったので、そこに広告を載せることがメディエイトすること、消費を刺激することになっていました。

今はメディアが細分化してきて、逆にユーザーがどういう人たちかが見えるようになって、実はその方が施策も考えやすいと思っているのですが、それが見えるニコニコは、本当はやりやすいはずなのに、見えるから構えられてしまうことはあると思います。

岡村:それをどう解釈するかは難しくて、ニコニコは間違いなく10代20代が多いサイトではあります。そういう意味ではユーザーが見えやすいのかもしれませんが、趣味嗜好は様々で、とても一括りにはできません。括るのであればどちらかというとコミュニケーションしたい人の集まりのがしっくりくるかと思っています。

例えば、商品を告知する際に大事なのは性能や価格だと思うのですが、購入時の判断基準にはそれだけではなく、「好きか嫌いか」という基準があると思います。ニコニコはユーザーとの距離が近いことで、その好き/嫌いという部分に触れられるメディアなのかな、と思います。

梅田:そうなんですよね。「極めて偏ったメディア騒動」(昨年11月下旬、民主党の安住淳幹事長代行(当時)の発言に端を発したもの)があったときも興味深いなと思っていて。本来誰でも来てコメントできるはずなのに。コメントが流れることだけですよね、他のメディアとの違いは。

岡村:そうですよね。すごくシンプルではあります。

梅田:でもそれがコミュニケーションを生み出していて、コミュニケーションしたい人が集まってきている。ニコニコをコミュニケーションプランニング/デザインにもっと取り入れられれば、と思っています。

※第2回は1月28日(月)にアップの予定です。


【梅田 亮「33歳、現場プロデューサーが考えるエージェンシーの未来」バックナンバー】

梅田 亮(大広 デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター プロデューサー)
梅田 亮(大広 デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター プロデューサー)

2002年大広入社の11年目。33歳。経歴の半分はマーケター、もう半分はコミュニケーションデザイン領域。
その間もR&D業務の兼務や博報堂DYグループ横断プロジェクト(次世代型コミュニケーションモデルの検討)への参加など多様な経験を積む。
2012年4月に、新設された「デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター」へ志願異動。デジタルを旗印としつつ、新たな領域全般を積極的に取り込み、コミュニケーションプロジェクト全体を統括/推進する機能を担う。
受賞歴は、TIAA2008ブロンズ、AD STARS 2012ファイナリスト、JAAA2011年クリエイティブ・オブ・ザ・イヤーノミネート等。


Facebook:http://www.facebook.com/ryo.umeda.77

梅田 亮(大広 デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター プロデューサー)

2002年大広入社の11年目。33歳。経歴の半分はマーケター、もう半分はコミュニケーションデザイン領域。
その間もR&D業務の兼務や博報堂DYグループ横断プロジェクト(次世代型コミュニケーションモデルの検討)への参加など多様な経験を積む。
2012年4月に、新設された「デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター」へ志願異動。デジタルを旗印としつつ、新たな領域全般を積極的に取り込み、コミュニケーションプロジェクト全体を統括/推進する機能を担う。
受賞歴は、TIAA2008ブロンズ、AD STARS 2012ファイナリスト、JAAA2011年クリエイティブ・オブ・ザ・イヤーノミネート等。


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