ツールには広告を。メディアには広告的コンテンツを。
岡村:アドネットワーク広告による売り上げが伸びてきて、「露出されていて効果が出ている限りは掲載されている場所はどこでもいい」という考えが増えているようにも感じます。いろんなサイトを見ても同じクリエイティブの同じ広告が出ている。それはクライアントにとって損がなさそうなことではありますが。
ニコニコは、「広告はコンテンツの1つである」という意識を持っていて、コンテンツとして「生放送」や「動画」や「アプリ」があるのと同じで「広告」があると考えています。その結果、広告だとしてもユーザーがコンテンツとして盛り上がってくれることもあります。面白い広告があると、ニコニコ大百科(ユーザーの投稿・編集によって作られるニコニコ動画の百科事典)などにニコニコの歴史の一部としてまとめてくれたりします。それはユーザーが広告をコンテンツだと思ってくれているからであって、アドネットワーク広告では、絶対にそうならないと思っています。
梅田:あれはまさに数字の世界ですからね。
岡村:そうなると、まさに広告代理店はいらないと思って。アドセンスやアドネットワークのように機械化が進むにつれ、積極的にセールスするのに必要な人数は減ってくると思います。
梅田:アトリビューションなどが出てきて、ストーリーの設計が必要なように、プランニングの視点が入ってこないと人間がやることがなくなる、ということはあると思います。ユーザーが広告をコンテンツの1つとして受け取った、ということも、どういうクリエイティブが入るとユーザーをモチベートできるか、などを考えた結果ですよね。
岡村:ニコニコは独自のバナーを作っていただけるなど、クライアントにも理解していただけることが多いです。しかし最初の頃は、ニコニコでウケるためのクリエイティブの勉強会をクライアント向けに開いたりしていました。
梅田:そういう意味で言うと、ニコ動だけでなく色んなメディアでクリエイティブを変えたほうがいいですよね。
岡村:そこは、メディアなのかツールなのか、という差もあると思っています。
梅田:要はユーザーとの距離。
岡村:機能を提供しているだけのツールであれば汎用的な広告でもいいですが、ニコニコみたいに、なにか面白いことを求めてユーザーが集まってきている場合は、そのメディアの場にあった広告クリエイティブにした方が効果的だと思います。
ユーチューブで動画視聴していると何回かに1回、5秒のCMが流れますよね。あれはニコニコではできないタイプの広告だと思っています。なぜならニコニコ動画は動画視聴のツールでなく、ユーザーがコミュニケーションをするためのメディアなので、視聴、コメントを打つ行為をさえぎるような広告はできません。
梅田:あれはテレビのモデルを見てつくった商品だとは思います。
岡村:ネットとテレビでは視聴姿勢が違います。ネットはより能動なメディアなので、テレビのモデルをそのまま採用することが必ずしも正解だとは思いません。ユーザーの視聴姿勢を無視した安易な商品を積極的に売る傾向が増えてくると、ユーザーのこと考えなくていいのかな、と思ってしまいます。
梅田:「ユーザーとの距離感」の話がありましたが、マスクリエイティブにおける「クオリティの高いクリエイティブを作らないといけない」「反応させるクリエイティブにしなくてはならない」というのは、広告を見てもらえない前提だから。
でも、距離が近ければ広告も見てくれるという前提で作れる。そうするとコミュニケーションできるクリエイティブや施策が主流になってくるかもしれません。これから広告代理店が生き残っていくとしたら、コンテンツの1つとして広告を考える発想が必要、というのがとても面白いと思いました。
※第3回は2月4日(月)にアップの予定です。
【梅田 亮「33歳、現場プロデューサーが考えるエージェンシーの未来」バックナンバー】
- 第7回 エンゲージメントは「広告」ではなく「コミュニケーション」で生まれる。―「ニコニコ動画」さんとの対談(1/21)
- 第6回 “Adverprise”(事業的広告)への拡張。 ―2013年の展望と、プロデューサーとしての抱負 (1/7)
- 第5回 示す、ゆだねる、話し合う、決める、というPDCAサイクル。―プロデューサーの現場から(ももクロファービー篇)(12/25)
- 第4回 流れを読むこと。問題を提起すること。―プロデューサーとしてのソーシャルメディア施策の捉え方(ポカリスエット)(12/10)
- 第3回 「商品も広告の一部」であると考える―商品開発という1つのプロデュース業(ついまる)(11/26)
- 第2回 CGMのダイナミズム「示す力」と「ゆだねる力」の衝撃(11/12)
- 第1回 エージェンシーの未来をプロデュースできるか?(10/29)