※盛り上がったので、全3回に分割し、アップしていきます。
ドワンゴコンテンツ 広告営業部 部長 岡村裕之さんとの対談企画「エンゲージメントは『広告』ではなく『コミュニケーション』で生まれる。今回が全3回の2回目です。前回は、
- 全体のキーワードは「ユーザー」。
- ストーリーとバッファ。ユーザーにゆだねる。
- コミュニケーションをし、企業とユーザーの距離を縮める。
といったテーマが出てきました。メディアのビジネスにおいて、すなわちクライアントへの価値提供において、「ユーザーとのコミュニケーション」がいかに大切か、そのためにはどうしたら良いか、といったエッセンスが抽出できたかと思います。それを受けて今回は、広告代理店がどのようなスタンスでその状況に向き合うべきか、といった話に入っていきます。
ユーザーに背を向ける広告代理店。
梅田:「ユーザーと一緒に何かやるような広告・コミュニケーションをしていきたい」中で、それをもっと広げていくことを考えた時にエージェンシーに求めることはありますか。
岡村:誰をターゲットに据えた企画なのか?の目線を合わせてもらいたいというのはありますね。僕らはユーザーを見ていて、クライアントもユーザーを見ているけれど、広告代理店だけはクライアントを見ています。
クライアントも普段からお客様センターなどがあり、ユーザーの意見を直接聞かれていて、さらにツイッターなどを使っているクライアントならより多くのリアルの声に触れているんですよね。でも広告代理店だけは直接触れていない。他企業が炎上などしたときに情報だけに触れて、架空の痛みで勝手に痛い気がしているだけで、想像の痛みだけでやることをやめてしまう方が多いです。
梅田:メディアもクライアントもユーザーに反応してもらうことを考えているのに。
岡村:クライアントに怒られないことに意識が向いていると全然面白くなくなります。広告代理店の方にその意識はないのかもしれませんが、無意識にブレーキを踏んでいるというか…。
広告代理店の方が良く使って、僕らが嫌う言葉に「ユーザーをコントロールする」という言葉があって、こういう言葉を無意識で使ってしまうくらい自分とユーザーが別物だと思っているんですよ。下に見ているとまでは言いませんが、自分がコントロールできるものの認識なんですよね。その結果、甘えがでてきたりする。でもその甘えはユーザーには伝わりますよね。なぜならユーザーは企業を見ているのではなく、目の前にあるコンテンツが面白いか、面白くないか、もしくはどう面白くできそうか、ということを見ているわけですから。リアルタイムの反応を見ていると、相手のことを考えてつくられているコンテンツか、自分たちが見せたいものだけを見せているコンテンツなのかが、意外と簡単に伝わってしまいます。僕らが広告でやろうとしているのは、ユーザーと企業を利害の一致した遊びに参加させる共犯者のような関係にすることです。それには最低限の信頼関係、相手の意見を受け入れる姿勢などある程度対等な関係でいる必要があります。
一方、広告代理店の企画はユーザーが企画のルールにのることが前提でつくられていることが多いです。
梅田:投稿キャンペーンには、ユーザーが投稿してくるものだと思い込んでいたり。
岡村:そうですね。もし、自分がその企画を一消費者として見た時、本当に手間をかけてまで投稿するの?というような企画だったりする場合も。
梅田:でも、コントロールはできないけれども、反応を見ながら運用はできる。小さくPDCAを回していくのが新しい。以前はクリエイティブの質を保つコントロールが大事だったけれど、今はそれに加えてユーザーと一緒に対話しながら運用していくことが大事なのかなと思いました。
岡村:既存メディアは情報の流れが一方通行って言われていて、インターネットがでてきて双方向になったよね、と言われてはいたけど(広告を)出したものにクリックするだけで、ユーザーはクリエイティブに対するライク、ディスライクくらいの反応しかできませんでした。
