先日、超久し振りに宣伝部在籍中に世話になったD通のCMプランナーS氏とランチしました。
17年間もクライアントの立場でCM制作に携わりながら(おそらく仕上げたCMは200本以上に及ぶと思います)、2本以上共に取り組んだプランナーはD通にはS氏を含めて2人しかいません。
そう考えてみると、あの頃の僕は相当なわがままっぷりだったんだじゃないかという疑惑が今更ながらフツフツと沸いてきます。
クラインアントとして持ち上げられるうちにいい気になり、とんでもない勘違いをして周囲と接していた可能性は大です。
深く反省……。
いかにわがままだったかについてはよく覚えていないのですが、何とか売上げに結び付けたい一心で、制作に関わるすべての人が、僕と同じ目線を持ってくれないと不満だったことは確かです。
言わずもかなですが、CMはモノを売るために作っています。したがって、世間の話題になろうが、なんちゃらCC賞をいただこうが、オンエア後に売上げに結びつかないようでは全く意味がありません。もちろん、笑ってもらえたり、感動してもらえば、企業のイメージアップにつながることは否定しませんが、その上で、視聴者の購買意欲を喚起しなければ、駄作と言わざるをえないのです。
厳しいことを言うようで恐縮ですが、この当たり前の現実を忘れてしまっているCMプランナーは意外に多い気がします。
コンテを作る際はクライアントに通すためにも、頭の真ん中に入っているのでしょうが、いざコンテが決まると、目立つことだったり、商品そっちのけでそのCMだけが話題になることにご執心になる気がしてならないのです。
ましてやオンエア後に、そのCMがどれだけ売上げに結びついたかについて検証しているプランナーはどれほどいるでしょう。
いいのが出来た ⇒ じゃあ、次いってみよう、みたいなことになっているのではないかと。もちろん彼らの仕事はCMを作ることですから、それでいいっちゃあいいのかもしれませんが、クライアントの立場からすると少し無責任なのではと、小言の一つも言いたくなります。
S氏のことに話を戻しましょう。
氏との長いつきあいの中で、今でも忘れられないのは、初めて一緒に作ったCMのオンエアが始まって2週間後にかかってきた電話です。
クライアントとプランナーが直接電話で話すことは結構稀なことで、ケータイの画面に表示された氏の名前を見て、一体何事かと困惑しました。
「もしもし……」
「Sですけど、どうです?商品売れてますか?」
普段比較的自信ありげに話す口調からは一変、機嫌を伺うような物言いからもれた言葉に、僕はいたく感激したものです。
幸い、営業からも売り上げが堅調に推移していると報告を受けていたのでその旨を話すと、「よかった……。いや、本当によかったです」と弾んだ声が返ってきて、「また近々発注するから頼むよ」なんて担当営業をすっ飛ばして、つい口走ってしまった次第です。
嬉しかったなあ、そんな気持ちでいてくれたことが……。
仕上がったCMを丁寧に検証することは、必ず次回作に活かされることになります。もちろん、自身の感性が時に否定されることになるのでしょうが、受け止め方の傾向が刻々と変化している世の中で、売れるCMを作るための糧になることは確かです。
したがって、CMプランナーは賞を獲ることなんかよりも、もっとオンエア後の売上について関心を持つべきだと思います。
テレビ番組制作者は視聴率、映画は観客動員数、音楽はCDの売上やダウンロード数といった明確なその出来の良し悪しを判断する指標が存在しますが、広告業界だけはクリエイターが正しく評価されていない気がしてなりません。
まあ、難しいとは思うんですけど……。
伊藤 洋介『伊藤洋介の「こうすればよかったんだぁ」』バックナンバー
- 第7回 商品とタレントがWin-WinになるCM(1/31)
- 第6回 タレント広告、大賛成です(1/24)
- 第5回 CMだって、競合会社に育てられる(1/17)
- 第4回 CMを作るという覚悟(1/10)
- 第3回 広告代理店のこと、信用していますか?(12/20)
- 第2回 CMコンテの調査って必要?(12/13)
- 第1回 勇気を振り絞って苦言を呈する(12/6)