アウトプットのカギは思考の振れ幅

論理的に説明でき、かつ美しいデザイン

それから、3つ目のブランコは、理性と感性を行き来することです。

アウトプットの形、つまりデザインは感性が重要です。できあがったデザインを見る人はそれを感覚で受け止めるので、いくら論理的に説明ができたとしても、パッと見て好印象を持ってもらえなければ仕方がありません。当たり前ですが、直感的に美しいと感じたりかっこよく見えたり、何か気になる存在感を持っていたりすることが、とても大事です。

かといって、「なんとなくいい」という感覚だけで企画が通るほどビジネスは甘くありません。特に、ブランドを象徴するCIやパッケージデザインなどを手がける際には、なぜこのデザインがいいのか、どういう意味を込めるのか、機能性はどこにあるのか、といった点も論理的に積み上げて考えなければいけません。また、関係者に向けてデザインを理性的に説明する責任も発生します。ビジネスにおいては、デザインといえど理屈っぽい視点も求められているのです。

このようにアウトプットにおいては、論理的アイデアと美的アイデアの両方が必要なので、理性で考え、感性で見つめ直し、またその逆を試みたりして、両方の視点を行き来しながら最終的な形を探っていきます。理性と感性のブランコは、よいアウトプットを生み出す上での必須作業なのです。

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2008年から採用している博報堂のCI「BigColon」。 通常CIには論理と感性の両側面の要素が凝縮されています。

アウトプットはあくまでコンセプトの表現手段

ここまで、3つの“ブランコ”を紹介しました。このように、アウトプットはいろいろな思考の振れ幅を意識しながら、つくったり壊したりして探っていくことがカギになります。でも、冒頭でもお話ししましたが、ブレてはいけないのは、すべてのアウトプットはひとつのコンセプトが起点になっていることです。アウトプットを導き出すブレストや作業が盛り上がると、しばしば、単なるおもしろアイデアを出しているだけになってしまうことがあります。しかしそれは、決してよいアウトプットとはいえないでしょう。

どんなにすばらしいアウトプットも、コンセプトの表現手段に過ぎません。人がそれを見て感動するのは、表面的なデザインや奇抜なアイデアに共感するのではなく、その背景にあるコンセプトや思想に心を動かされているからなのです。そこを見誤って、ただの一発おもしろアイデアを採用したとしても、ブランドをつくることはできないのです。なぜなら、それは一時的に話題にはなるかもしれませんが、あくまでも一過性に過ぎず、中長期にわたって資産が蓄積するアウトプットにはならないからです。

さて、学生向けのワークショップでは、前回のコンセプトワークショップで挙がったケータイのコンセプトからいくつかを抜粋し、まずそのストーリーボードをつくってみました。そして、実際のネーミングとCIデザイン、またそれらをシンボリックに表すおもしろい場所でのコンテンツを考えてもらいました。

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博報堂ブランドデザインのメンバーがレクチャーを行ったアウトプットセミナー。参加学生はみんな熱心に取り組んでいました。

セミナーでは、プロトタイピングなどの実践的なワークショップを行ったため、手を動かす作業に刺激を受けた人が多かったようです。「アウトプットは普段頭で考えることがメインで手を動かすことが少ない学生には難しかったですが、手を動かすことで考えがより深まることを体験できました」(東京大学 山田千滉さん)といったコメントをはじめとして、「プロトタイプを簡易的に作ってフィードバックを得、また作り直すという行程を早くたくさん回すことでアイデアが実際に広がっていくという体験ができて、とても驚いた」、「アウトプットセミナーでは、実際に自分でどんなものであれ、とにかく形に落とし込まなければ話が進まなく、産みの難しさを感じた」といった実感のこもった感想が複数ありました。参加した学生もまた、難しさと楽しさの間を行き来する感情のブランコを体験してもらったようでした。

さて、いよいよ次回は最終回。
1月末に開催した「BranCo!」最終審査の模様をお送りします。お楽しみに!


宮澤 正憲「ブランコを漕いでリボンを考える-学生コンテストを通じて見た、企画に大切なこと」
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宮澤 正憲(博報堂ブランドデザイン リーダー)
宮澤 正憲(博報堂ブランドデザイン リーダー)

1966年生まれ。東京大学文学部心理学科卒。博報堂に入社後、マーケティング局にて食品、自動車、トイレタリー、流通など多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、次世代型ブランドコンサルティングの専門組織である「博報堂ブランドデザイン」を立上げ、 ビジョン策定、企業戦略、新事業開発、CI、VI、商品開発、空間開発、組織開発、人事研修など多彩なブランドビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。

現在、東京大学教養学部にて、共創型教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営中。成蹊大学非常勤講師として「商品・企業ブランド戦略論」を開講。主な著書に、「『応援したくなる企業』の時代」(アスキー・メディアワークス)、「ブランドらしさのつくり方-五感ブランディングの実践」(共著、ダイヤモンド社)、「だから最強チームは『キャンプ』を使う」(共著、インプレスジャパン)、「ドンシュルツの統合マーケティング」(共訳、ダイヤモンド社)、「MBAは本当に役に立つのか」(共著、東洋経済新報社)など多数。

BranCo!公式HP http://www.h-branddesign.com/BranCo/

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宮澤 正憲(博報堂ブランドデザイン リーダー)

1966年生まれ。東京大学文学部心理学科卒。博報堂に入社後、マーケティング局にて食品、自動車、トイレタリー、流通など多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、次世代型ブランドコンサルティングの専門組織である「博報堂ブランドデザイン」を立上げ、 ビジョン策定、企業戦略、新事業開発、CI、VI、商品開発、空間開発、組織開発、人事研修など多彩なブランドビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。

現在、東京大学教養学部にて、共創型教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営中。成蹊大学非常勤講師として「商品・企業ブランド戦略論」を開講。主な著書に、「『応援したくなる企業』の時代」(アスキー・メディアワークス)、「ブランドらしさのつくり方-五感ブランディングの実践」(共著、ダイヤモンド社)、「だから最強チームは『キャンプ』を使う」(共著、インプレスジャパン)、「ドンシュルツの統合マーケティング」(共訳、ダイヤモンド社)、「MBAは本当に役に立つのか」(共著、東洋経済新報社)など多数。

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