そのキャッチコピー、もう使わないんですか?

いきなりですが、みなさんに質問です。
最近のCMで印象に残っているコピーってありますか?
……残念ながら僕は、この連載で触れたカロリーメイトの「とどけ、熱量」以外浮かんでこないです。
今もこうしてパソコンに向かいながら、改めていろんなCMを思い出してみるのですが、どれも映像だけが蘇ってきて、コピーは全然出てきません。

コピーは、CMの言わば背骨です。
訴求したいことを集約した文言ですから、この良し悪しがCM自体の出来を左右するといっても過言ではありません。
したがって、コピーを決めてから、それが視聴者に伝わるようにコンテ作りに入るのが正しいCMの作り方だと僕は思います。

にもかかわらず、印象に残っているコピーがほとんどないとは、どういうことでしょう。
たまたま僕が触れていないだけ?
いやいや、それはないと思います。
テレビの視聴時間だけは、在宅時間の長い専業主婦と比較しても絶対に負けていませんから。
優れたコピーが生まれていない?
これも違う。
知っている限りでも、優秀な現役のコピーライターはたくさんいますし、したがって心揺さぶられるようなコピーは相変わらずその産声を上げているはずなのです。

当たり前の話ですが、コピーを浸透させるためにはCMを認知してもらうよりも相応のお金が必要です。
端からCMを見るためではなくて、番組を見ようとテレビのスイッチをつけた視聴者に対して、何の前触れもなく唐突に発表するわけですから、一筋縄では行きません。それなりのGRPが必要になります。

で僕が思うに、コピーが浸透しない最大の理由は、クライアントが勝負を焦ってしまうばっかりに堪え性がなくなってしまっているんじゃないかということです。
使ってみたけど効かないから、また新しいものを作ってみるみたいなことになっているのではないかと。

yakiniku

あんなに好きだった焼肉なのに、最近体が欲しない……。

コピーの開発には大変な労力がかかります。
調査結果から、商品の訴求ポイントを抽出し、その上でコピーライターは視聴者に届くように言葉を紡ぎます。そしてその後、誕生した幾通りものコピーをクライアントを含めたスタッフと何度も議論を繰り返して、たった一つに絞り込んでいくのです。
自身の経験を振り返ってみても、この行程にCMを作り上げる上で一番骨を折った気がします。
一旦「これでいい!」と思った翌日に、やっぱりどうもしっくりいかなくて、再びスタッフに集まってもらうなんてことはしょっちゅうでした。
逆にコピーライターの方から、決定後に「こっちの方がよくないですか?」と再度プレゼンを受けたことも……。
まさに産みの苦しみだったわけです。

したがって、コピーと決別する時はいつも苦渋の決断でした。
もうちょっと辛抱すれば、効いてくるんじゃないか……。
あんなに苦労したのに、ここで断念していいものか……。
このまま使い続けた方が、さらに売上は伸びるんじゃないか……。
「さよなら」から始まるステージがあることは理解しながらも、明確な解答に辿り着かなくて、プロマネや広告代理店の意向にすべて委ねてしまったこともあったほどです。

で、現在CM制作に携わっているクライアントの方に問いかけたいのは、せっかく使ったコピーの換え時を見誤ってはいませんか?ってこと。
モノが売れない時代が続いている昨今、早期に結果を求められていることはわかりますが、もう少しだけ我慢してみてはと思うのですがいかがでしょう。
だって、その一言に行き着くために、それはそれは苦労しませんでしたっけ?

伊藤 洋介『伊藤洋介の「こうすればよかったんだぁ」』バックナンバー

伊藤 洋介(東京プリン/マルチクリエイター)
伊藤 洋介(東京プリン/マルチクリエイター)

1963年生まれ、兵庫県出身。慶応大学卒業後、山一證券に入社。同社在籍中にシャインズを結成・デビュー。その後、某製菓会社にて17年にわたりCM制作に従事(09年退社)。シャインズ解散後、東京プリンを結成し、エイベックスからデビュー。全楽曲の作詞を担当する。「携帯哀歌」で97年度有線放送大賞音楽賞を受賞。その後、13枚のシングルと6枚のアルバムを世に創出。
現在、東京プリンとしてアーティストへの詞提供、番組やラジオのパーソナリティ等幅広く活動する他、BeeTV「麻布十番学園」の総合監修を勤め、幻冬舎からBeeTV「麻布十番学園」の書籍化、DVD「ミテルだけ for lady」を発売。ダイエットをコンセプトにした「カロリー気にしてる会?」への詞の提供も行っている。

伊藤 洋介(東京プリン/マルチクリエイター)

1963年生まれ、兵庫県出身。慶応大学卒業後、山一證券に入社。同社在籍中にシャインズを結成・デビュー。その後、某製菓会社にて17年にわたりCM制作に従事(09年退社)。シャインズ解散後、東京プリンを結成し、エイベックスからデビュー。全楽曲の作詞を担当する。「携帯哀歌」で97年度有線放送大賞音楽賞を受賞。その後、13枚のシングルと6枚のアルバムを世に創出。
現在、東京プリンとしてアーティストへの詞提供、番組やラジオのパーソナリティ等幅広く活動する他、BeeTV「麻布十番学園」の総合監修を勤め、幻冬舎からBeeTV「麻布十番学園」の書籍化、DVD「ミテルだけ for lady」を発売。ダイエットをコンセプトにした「カロリー気にしてる会?」への詞の提供も行っている。

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