楽天銀行が挑戦する“顧客不満足”の見える化

ヒントは顧客の“声なき声”の中にある

開業12年目の転機は外部からの厳しい評価

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2012年から継続してトレインチャンネルの動画広告を出稿。
顧客とのタッチポイントを拡大している。

楽天グループのインターネット専業銀行である楽天銀行は、同社サービスの顧客満足度を高める目的で、現在、全社をあげた取り組みを本格化している。

たとえば、ネット以外のタッチポイントを拡大し、サービスの認知度向上を図るとともに、顧客にとって身近で信頼性の高いサービスとなることを目指すコミュニケーション活動。2012年初めから継続して出稿している、トレインチャンネルの動画広告が例として挙げられる。「カードローン」「住宅ローン」「toto」など5つの商材について、その特徴をアニメーション仕立てで紹介するもので、出稿後は楽天銀行トップページのPV数が10%増となるなど、一定の効果が得られている。

またこの他に、サービス改善のためのヒントとして、顧客の潜在的な不満を把握することを目指す顧客行動分析がある。2012年夏頃からそのためのシステム構築に着手、今年秋頃には本格的に運用をスタートする予定で準備を進めている。

楽天銀行がこうした活動を本格化させるきっかけとなったのは、『日経ビジネス』2012年7月30日号に掲載された「2012年版 アフターサービスランキング」だ。同誌が毎年、独自調査をもとに実施するランキング企画で、今回初めて「銀行(地方銀行は除く)」部門が新設された。ソニー銀行、住信SBIネット銀行、ジャパンネット銀行とネット銀行がトップ3を独占し、3大メガバンクを大きく引き離す中、楽天銀行は同部門最下位の14位という結果に。アフターサービス全体の満足度指数は10.9と、13位のみずほ銀行に約15ポイントもの差をつけられた。

「旧イーバンク時代を含めると、2013年で開業から13年目を迎えます。口座数は410万にのぼり、事業規模と利用度ではネット銀行の中で最大規模。しかし、各種消費者調査やお客さまからいただく声の中には、厳しい評価も見られるのが現状です。この状況を打破するために、今後、特に重要になるのが顧客行動分析だと考えています」と話すのは、システム開発本部 副本部長の大森健一郎氏だ。

あらゆる顧客データを統合し“顧客不満”を見える化する

これまでも、VOC(Voice of Customer)に基づく顧客の声の吸い上げと分析、それに基づくサービスの改善やコミュニケーション戦略の策定には、継続的に取り組んできた。しかし、その分析の対象となるのは、コールセンターに電話をしたり、メールで問い合わせをしたり、メールマガジンに反応したりといった能動的な行動をとる、「アクティブユーザー」のみだった。

「しかし、大部分のお客さまはそうした行動を起こすことなく、不満や疑問を抱えたままサービスを利用していると考えられる。特に近年は、ネットの急速な普及により、年配の方を中心に幅広い層がネット銀行に口座を開設するようになったことから、サービスを十分に活用できずにいる方がさらに増えているはず。多くの口座を抱える当行だからこそ、そうしたユーザー層に注目すべきと考えました」(大森氏)。

まずは、そうした顧客の“声なき声”に耳を傾け、不満を徹底的に洗い出す。そしてそれをもとに、顧客のニーズに応えるべく、サービスを改善していきたい考えだ。

そのために必要なのは「社内に散在しているさまざまなデータの統合と、その包括的な分析」と大森氏は話し、現在はその実現に向け、システムのグランドデザインの検討を進めている。

「オンライン上の取引情報やコールセンターへの問い合わせ内容、ソーシャルメディアへのアクセス状況といった、お客さまにつながるさまざまなデータは、これまでは各データ単体の分析にとどまっていました。これらを包括的に分析することで、顧客行動を見える化し、“顧客不満足”をあぶり出すことができると考えています。これまでは仮説の域を出なかった顧客行動が数値として可視化されることで、特に改善が急がれるポイントに焦点を合わせて、具体的な取り組みを進めることができると思います。

不満が顕在化してから対処するのではなく、より潜在的な段階で不満の種を発見し、対応することもできるかもしれません。さらには、これまで我々が感知できなかったイレギュラーな顧客行動も明らかになるのではと期待しています」(大森氏)。


楽天銀行が昨年夏頃、試験的に運用した顧客行動分析システム。ビッグデータ分析を手掛ける
TISの提案で、実取引データの分析を約2カ月間にわたって実施した。『Adobe Insight』を活用、
取引情報などのオンラインデータと、コールセンターへの問い合わせ内容などの
オフラインデータを一画面上に表示して、横断的な分析を試みている。

「楽天経済圏」の顧客行動データがグループの強みに

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楽天銀行 システム開発本部 副本部長・大森健一郎氏。楽天銀行の今後の顧客満足度向上のためには、顧客行動データの統合・分析が重要なカギになると話す。

こうした分析結果は、今後、具体的なマーケティング施策につながる活用方法を考えていきたいとしている。「たとえば、サイトで表示するコンテンツのお客様ごとの個別最適化が考えられますが、その際には、銀行という業種柄、セールス色だけが強くなることは避けたい。お客さまが知りたいことを知ることができない、ユーザビリティの低いサイトになりかねず、それが新たな不満になって、ブランドイメージの低下につながる恐れもあるからです」。

そうしたことに留意しながら、将来的には、楽天銀行、楽天証券、楽天カード、楽天市場といった“楽天経済圏”の顧客行動データの活用も視野に入れている。顧客満足度の向上に留まらず、収益に資する情報系システムの構築に取り組む予定だ。「現時点では、分析の対象は個人のお客さまとしていますが、今後は、楽天市場の店舗さまをはじめとする法人のお客さまも対象にしていけたら。レギュレーションの観点から、グループ内の連携がどこまで可能かはわかりませんが、当行、そして楽天グループのほかにない強みになり得る取り組みとして、継続的に取り組んでいきたいと考えています」(大森氏)。



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