ニコニコ生放送はユースト+ツイッターとよく比較されますが、ツイッターは140字の制限があるので、受けた情報を整理してしっかりした意見になっていることが多いです。それに対してニコ生は、今思ったことに瞬間的に反応するため、文章としては成立していないけれど、ただ草を生やす(※笑いを表す「w」がならぶとwwwとなり芝生のように見えるところから)など、より感情のシンプルなところに近いコメントが返ってきます。それに受け手に反応できるという意味では、既存メディアとはまた違う双方向が生まれるのでユーザーと一緒に対話をしながら運用が、よりしやすいのかなと思います。
梅田:広告って感情に訴えてなんぼのところがあって、シズル広告ってまさにそういうことで、ビールが出てきて、シュパー!みたいな。「で、ああビール飲みたい」と。ニコニコでそういうのができたら楽しい。
岡村:ユーザーが投稿した動画で、あるアニメのとても美味しそうに飲料を飲むシーンに、飲料メーカーのCMをかぶせた動画が人気になったんです。それをその飲料メーカーの方が見ていて、問い合わせをくれたんです。「何か一緒にできませんか?」と。以前ならこういった相談は広告代理店に連絡がいったと思うんですよね。それが、直接問い合わせがくるようになってきている。
梅田:そういうところ、広告代理店の課題かもしれません。
岡村:「ニコニコ超会議」のセールスも広告代理店さんにも、当然公開してはいるのですが、前回実施の際は、ほぼ直取引でした。前回出展いただいた企業さんも特段、特殊な企業というわけではなく、広告代理店もアカウントを持っているのに、営業のプロではない僕らが行くことで(取引の口座が)開いてしまう。それはクライアントと僕らにとって一番大事なのはユーザー(消費者)で、どうやったら受け入れてもらえるか?そのためには何を提供できるか?という話だけをすれば良いので結論に達しやすいんですよね。
そこに広告代理店が入ってくると、必要以上にクライアントを守るためにニコニコというアンコントローラブルな場をどうコントロールできる場として説明しようとか、台本通りに進む企画にしないとだめだとか、おかしくなってきてしまう。ソーシャルメディアを実際に使われているクライアントなら気にも留めない瑣末な懸念をなくすことにまず意識が向かってしまっているんですよね。
梅田:見ている方向の話ですが、広告代理店はメディアを理解しようと思って、こういうメディアだから、この価格がついていますとか、こういうターゲットに対して効果がありますとか、そういう話をするのですが、それはクライアントを向いた話。結局はメディアを見ているユーザーを理解しないとメディア理解もできないなと思いました。
これはネットメディアだけに限ったことではなく、たとえば雑誌も読者イメージがはっきりしていて、クライアントと雑誌編集も近い関係にあって直接話しているケースもよくあります。そんな中、タイアップ記事でどう商品を見せていくのか、広告代理店も雑誌の読者やコンテンツについて勉強して、良い提案をしているケースもある。
それと同じなのに、というのはすごく思いました。もっとネットメディアについても、ユーザーについて理解した上で企画をプランニングすべきだし、それができないと厳しいと思います。
岡村:ユーザーをコントロールはできないけれど、どういう展開にしたいかというストーリーは作れます。もちろんストーリーを作れると言っても土のない場所では根が育たないように、その場に馴染みのないストーリーをいきなり植えつけようとしても上手くいかないので、ちゃんとユーザーやメディアについて理解した上でのプランニングが必須です。
とはいえ、ストーリーを作っていても、予期せぬ事態は起きる。中にはユーザーから面白いアイデアが来たとしても大人の事情で対応できないこともあると思います。その場合も隠したりごまかしたりするのではなく、関係者もユーザーも一番楽しめる場になるように正直に臨機応変に対応していくことが重要です。
梅田:ニコニコのメディアの成長の仕方もそうですよね。ユーザーと一緒に成長していったメディアなんじゃないかなと思いました。
(次ページヘ続く)