こんにちは、博報堂ブランドデザインの宮澤です。
前回は、私たちの部署で大切にしている「リボン思考」についてお話ししました。インプット、コンセプト、アウトプットの3つのステップを経ることが、あらゆる企画の肝になるという考えです。
そして現在、この考え方を実践すべく学生向けブランドデザインコンテスト(略称:BranCo!=ブランコ)を開催しています。この原稿がアップされる頃には、もう最終審査を終えて、優勝チームは副賞の旅行券でどこへ行くかを練っているところでしょう。
さて今回は、もう少しこのコンテストの概要をご紹介しながら、企画の意図や参加学生の反応などをお話ししたいと思います。
学生が取り組む「お土産の新しいブランド」はどうなる?
「BranCo!」は、大学生・大学院生によるチーム対抗のブランディングコンテストです。今回テーマとして掲げた「『お土産』の新しいブランドのデザイン」に、関東の25を超える大学から35チーム、約200人の学生が参加しました。通常の総合大学はもちろん、美大や工学系の大学、また文系・理系入り乱れてのエントリーになったため、とても多彩なメンバー構成となりました。
今回のコンテストでは、「リボン思考」の習得を目的としていたため、前述の「インプット」「コンセプト」「アウトプット」をそれぞれテーマとして、3回のセミナーを開催しました。「リボン思考」は理解するのは簡単ですが、実践するのは容易ではありません。そのため、一方的な講義だけだと学生には使いこなすのが難しいと感じたので、あえて3回に分けて基礎的なレクチャーとワークショップを組み合わせたセミナーを設けることにしたのです。そこで学んだことを活用しながら、各チームで企画を考えてもらう、という仕立てになっています。
さて、「リボン思考」で考えていくことに加え、ブランディングのもうひとつのポイントは、チームでものをつくること、すなわち「共創」のスタイルです。チーム作業は広告業界の伝統でもありましたが、ここ数年ビジネスのあらゆるシーンで「共創」がより強く求められてきています。
通常のビジネスコンテストはどうしてもチームごとの「競争」の方に重きが置かれてしまいます。しかし今回は学生スタッフの強いアドバイスもあり、あえて「共創」の視点も入れ込み、参加者全体でワンチームとしての一体感を出せるようにも配慮しました。たとえば、毎回のセミナーでのワークショップはエントリーしたチームとは関係なく、個人をシャッフルして知らないメンバーとチームを組んでもらい、できるだけ多様な共創体験を行いました。
ねらいは、広告業界の仕事の魅力を伝えること
なぜ、広告会社である私たちがこうしたコンテストの運営を、いわば手弁当で行っているのかというと、ひとつは前回お話ししたとおり、この「リボン思考」がどんな仕事にも役立つ汎用性がありながら、ほとんど教えられていないことに問題意識を持ったから。加えて、コンテストの実施には「ブランディングのおもしろさや重要性を学生に理解してもらうこと」、それを通して「広告業界の仕事の魅力をもっと感じてもらうこと」という意図を込めています。
今、ブランディングは企業経営に直結する重要な業務になっています。実際私たちも、複雑化する企業の課題に取り組んでいるわけですが、その対応領域は狭義の広告やマーケティングという分野を越えて、実に多岐に及んでいます。
でも、今やそんな仕事まで広告業界が担いはじめていることは、まだまだ学生には知られていません。一昔前の広告代理業のイメージを持っているか、はなから無関心かのどちらかがほとんどでしょう。このコンテストを通じて広告業界の認識が変わり、仕事をより魅力に感じてもらえれば。そんな思いを強く持っています。
一方、どうしても各講義が専門的になる大学では、今の社会に求められている統合的な視点を持った人材をどう育成するかという点が、同じく課題になっていました。私たちが2011年度から東大で「東京大学×博報堂 ブランドデザインスタジオ」という授業を持つことになったのにも、こうした背景がありました。
教育界には「Early Exposure(早期体験)」といって、早いうちから社会体験をして自分の進路を探ることが重要だ、とする考えがあり、東大でもこれに力を入れようとしています。どのような仕事のシーンでも役立つ「リボン思考」を実践的に学び、自分たちの企画が世の中にどう受け入れられるのかまで見据えるコンテストは、その点で一定の教育効果があるのではないかと思っています。
驚くべき学生たちの熱量
また、スタートさせてみて実感したのですが、参加学生が本当に熱心で驚きました。途中でのプレゼンを見るにつけ、皆がどれだけ頭をひねり、時間をかけて考え抜いてきたかがよく分かりました。
そもそも学生たちはなぜ、こうしたコンテストに熱心に参加するのでしょうか。
事前に、本コンテストに期待することというアンケートも取りましたが、その回答を見ると、自分のスキルアップをしたい、就職活動に役立てたいといった一般的な意見もありましたが、「普通のマーケティング手法とは違った視点から商品を考え出す思考のプロセスを知りたい」、「ビジネスコンテストとは違ったプランの構築や調査という貴重な経験ができたら」、また「たくさんの人と出会い、自分では思いつかないと思われる視点での物の捉え方に触れ、より広い視野を持つことができる人間へと成長したい」など、最初からかなり意識の高い意見がほとんどでした。
今の若者世代はとかくテンションが低いといわれがちです。しかし、少なくともここに参加しているメンバーにはそんなことは微塵も感じさせない熱さとありあまるほどの情熱を感じます。もちろん、こうしたコンテストに興味を持つ時点で、広告やマーケティングに少なからず関心がある人たちだと思うのですが、その熱意に私たちは予想以上の手ごたえを感じているところです。
ちなみに、このコンテストの運営自体も、私たちが東大で担当している前述の授業の卒業生や過去のインターン経験者などを中心に12人の大学生のスタッフが中心になって行っています。彼ら学生スタッフの素晴らしいアイデアや発想、熱意とやる気にも常に感心しきりでした。
左右に思考を揺らしながらバランスをとっていく
最後に、「BranCo!」というネーミングについても少し。
左脳と右脳に代表されるように、ブランディング作業には様々な側面でバランスが求められます。
たとえば、インプットの段階では、定量情報と定性情報のバランス。コンセプトの段階では、理想感と現実感のバランス。そしてアウトプットの段階では、理性と感性のバランス。一つの思考にとらわれることなく、ブランコのように左右に思考を大きく振らしながらバランスをとっていく。そんな柔軟で広い視野がこれからの広告業界を担っていく若いひとたちには求められると私は考えます。また、そういうひとがもっと入ってくれる業界にしたい、という思いもあります。
つづく第3回~第5回では、実施したセミナーの内容などを交えながら、私たちが何を狙いとし、そして参加学生がどう感じたのかをお伝えしていこうと思います。お楽しみに!
宮澤 正憲「ブランコを漕いでリボンを考える-学生コンテストを通じて見た、企画に大切なこと」
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