論理的に説明でき、かつ美しいデザイン
それから、3つ目のブランコは、理性と感性を行き来することです。
アウトプットの形、つまりデザインは感性が重要です。できあがったデザインを見る人はそれを感覚で受け止めるので、いくら論理的に説明ができたとしても、パッと見て好印象を持ってもらえなければ仕方がありません。当たり前ですが、直感的に美しいと感じたりかっこよく見えたり、何か気になる存在感を持っていたりすることが、とても大事です。
かといって、「なんとなくいい」という感覚だけで企画が通るほどビジネスは甘くありません。特に、ブランドを象徴するCIやパッケージデザインなどを手がける際には、なぜこのデザインがいいのか、どういう意味を込めるのか、機能性はどこにあるのか、といった点も論理的に積み上げて考えなければいけません。また、関係者に向けてデザインを理性的に説明する責任も発生します。ビジネスにおいては、デザインといえど理屈っぽい視点も求められているのです。
このようにアウトプットにおいては、論理的アイデアと美的アイデアの両方が必要なので、理性で考え、感性で見つめ直し、またその逆を試みたりして、両方の視点を行き来しながら最終的な形を探っていきます。理性と感性のブランコは、よいアウトプットを生み出す上での必須作業なのです。
アウトプットはあくまでコンセプトの表現手段
ここまで、3つの“ブランコ”を紹介しました。このように、アウトプットはいろいろな思考の振れ幅を意識しながら、つくったり壊したりして探っていくことがカギになります。でも、冒頭でもお話ししましたが、ブレてはいけないのは、すべてのアウトプットはひとつのコンセプトが起点になっていることです。アウトプットを導き出すブレストや作業が盛り上がると、しばしば、単なるおもしろアイデアを出しているだけになってしまうことがあります。しかしそれは、決してよいアウトプットとはいえないでしょう。
どんなにすばらしいアウトプットも、コンセプトの表現手段に過ぎません。人がそれを見て感動するのは、表面的なデザインや奇抜なアイデアに共感するのではなく、その背景にあるコンセプトや思想に心を動かされているからなのです。そこを見誤って、ただの一発おもしろアイデアを採用したとしても、ブランドをつくることはできないのです。なぜなら、それは一時的に話題にはなるかもしれませんが、あくまでも一過性に過ぎず、中長期にわたって資産が蓄積するアウトプットにはならないからです。
さて、学生向けのワークショップでは、前回のコンセプトワークショップで挙がったケータイのコンセプトからいくつかを抜粋し、まずそのストーリーボードをつくってみました。そして、実際のネーミングとCIデザイン、またそれらをシンボリックに表すおもしろい場所でのコンテンツを考えてもらいました。
セミナーでは、プロトタイピングなどの実践的なワークショップを行ったため、手を動かす作業に刺激を受けた人が多かったようです。「アウトプットは普段頭で考えることがメインで手を動かすことが少ない学生には難しかったですが、手を動かすことで考えがより深まることを体験できました」(東京大学 山田千滉さん)といったコメントをはじめとして、「プロトタイプを簡易的に作ってフィードバックを得、また作り直すという行程を早くたくさん回すことでアイデアが実際に広がっていくという体験ができて、とても驚いた」、「アウトプットセミナーでは、実際に自分でどんなものであれ、とにかく形に落とし込まなければ話が進まなく、産みの難しさを感じた」といった実感のこもった感想が複数ありました。参加した学生もまた、難しさと楽しさの間を行き来する感情のブランコを体験してもらったようでした。
さて、いよいよ次回は最終回。
1月末に開催した「BranCo!」最終審査の模様をお送りします。お楽しみに!
宮澤 正憲「ブランコを漕いでリボンを考える-学生コンテストを通じて見た、企画に大切なこと」
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