場所は下北沢。ビールも飲める本屋B&B で、COMMUNICATION SHIFTの最終回のトークショーが2月4日に行われました。
B&Bプロデューサー、雑誌ケトル編集長で博報堂ケトル代表の嶋浩一郎さん。話題と共感を呼ぶテレビCMをつくり続けている、電通コミュニケーション・デザイン・センターの東畑幸多さん。
そして、僕の3人で、広告の未来について、たっぷり話し続けた3時間。
いったりきたりしながら、さまようように、でも、行きたかった場所にはたどりつけたような気がします。
※UP一週遅れてすいません。あまりに濃い内容で、まとめるのに時間がかかりました。
広告の未来の話をしよう。
COMMUNICATION SHIFT
最終回スペシャル!は、
嶋浩一郎さんと東畑幸多さんです。
「僕は、広告の辺境にしかいたことがない」(嶋)
並河:嶋さんは、2003年に書店の店員さんが選ぶ「本屋大賞」を立ち上げられて、どんどん従来の広告の形からは、はみだしていったと思うのですが、自分にとっては、それが広告だったのか、それとも広告じゃないことをやろうとしたのか、そのあたりはどう思われているのかを、まず、うかがいたいです。
嶋:僕は、広告の真ん中にいたことがなくて、辺境にしかいたことがないんですよ、たぶん。
博報堂に入社して、最初にPRコーポレートコミュニケーション局という局に入りました。
PRの局は、何でもやっていい異種格闘技の世界で、クライアントの課題解決のためだったら、それこそ国際会議を開くだとか、学者と一緒に研究するとか、NPOを立ち上げるとか、予算内で解決することだったら何やってもいい、スーパーフリーハンドな世界だったんですよ。
本来、PR(パブリック・リレーションズ)の方がアドバタイジングより上位概念なんです。でも、日本では、クリエイティブディレクターがなぜかめちゃくちゃ偉くて、プレゼンでも、PRパートは、少ししか時間が与えられない。クリエイティブディレクターのプレゼンするCMの企画よりも、自分が考えたアイディアの方が本当は世の中動くはずだ、みたいな、異常なルサンチマンがありましたね。
だけど、いつからか、それを実現できるようになって、いまは広告の世界に異種格闘技の考え方を持ちこもうとしています。
東畑:テレビや新聞を打てばOKという時代は、クリエイティブディレクターを頂点とした、そういうシステムで、うまく回っていたという感じでしたよね。
そういう時代にやや限界が来た中で、嶋さんのような人やPARTYみたいな会社が出てきたり、さらに広告の技術をもっと違うところに活かしたらいいんじゃないか、という並河さんみたいな人が出てきたりして、今は過渡期ですよね。なんでもありの時代になってきている。
僕は割とトラディショナルというか、普通に広告の仕事をしているタイプの人間で。今日は、普通の広告屋として、いろいろと広告の未来について話せたらと思います。
並河:僕は、社会貢献と広告をつなげよう、と、かれこれ10年前くらいからこういう道にいて。今でこそ「ソーシャル」なんて言葉が言われ過ぎているくらい言われていますけど、当時は全然そういう社会貢献とかがあまりメジャーではなくて、僕もこのまま花が咲かないまま死んでいくんだろうなみたいなことを思いながら、日々暮らしていたところ、急にソーシャル分野が注目を集め出した、という感じです。
「プロデュースの力も、表現の力も、本当はどっちもすごく大切」(東畑)
並河:でも、僕も新入社員の頃は、100本ノックと言って、日々、コピーを100本書いたりしていました。
今は、1本のコピーだけで物が売れるわけでもない、このCMだけで売れるわけでもない、だから統合的にキャンペーンをつくることができるプロデューサー的な人がすごく重んじられるように変わってきていますが、逆にコピーライティングの職人の技の伝承がおろそかになっているんじゃないかなと。
そういうコピー職人の技の世界をぶちこわす気持ちで飛び出していった僕が言うのも何なんですが……。
東畑:並河さんとは新入社員のときに一緒の局でしたけど、並河さんといえば、やたらコピーをいっぱい書く人っていう印象がありましたよ。
コピーに関して、最近の傾向として、僕がやや不満に思うのは、今はマーケティングの言葉とか、コンセプトの言葉で止まっているものが多いことなんです。
本当は、それを超えなくちゃいけなくて。プロデュースや企画でエネルギー使っちゃって、表現がないがしろになってはもったいない。
情報がこれだけ溢れている時代に、それでは振り向いてもらえない。
プロデュースの力も、表現の力も、本当はどっちもすごく大切なんじゃないかと。
嶋:この業界のよくないところは、ひとつ流行るとみんなそれをやればいいという風になっちゃうところ。
