リサーチだってクリエイティブ!

仮説のないリサーチは宝の山

2タイプの調査とも、マーケティングでは重要ですが、一般的に用いられているのは定量的な検証型調査の方だと思います。「BranCo!」の参加者でも、経済や経営学部でマーケティングを専攻する学生と話をすると、授業やゼミで検証型調査はしっかり学んでいることがわかります。

その半面、探索型調査は一部の学生以外はほとんど触れていませんでした。この調査は非構造型調査とも呼ばれ手法の自由度が高いため、厳密性が求められる学問ではやや扱いにくい側面があります。たとえば検証型調査ではサンプル数の多さやモデルの適合度が求められますが、探索型調査では何らかの発見があればサンプル数1でも成立します。2~3人でもいいので深く質問してみよう、と言うと腑に落ちない顔をしながら「サンプル誤差は考えなくていいのですか?」と聞く学生が多いのも、調査=検証型調査だと思っているからでしょうか。

マーケティング専攻の学生ですら、マーケティングリサーチの知識がやや偏っている人が多いのはちょっと気になりました。実際のビジネスの現場ではどちらの調査も必要ですし、イノベーションが求められる最近のビジネス現場に限ると、むしろ探索型の重要性がより高まっているとも言えるからです。

一方心強かったのは、今回の参加者の中にも、一部の大学やゼミですでにエスノグラフィーや高度な質的なリサーチを学んでいる学生も少数ながら見られたことです。今後もこうした学生が増えてくるのはとても楽しみですが、ほとんどが工学や情報系、デザイン系のゼミなどマーケティングや経営学以外の分野だったりするのはまた興味深いところです。

ふとした瞬間の感情を捉えるには

さて、「BranCo!」に組み込んだインプットセミナーでは、比較的なじみのない探求型調査を取り上げ、対象(たとえばお土産)について「なぜ価値があるのか」といった質問を繰り返す「ラダリング」や、対象との思い出を絵に描いてもらう「絵画法」、対象と自分とを設定して小話を考えてもらう「ストーリー法」などを実際に試してもらいました。こうした深層心理や非言語領域に注目した手法では、思わぬ発見やインサイトが得られることがあります。

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インプットセミナーでリサーチの説明をする博報堂ブランドデザインのメンバー

たとえば、今回のセミナーでは演習テーマとして、ケータイについて相互インタビューしてもらいました。すると、子どもの頃からケータイが身近にある今の学生たちは、ほとんどの人たちがケータイを疎ましく思う傾向があることがわかりました。こうしたちょっと意外な発見は、定量調査ではなかなか見つけにくいものです。

ポイントは、質問力です。セミナー後に取ったアンケートを見ると、質問が肝心だということをよく感じてくれたようでした。また、私が手応えを感じたのは「ふとした瞬間の感情をピックアップするのは意外と難しいことだと思った」という感想です。対話を通して深層心理を引き出すにも、また分析する段階で自分の感覚に向き合ってヒントをつかむのも、仮説や既存の概念に捉われていると難しいものなのです。

今回の運営に携わっている学生スタッフも、セミナーの裏方をしながら参加者の様子を見て「インプットをしっかり見極めてコンセプト立案につなげないと、最終的に企画になったときにアウトプットに重心を置きすぎて一貫性がなくなってしまうと感じた」(早稲田大学 溝口貴大さん)といった感想を持ったそうです。

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インプットセミナーで参加学生がインタビュー時に用いていた手法やツールです

リサーチをもっとワクワクするものに!

探索型調査というと、サンプル数の少ない定性調査が思い浮かびますが、もちろん定量調査でも新しい発見は可能です。たとえば自由回答を多くするというのが一つの方法です。ある企業を「色」や「香り」に例えてくださいといった質問や、「“ちょっと一杯”とは何分ですか?」という変わった数字の質問の仕方などもあります。

ほかにも調査の手法はいろいろとありますが、いずれにしても重要なのは「質問や場を工夫すること」、つまり調査そのものをクリエイティブに設計することです。これは定性調査でも定量調査でも同じで、ありきたりな質問ではありきたりな発見しかでてきません。

今回のコンテストでは、こうしたセミナーを経て、各チームがそれぞれ独自の視点で、新しいリサーチにも挑戦してもらいました。定量でも定性でもいいのでおもしろい調査も考えてほしい、と伝えました。その甲斐あってか、コンテスト本番では、土産をもらったときの男女の感情グラフの変化を時系列で測定したり、土産の“敵”をひたすら調べたり、外国人に突撃インタビューしたり、中にはゲーム仕立てや地図帳を使った調査なんていうのもあり、ユニークな調査がたくさん出てきました。

マーケティングリサーチというと数字先行で、何となく堅苦しくてつまらないイメージがありますが、本来はクリエイティブでワクワクするものだと私は思っています。もっと実際のビジネスでも、独創的でクリエイティブな調査設計をしていきたいものですね。

次回は、インプットに続く「コンセプト立案」のフェーズについてご紹介します。


宮澤 正憲「ブランコを漕いでリボンを考える-学生コンテストを通じて見た、企画に大切なこと」
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宮澤 正憲(博報堂ブランドデザイン リーダー)
宮澤 正憲(博報堂ブランドデザイン リーダー)

1966年生まれ。東京大学文学部心理学科卒。博報堂に入社後、マーケティング局にて食品、自動車、トイレタリー、流通など多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、次世代型ブランドコンサルティングの専門組織である「博報堂ブランドデザイン」を立上げ、 ビジョン策定、企業戦略、新事業開発、CI、VI、商品開発、空間開発、組織開発、人事研修など多彩なブランドビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。

現在、東京大学教養学部にて、共創型教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営中。成蹊大学非常勤講師として「商品・企業ブランド戦略論」を開講。主な著書に、「『応援したくなる企業』の時代」(アスキー・メディアワークス)、「ブランドらしさのつくり方-五感ブランディングの実践」(共著、ダイヤモンド社)、「だから最強チームは『キャンプ』を使う」(共著、インプレスジャパン)、「ドンシュルツの統合マーケティング」(共訳、ダイヤモンド社)、「MBAは本当に役に立つのか」(共著、東洋経済新報社)など多数。

BranCo!公式HP http://www.h-branddesign.com/BranCo/

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宮澤 正憲(博報堂ブランドデザイン リーダー)

1966年生まれ。東京大学文学部心理学科卒。博報堂に入社後、マーケティング局にて食品、自動車、トイレタリー、流通など多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、次世代型ブランドコンサルティングの専門組織である「博報堂ブランドデザイン」を立上げ、 ビジョン策定、企業戦略、新事業開発、CI、VI、商品開発、空間開発、組織開発、人事研修など多彩なブランドビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。

現在、東京大学教養学部にて、共創型教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営中。成蹊大学非常勤講師として「商品・企業ブランド戦略論」を開講。主な著書に、「『応援したくなる企業』の時代」(アスキー・メディアワークス)、「ブランドらしさのつくり方-五感ブランディングの実践」(共著、ダイヤモンド社)、「だから最強チームは『キャンプ』を使う」(共著、インプレスジャパン)、「ドンシュルツの統合マーケティング」(共訳、ダイヤモンド社)、「MBAは本当に役に立つのか」(共著、東洋経済新報社)など多数。

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