米陸軍幹部から漏れた最高機密
一部の報道機関によって最近、米ハワイ州の連邦地検が今月18日に、米軍の核兵器配置などに関する国家的機密情報を中国の女に漏らしたとして、同州在住の元米陸軍将校の男を逮捕、訴追したと発表した。
中国は、これまでも尖閣諸島問題にからんで領空・領海侵犯を度重ねて実行し、レーダー照射問題などの件でも広く報道され、日本の安全保障の視点からも課題が多い。さらに、サイバーインテリジェンスを用いた米国などへのITインフラへの攻撃についても、昨今、米セキュリティ企業などから中国人民解放軍の関与が話題となっている。
一方、事業分野においては、「平成24年の知的財産侵害物品の差止実績」(財務省3月1日発表)によれば、全国の税関における偽ブランド品などの知的財産侵害物品の差止件数は過去最高(2万6607件)を記録、輸入差止点数も前年に比べ53.5%増の111万7592点となった。特に、中国来の輸入差止件数が2万5007件に増加し、仕出国別構成比では、過去10年間の経緯と比較すると、平成14年の7.9%から11.9倍の94%に大幅に増加し、中国来への一極化が顕著となっている。これは、平成14年度の最大差止仕出国であった韓国(76.4%)が平成24年度では1.0%に急激に減少した点と比べ、逆の現象となっている。
製品別に検証すると、医薬品、携帯電話及び付属品、玩具類、コンピュータ製品の差止めが増加しており、その中でも消費者の安全を脅かす危険性の高い医薬品の輸入差止点数は39万点に及び、前年の実績と比べ7.3 倍と大幅に増加した。このように、商標権、特許権、著作権、意匠権などの侵害は、もはや中国の代名詞となっている。
さて、今回の米ハワイ州の連邦地検による元米陸軍将校の逮捕は、報道としては大きい扱いではなかったが、いわゆるハニートラップによる女性スパイによる諜報活動(エスピオナージ)そのものは、中国の最も得意な戦略活動であり、この視点からこの事件は簡単に看過するわけにはいかない。この中国の女は、学生ビザで滞在し、ハワイで開かれた防衛関係の会議でこの元将校と知り合いになったが、連邦地検の捜査当局は「女は機密情報を知る立場の人物に接近するため、会議に出席した可能性が高い」としている。
今回漏れた情報には、核兵器の配置、米国の弾道ミサイル探知能力、太平洋地域の早期警戒レーダー網などの最高機密情報があり、日本の安全保障を脅かす情報も含まれていた。今年に入り、名指しで「中国」への警戒を高めてきた米国にとって、対「中国」防衛戦略の一部が、諜報活動によって漏れた事実は大きい。
この事件では、国家の機密情報が漏れるという事態であったが、ここ数年、国内の大企業から中国関係者による機密情報の盗取の可能性に関して当社への問い合わせも急増している。
大企業の中には勤勉でスマートな中国人を積極的に雇用し、場合によっては最初から重要なポストにつける事例も増えている。海外の子会社社長の秘書や役員に抜擢される事例も少なくない。当然ながら職場の周辺環境として、自らが高度なアクセス権を有する立場となるか、有する立場の者の近くにいて、それに触れるチャンスが発生している。ハニートラップにより経営層からパスワードやIDを入手し、役員級の権限者のなりすましによる不正なアクセスを実行する事例も確認されている。
問題なのは、多くの場合、入社時のバックグラウンドチェックがほとんどされていないことである。通常、反社会的勢力への関与や帰属、行動規範に抵触する行為をしない誓約書を提出させていることが一般的で、個々の人物の背景などの情報については盲点となっている。
日本企業の持つ知的財産は中国から見れば「宝の山」だ。外部からの標的型サイバー攻撃やソーシャル・エンジニアリング、内部からのハニートラップや不正な持ち出しなど、企業の対策はまだまだ未整備である。本格的な諜報活動(エスピオナージ)の世界では、いわゆる個人情報保護などで奨励されている4つの安全管理措置(人的、組織的、物理的、技術的安全管理措置をいう)を徹底しても完全ではない。諜報活動によって生じるターゲット役職員のマインド・コントロールなどについては、役職員間の相互監視や特別なコンプライアンスプログラムが必要だ。
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