アウトプットのカギは思考の振れ幅

こんにちは、宮澤です。さて、今回はリボン思考の最後のフェーズ、「アウトプット」について考えていきたいと思います。

ここでいう「アウトプット」とは、いわゆるアイデアを最終的ななんらかの形やアクションにすることを指していますが、商品やサービス、空間といった有形のものだけでなく、組織デザインなどの無形のものも含みます。このアウトプットのフェーズでポイントになるのは、様々な要素を「行き来して考えること」です。相反する視点の間をブランコのように行ったり来たりして考えることで、より魅力的なアウトプットを導き出すことができます。今回は、アウトプットを考える上で重要となる、ブランコのような3つの思考の“振れ”について考えていきたいと思います。

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アウトプットは、コンセプトを目に見えるアクションや形にするフェーズ。

コンセプトとアウトプットを行き来する

最初のブランコは、コンセプトとアウトプットを行き来することです。

前回の「コンセプト」編では、よいコンセプトの条件として、共有力、期待力、起点力の“3K”を挙げました。この中で、アウトプットに特に関係するのは「起点力」です。よいコンセプトとは、それを聞いただけでアウトプットのアイデアが自然とどんどん膨らんでいくものです。

ただ、経験があまりない中で、いきなり優れたコンセプトを生み出すのは容易ではありません。そうした場合はまずアウトプットをつくってみてから、コンセプトに戻るという方法が有効です。アウトプットをつくってみなければ、元になるコンセプトのよしあしがわからないことも往々にしてあるので、いけそうだと思ったらまず形にしてみる、手を動かしてみる。それから、もう一度コンセプトに立ち返って検証する、そんな作業が役立ちます。

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ひとまず目に見える形にしながら、コンセプトと合っているかを考える、その繰り返しでアイデアを固めていきます。

そこで効果的なのがプロトタイピングという考え方です。日本語でプロトタイプと聞くと、完成度の高い試作品のようなものをイメージするかもしれませんが、ブランディングやアイデア開発で必要とされるプロトタイプは、スピード優先で完成度は二の次のラピッドプロトタイピングと呼ばれるものです。ここでは精密さは不要ですし、必ずしも立体物でなくてもかまいません。むしろ、簡単に絵を描く程度の精度の低いものでいいので、まず手を動かしてみることが重要となります。

とりあえず形にして、コンセプトと照らし合わせて失敗点をなるべく早く見つけ、また直して、というサイクルを重ねることでアウトプットがどんどん明確になっていきます。また、プロトタイピングがうまく進まない場合は、コンセプトそのものがよくないことが多いので、そんなときは、もう一度コンセプト立案のフェーズに戻って考え直します。

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ブランドデザインのメンバーが作成したプロトタイプ。精度を極めるより、とにかく作ってみることが大事です。

どんなシーンで何を感じてもらうのが効果的か

2つ目のブランコは、メディアとコンテンツを行き来すること。言い換えれば、どの接点でどんな内容を表現すればよいのか、を考えることです。

商品やサービスそのものはもちろん、広告やWebサイト、ロゴ、店舗やアフターサービスのオペレーターの印象まで、生活者が商品やサービスと出会う場所は数多くあります。ブランディングの世界ではこれを「接点」と呼びます。接点はさまざまなところにあり、接点から発想して何を表現するかを考えてもいいですし、逆にアイデアありきでそのアイデアならばどこで接触すればいいかを考えてもいい。それぞれの接点に適した内容がありますから、どちらを起点にした場合でも、両方の視点を行き来して検証していきます。

これには、生活者の動線を考えて発想する「ストーリーボード」や「カスタマージャーニー」などの手法で考えていくことができます。たとえばケータイを題材にした「BranCo!」参加者向けのアウトプットセミナーでは、ワークショップにて、生活者がどんなシーンでそのケータイに接するかを絵に表してみる「ストーリーボード」をつくってみました。生活者の動きを考え、ブランドとの接点が視覚的に明確になると、どんな気持ちかもイメージでき、適したメッセージを推測することにもつながります。

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参加学生が実際にストーリーボードを作成しているところ。どのようなシーンで生活者との接点があるか、頭で考えるだけでなく実際に描いてみます。

アウトプットセミナーで、学生がアウトプットしたものを見ていると、「何を」というコンテンツに関してはとても自由で柔軟と感じることが多かった一方で、「どこで」という接点に関しては、ほとんどがアプリという発想だけに終始してしまうのは気になりました。

今の学生には、それだけアプリが生活に密着しているということなのかもしれませんが、私たちが1日を過ごす間には実にさまざまなところで商品やサービスとの接点があります。学生に限らず企画の仕事の現場でも、それは同じです。特に今、デジタルやネット系を中心にアプリ以外の新しいメディアがどんどん出てきていますから、これらの知識が十分にないと新しい接点を思いつくこと自体が困難になります。接点のアイデアは幅広いものですから、もっと視野を広げて、自由に考えていきたいところです。
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私たちは日々、さまざまな接点でブランドに触れています。接点×表現の組み合わせが積み重なり、ブランドが構築されていきます。

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宮澤 正憲(博報堂ブランドデザイン リーダー)
宮澤 正憲(博報堂ブランドデザイン リーダー)

1966年生まれ。東京大学文学部心理学科卒。博報堂に入社後、マーケティング局にて食品、自動車、トイレタリー、流通など多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、次世代型ブランドコンサルティングの専門組織である「博報堂ブランドデザイン」を立上げ、 ビジョン策定、企業戦略、新事業開発、CI、VI、商品開発、空間開発、組織開発、人事研修など多彩なブランドビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。

現在、東京大学教養学部にて、共創型教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営中。成蹊大学非常勤講師として「商品・企業ブランド戦略論」を開講。主な著書に、「『応援したくなる企業』の時代」(アスキー・メディアワークス)、「ブランドらしさのつくり方-五感ブランディングの実践」(共著、ダイヤモンド社)、「だから最強チームは『キャンプ』を使う」(共著、インプレスジャパン)、「ドンシュルツの統合マーケティング」(共訳、ダイヤモンド社)、「MBAは本当に役に立つのか」(共著、東洋経済新報社)など多数。

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宮澤 正憲(博報堂ブランドデザイン リーダー)

1966年生まれ。東京大学文学部心理学科卒。博報堂に入社後、マーケティング局にて食品、自動車、トイレタリー、流通など多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、次世代型ブランドコンサルティングの専門組織である「博報堂ブランドデザイン」を立上げ、 ビジョン策定、企業戦略、新事業開発、CI、VI、商品開発、空間開発、組織開発、人事研修など多彩なブランドビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。

現在、東京大学教養学部にて、共創型教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営中。成蹊大学非常勤講師として「商品・企業ブランド戦略論」を開講。主な著書に、「『応援したくなる企業』の時代」(アスキー・メディアワークス)、「ブランドらしさのつくり方-五感ブランディングの実践」(共著、ダイヤモンド社)、「だから最強チームは『キャンプ』を使う」(共著、インプレスジャパン)、「ドンシュルツの統合マーケティング」(共訳、ダイヤモンド社)、「MBAは本当に役に立つのか」(共著、東洋経済新報社)など多数。

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