インテグレーション・キャンペーンの時代だ、みたいなことになると、みんなインテグレーション・キャンペーンをつくれ、と。ソーシャルもそうでしょう。
ひとつの方向に全員来ちゃうのは、よくないですよ。
東畑:むしろ、みんながあっちに向かうなら、逆の方向のこっちのほうが面白いんじゃないか、そういう考え方のほうが、広告屋らしいと思うんですけどね。
「気づきの視点を与えることができるのが、広告的な視点」(東畑)
東畑:ブータンという国では、「国民総幸福量」(GNH)という概念を国王が提唱しているんですよね。
自分達は欧米化するのではなくて、「幸せ」という価値基準でやっていきます、という価値観を表明したら、「ブータン、世界の中で、いい感じに目立ってきたな」という状態になっている。
コピーについて話せば、言葉のテクニックよりも、「こういう風に見たら、これって実は良く見えるよね」とか、「こういう概念があったら世の中良くなるよね」みたいな気づきがすごく大事で。そういう気づきの視点を与えることができるのが、広告的な視点なんじゃないかなと思います。
例えば、「老眼鏡」ってあるけれど、あれ名前が良くないですよね。たとえば、「リーディング・グラス」と呼んでみたら、知的な人がかけるものに変わるかもしれない。「リーディング・グラスまだかけてないの?」みたいな。
嶋:いいですね。B&Bに売り場つくろう。リーディング・グラス売り場。
「一瞬芸ではなく、装置を作りたくなっちゃうんですよね」(嶋)
並河:ブータンの国民総幸福量も、嶋さんの本屋大賞も、ただのコピーではなくて、アクションを伴ったものになっているから機能している。
東畑さんは、CMという表現を磨き上げることで、社会的な革命が起きるというのを信じているのか、そうではないのか……。そこ、今日聞きたいなぁと思っていたポイントの一つなんです。
東畑:CMで、社会的革命を起こそう、とは申し訳ないですけど思ってないです。
でも、たとえば、九州新幹線のCMなら、九州みんなにとっての「良い出来事」をつくることはできた、と思っています。
並河:九州新幹線のCMは、九州新幹線と世の中との絆を本当に生みだすことができていて、そういうCMは、本当に稀なことだし、すごいことだと思います。
きっと、僕自身がああいうキャンペーンをやるとしたら、「みんなでウェーブをする」というイベントが、九州の観光の集客につながるように、継続的なプロジェクトとしてのカタチを考えてしまう気がします。
嶋:わかりますね、装置を作りたくなっちゃうんですよね、プラットフォームとか。
広告って一瞬芸じゃないですか。僕は、一瞬芸であるより、装置を作ることに興味があるんですよね。
東畑: 今の時代って、その人が、どういうことに興味を持っていて、どういうことに対して欲望を持っているのかっていうのを、そのまま仕事に活かせる時代になってきている気がします。
「これが大好きだ」っていうのを仕事に結びつけていくってことが、自分の「売り」になる時代になってきているんじゃないかと。
だから、「装置を残したい」っていう人は、「装置づくり」をやっていけばいいし、「表現をつくりたい」っていう人は、「表現づくり」をやっていけばいいし。
広告の世界の中での解決策は、幅や選択肢が多ければ多いほど、僕は面白いと思うんです。
後編に続きます。
並河 進「広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT」バックナンバー
- 東畑幸多さんと嶋浩一郎さんに聞くCOMMUNICATION SHIFT最終回イベント、速報レポート(2/6)
- 石川淳哉さんに聞く(前編)「ラブとパワー。」(1/23)
- 今村直樹さんに聞く(前編)「広告づくりとは、一体感である」(1/9)
- 世紀の奇祭「セルフ祭」に学ぶ(前編)「広告をセルフにしたらどうだろう?」(12/19)
- 選挙直前スペシャル!鈴木菜央さんに聞く「投票率向上のために、コミュニケーションの力にできること」(12/12)
- 矢嶋健二さんに聞く(前編)「ゼロから市場をつくりたい」(11/28)
- 松倉早星さんに聞く(前編)「解決しない広告」(11/7)
- 佐藤尚之(さとなお)さんに聞く(前編)「効率じゃないコミュニケーションへ」(10/24)
- 丸原孝紀さんに聞く(前編)「ホットパンツで革命を」(10/3)
- 箭内道彦さんに聞く(前編)「バラバラになった日本を、広告の技と愛でつなげたら」(9/19)
- 中村洋基さんに聞く(前編)「世界をつまらなくしているものに抗いつづける」(9/5)
- 永井一史さんに聞く(前編)「デザインとは、もともと社会をよくするためのもの」(8/22)
- 澤本嘉光さんに聞く(前編)「広告の未来は、広告をつくっている僕らが決めることができる」(8/1)