自然エネルギーの活用を通じて地域の自立を進める「会津自然エネルギー機構」が発足した。機構の会長には、喜多方市の大和川酒造店の9代目、佐藤彌右衛門氏が、副会長には三島町の奥会津書房の遠藤由美子氏がそれぞれ就任。理事には、通信技術会社の日本法人の元社長から、市議会議員、町づくりNPOの代表や元高校教師まで、さまざまな経歴の人々が名を連ねた。
2013年2月20日、会津若松市で開かれた設立総会には、再生可能エネルギーの活用を考える農家や個人、銀行員、市役所や県のエネルギー担当者といった様々な分野の20代から70代までの男女が参加した。
電力会社の設立も視野に
事務局長の工藤清敏氏によれば、「当初120席用意したイスが足りなくなり、急きょ20席ほど追加した」といい、活動に対する住民の関心の高さがうかがえた。
機構では、自然エネルギーの導入推進に向けた勉強会やセミナーを開催する予定だ。まず、3月23日には、埼玉県でバイオガス発電に取り組む農家を講師に迎え、農家のバイオガス発電についての勉強会を行う。また、3月26日には、自然エネルギーについての勉強会も計画しているという。
このほか、電力自給に関する調査や研究を行うとともに、発電に取り組もうという団体や住民を技術や資金などの面から支援する活動も予定している。さらに、将来は電力会社も設立し、地域のエネルギー自給を促進する方針だ。
会津だからできること
工藤氏によれば、東日本大震災後、各地で支援活動に当たっていた人たちがさまざまな会議で顔を合わせるなかで、原発に換わるエネルギーについても話が及ぶようになったことが、機構設立のきっかけとなったという。2011年7月からは、会津で市民会議やシンポジウムなどを20回以上重ねて議論を深めながら、機構の設立に向けた準備を進めてきた。
副会長の遠藤氏は言う。
原子力発電に拠らない暮らしを掲げたシンポジウム等を重ねる中で、会津の役割として自然エネルギーによる地域の自立に向けた取り組みが必要であるとの合意が生まれました。そのなかで、補助金頼みのメガソーラーなどとは違った仕組みで長期に渡って次世代につなげていけるものをつくることという考えが生まれ、それをベースに1年以上議論を重ねてきました。
その結果、もの考え方、政治経済、社会の仕組みについて、パラダイムシフトが始まっている今、エネルギー供給の在り方も根本から見直す必要があるとの認識を強くしています。幸いにして会津は地熱や水力など自然エネルギーが豊富なことから、会津でできることは会津でやろうという結論に達し、今回の機構設立に至りました」
小さな単位で個性を発揮
ただし、会津と一言で言っても対象となる地域は広く、それぞれの地域によって特性が違う。そこで、遠藤氏らは「一律の仕組みを適用するのは現実的ではありません。それぞれの地域の事情に合った、小さくても着実に実施できる持続可能な仕組みを作ることが大切」と考えているという。
すでに小グループでの動きも始まっているようで、南会津、三島町、会津若松などでは、元大学教授や他の地域から移住してきた若者など、多様な人々がリーダーとなって、勉強会などを続けているという。「こうした志ある人たちが佐藤会長の下に集まってきており、今後は、インターネット、SNSなどの活用を拡大し、発信力を高めながら、そうした人たちのネットワークを強化していく」(遠藤氏)考えだ。
市民が主導する自然エネルギーとしては、「おひさまエネルギーファとしては、「おひさまエネルギーファンド」があるが、遠藤氏は、会津ではほかにも新しい仕組みを構築したいと考えており、「まだ内容は公開できないが、具体的な仕組みづくりも進めている」という。
自立心旺盛な会津の精神
今後の展望について、会長の佐藤彌右衛門氏は、次のように語った。
「会津は雪国で、冬の間に周辺の山々に降った雪が春になると山林を潤し川となって猪苗代湖、沼沢沼、奥只見湖に流れ込湖を満たします。また、幾多の沢から大小の流れがあり、小水力発電が可能な場所が数多くあります。それらの水は伏流水、地下水となって盆地の地下に流れています。会津盆地はその地下に水を溜め込んだ巨大な水がめを持っているのです。さらに、これから注目すべきは地熱です。ただし、我々は軽装備で出来る技術を開発していきたいと考えています」
そうした技術人材の育成については、「福島県再生可能エネルギー事業ネット」とも恊働しながら進めて行く計画とのこと。資金面では、地元金融機関をはじめ、福島県全域、全国からも支援を集められる仕組みを目指す。たとえば、出資者には利益分配として会津の特産品や観光名所へのサービス券等を届けるといった会津の魅力を配当する仕組みを構想中とのことだ。
また、「若松の武家文化や喜多方や坂下の商人の経済力を背景にした豊かな伝統、そのベースとして何より大事にされてきた思いやりと自立の精神」は会津自然エネルギー機構の発展を後押しするものだという。
自立した個人や地域のネットワーク
工藤氏は、この活動は、自然エネルギーの利用促進を通じ、地域の自立を進めるプロジェクトだという。
「大手の電力会社に依存するのではなく、一般の家庭や農家が再生可能なエネルギーを使った発電所機能を持ち、地域の電力需要を賄える環境を作ることで、地域や個人の自立を図る。さらに、そうした小さい組織のネットワーク化を図ることで、持続可能な社会を実現する。そこにこのプロジェクトが目指すゴールがある」と語った。
自律分散型エネルギーの推進は、単に大手電力会社へのエネルギーの依存を減らすことだけではなく、自立した個人や地域のネットワーク社会への構造変換を意味しているといえそうだ。
取材協力:工藤 清敏 会津自然エネルギー機構事務局長、遠藤 由美子 会津自然エネルギー機構副会長、佐藤 弥右衛門 会津自然エネルギー機構会長
※『環境会議』2013年春号(3月5日発売)でもお読みいただけます。
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